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王家の者2 

 渡された首飾りを観察しながら言う。

「首飾りの真ん中にある、大きな青い丸い宝石。それを少し傾けると、中にきらりと赤い光が差すだろう。これは約100年前、流翻族と登起(とうき)族の間で起きた戦争の時、流翻族の大王『高来(コウライ)』が身につけていたものと全く同じものだ。その王は自ら兵を率いて一人で敵陣へ突撃し、並外れた身体能力と武力で、敵兵をボコボコに薙ぎ払ったという。当時の歴史書にはこう記されているんだ。『王が巨大な山羊を駆り、縦横無尽に剣を振るって敵を倒すたび、その青き宝石の中に一筋の赤い光が揺らめいた』とな。……だから美並、お前は流翻族の王家の末裔なんだよ」

「は?王家の末裔?ん?ちょっとまって、約100年前の流翻族と、トウキ族の戦争?聞いたことがない。トウキ族とはなんだ?それに、流翻族に王がいたの?でも今は王なんていないよ?」

 疑問が浮かぶ美並に対し、知千は渡されていた首飾りをそっと美並の手の上に返し、包み込むように握らせた。

「やはりだ。俺は王族だから、幼い頃から王族教育を受けている。ただし、一般にはほとんど知られていないものだ。現時点で俺が知っている情報は、登起族と流翻族の戦争、両族の間で和平が結ばれたこと、和平に関わった悠凪姫(ユウナギヒメ)、流翻族にはかつて王族がいたこと、流翻族には、王家に伝わる秘術や装飾品があることだ」

「なるほど。全て最初から話してくれ」

「まず、登起族とは、平地の民族のことだ。流翻族はその反対、山の民族で、自然や大地と深く関わる民族のことだ。だから俺は登起族の者である。約100年前、流翻族と登起族の間で戦争が起きた。流翻族は山岳地帯を越えて勢力を広げようとしていたのだ。流翻族が勢力を拡大しようとしたことが戦争の原因だ。登起族との対立が激化し、多くの犠牲者が出た。誰も戦いを終わらせられず、4年にわたる戦争の末、両族は和平を結んだ。その和平の象徴として悠凪姫が関わった。当時、悠凪姫は登起族の皇女であった。彼女を流翻族に嫁がせることで、和平の象徴となったのだ。流翻族には王家に伝わる秘術や装飾品があることが、歴史書によって伝わっている。歴史書によると、当時の流翻族の大王『高来』は、おまえが今身につけている首飾りと酷似する、傾けると赤い光が僅かに差すというものをつけていたそうだ。流翻族は皆同じ首飾りをつけると言ったな?だが、大王だけは、傾けると赤い光が僅かに差すという他とは異なる特徴を持った首飾りを代々大王は、受け継いでいた。それから、流翻族の王家の者は、並外れた身体能力と圧倒的な武力を持っていて、まさに人間離れしたものだった。戦場において大王や王家の者たちを倒すことは、それゆえに極めて困難を極めた。側近の浩然が美並の狩猟に同行し、その報告として言っていた。おまえが崖から落ちた時、ものすごい身体能力で、岩壁を蹴って、木を蹴って、軽々と戻ってきたそうだな。それもおまえが王家の者、王族の末裔であることと関係していると思う。話を戻す。その後、流翻族は王を失い、現在の王国に吸収される形になったそうだ。しかし不思議だ。なぜおまえが大王『高来』と酷似する首飾りを身につけているのだ。その答えは簡単だ。美並が流翻族の王家の末裔だからである」

「おっぉぅ。私が王家の末裔!?!まじか・・・確かに、この首飾りは大王しか身につけないものなんだよな。それを私が持っているということは、私が王家の末裔であることに間違いはない。だがなぜ流翻族の王家の制度が突然消えたんだ?現在、流翻族には王家の制度はなく、私自身、自分が王家の末裔であることを知らずに育ってきた。誰も私が王家の末裔であることを言わなかった。知千、その理由を、流翻族で王族が隠されたわけを知ってるか?」

