原因不明の重病
「翠葉・・・大丈夫...?...」
翠葉は昨日から寝込んでいた。昨日の朝、いつも通り、薬草を取りに行こうと誘いに翠葉の家に行くと、翠葉の母、月葉が家の前にいた。
「翠葉のお母さん、おはよぅっ、翠葉は?どうしていないの?」
毎日毎日、いつも家の前で美並を待ってくれてる翠葉がいない。美並は不安になる。そんな美並の小さな頭をそっと撫でると、月葉は宥めるように、静かに言う。
「翠葉はね、熱が出てるの。それも高熱。美並、今日は薬草は取りに行かなくていい。代わりにあの子の側にいてあげてちょうだい...」
月葉は、心配の色を隠しきれずにいながらも、すっと息を飲み込み、視線を持ち上げた。揺らぎの向こう側に覗いたのは、覚悟を決めた者だけが持つ、鋭く揺るぎない光だった。
・・・翠葉のお母さんも大変だね、翠葉のことが心配で、でも、私が不安にならないように、安心させようとしてくれてる...。
翠葉の寝台の前で、美並は翠葉を見る。熱のせいで苦しそうに息を乱し、はぁはぁと呼吸を荒らげていた。少しでも楽になるようにと、おでこに乗せる濡れタオルを水で冷やし直して乗せ、首筋や手、腕の汗を拭ってあげる。それでも翠葉の苦しそうな様子は変わらず、まるで悪夢に魘されているかのように、小さな声で何かを呟き続けていた。
「辛いよね...翠葉...。私は、ここにいるよ」
美並は翠葉の手をギュッと握る。
「熱いっ...!」
美並はあまりの熱さに驚いて、思わず翠葉の手から両手を離す。
「翠葉・・・!」
美並の目に涙が浮かぶ。美並の存在に気づいた翠葉は、苦しそうに顔を横に向けてこちらを見る。そしてどこか愛おしそうに美並へ笑いかけた。
「美並・・・大好きだよ」
その笑顔はどこか儚く、今にも消えてしまいそうだった。
「ぇ突然どうしたの?ねえ!や、やめてよ!それじゃあ、まるで死んじゃうみたいじゃん!」
言わまいとしてたのに、自分が言ってしまった言葉に、ギョッとして、美並は思わず口を両手で押さえる。
「ごめん翠葉。思わず」
翠葉は可笑しそうにくすくすと笑った。美並は複雑な気持ちだ。今口にしてしまった言葉は、紛れもなく自分の本心であり、ずっと抱えていた不安そのものだった。だからこそ、それが現実になってしまったらどうしようと、胸が押しつぶされそうな不安に苛まれていた。
だが翌日も、その次の日も、その次の日も、一週間が経過しても、翠葉の体調不良は良くならなかった。むしろ、悪化している。熱はなかなか下がらず、悪夢に魘される時間も増えていった。何かをボソボソと呟き、咳が出始めてついには血まで吐いてしまう。顔色は悪く、もともと白かった肌はさらに青白さを増し、食欲もなくて食事を受け付けないため、日を追うごとに痩せていってしまった。
美並は辛かった。山で一人で薬草を摘んで薬を調合して飲ませたり、自分と唯一血のつながりのある叔母に、熱や咳に効く薬の調合の仕方を聞いたり、旅人にいい薬やおまじないはないかと尋ねて、一生懸命全て試してみたが、一つも効果がなかった。何もできない自分への苛立ちと、原因がわからず、どんどん体調が悪化していく翠葉に不安が募る。
「くそっ!」
言葉にならない思いを抑えきれず、美並は拳骨で布団の上を叩いた。
「私は、なんにもできないじゃん...!翠葉がこんなに辛い思いしてるのに、私は・・・だめだ、諦めちゃダメだよ。翠葉だって今も、辛いのに頑張ってるんだ。だから、考えないと。他に何ができる?私に何ができる?・・・そうだっ!!」
・・・そうだ、山を降りて街に行こう。山では病気に関する知識も限られている。街に出て、腕の立つ医者に診てもらえばいいんだ。そうすれば、この病気の原因や病名、これから何をすべきなのか、効く薬だってきっと見つかるはず。
「翠葉を、街の医者に診てもらう?」
美並の言葉に月葉は、そうね、と少し考える。
「うん、ここの医者では知識も限られてると思うんだ。だから、街のお医者さんに診てもらって、そしたら病気の原因も、何の薬を飲んだらいいのかもわかるかもしれない。翠葉のお母さん、私が翠葉を街のお医者さんのとこまで連れていくよ。だから、お願い!このままだと翠葉・・・」
「本当にそうね。原因も何もわからないまま、ただ手出しもできずに見守るなんて、翠葉はもちろん私たちだって耐えられない。街のしっかりしたお医者さんのところへ連れていってあげるのが、今一番必要なことだわ」
月葉が了承してくれたのにホッとして、美並は微笑む。カクカクと震えていた両足の震えがようやくおさまる。
「美並、ありがとう。翠葉と友達になってくれて。あなたのような心の優しい子が友達になってくれて、あの子は本当に幸せ者よ。だから、泣かないで。大丈夫よ、翠葉は」
月葉は美並の両手に自分の両手を優しく重ねる。
「私も幸せ。翠葉が大好きだから!じゃあ明朝、出発するね。翠葉のことは任せて。安心して、翠葉のお母さん」
美並は優しく微笑んだ。