「いや知らない。それに関しての記述は歴史書にはない。俺の推測するに、何か都合の悪いことがあったから、王家の者は、王族であることを隠して、今日まで生き残ってきたのではないか?本気で王家の制度を無くすなら、大王の印であるその特別な首飾りを美並に受け継いでいる意味がわからない。ということは、王家の制度を首飾りを通して受け継ぎながらも、おまえが王家の末裔であることを知らなかったことから、何かしらの理由で王族の存在を隠さなければならなかった。いつから王家を偽り、王家の者が隠れて生きるようになったのか、それも不明だ」

「なんで登起族の皇女の悠凪姫が流翻族に嫁ぐことで、和平、戦争終わりってなったの?ただ嫁がせるだけで、そんな簡単に長く続いていた戦争を終わらせることなんてできるのかな?怪しいと思うよ。悠凪姫が何か他の人にはない力とか、そういう特別なものを持ってたから、とかじゃないかな」

「確かに、それもそうだ。一人の登起族の皇女を、敵の部族『流翻族』に嫁がせるだけで長年戦争をしてきた部族同士にそう簡単に和平をもたらせるとは考え難い。そして皇女『悠凪姫』を嫁がせた登起族の意図、それを客観的に捉えるなら、どう考えても愚策であり、避けたい選択だったはずだ。周りを敵に囲まれ、信用できるのはわずかな側近のみという状況に一人の皇女を追いやるなど、部族にとっても悪評と反発を免れない忌むべき行為だ。歴史書の記述が事実だとすれば、登起族と流翻族の間で正式な和平条約が結ばれ、その証として彼女が嫁いだのは確かだ。しかし、それから僅か半年後、悠凪姫は15歳という若さで命を落とした。死因は不明。朝起きてこないのを不審に思った側近が、夜のうちに一人息絶えていた彼女を見つけた、と記されている」

「そうなんだ。ん?知千。ここに、悠凪姫は『争いを終わらせ、平和をもたらした英雄である』って書いてるね...悠凪姫は敵の部族に嫁ぐのが怖くなかったのかな?自分が嫁ぐことで和平をもたらせ、後世に語り継がれる英雄になれるとしても、そんな危険なことをよくやったよ。それとも、自分が嫁ぎたいって思う何か理由があったのかな・・・不思議だよ。和平のために登起族は悠凪姫を差し出した、だけど流翻族は?流翻族は何も渡してないよね。それでどうして和平条約が成立したんだろう。流翻族の方が登起族よりも力を持っていたのだろうか」

「さぁ。戦争を終結させるために、登起族は必死だったのではないか?」

「知千、今大事なこと思い出したよ」

「何だ」

「私が翠葉を連れて山を出る時に、私の育て親である叔母の珠が私にこう言った。『必ずその首飾りは身につけていなさい。流翻族は昔から、この首飾りで互いを見分けてきた。困ったことがあっても、それを見れば流翻族だと分かる人もいる』と。お母さんはそう言ったけど、もしかして、よく見ると他のものとは違う特徴を持ったこの首飾りを見て、誰かが私が王家の末裔であるって気づいて、教えてくれるって考えて、必ず身につけないって言ったのかもしれない...。私、誰にも自分が王家の血を引く末裔だなんて教えてもらえなかったし、私が王家の末裔なら、叔母もそうだ。その叔母ですら私に教えなかったということは、直接教えてはいけない理由があった。その理由は、私が王家の血を引く王家の末裔であると知ってしまうと、『何か知ってはいけないこと』に辿り着いてしまうから。そして危険が及ぶ。きっと危険が及ぶから、いつからかはわからないけど、流翻族の王家の者は、王家を偽って生きてきたんじゃないかな」

「おまえが王家と知らず、おまえの叔母も伝えなかったならば、美並の周りの者がおまえが王家の末裔であることを知るはずもない。なんなのだろうその危険とは。知ってはいけない何か、か。そういえば、おまえと翠葉はいつから仲良くなったのだ?幼い頃からの仲だと言っていたな」

「周りから聞いた話によると、翠葉は私が生まれた時から一緒にいたみたいだよ。夏、私が生まれる瞬間に、翠葉もいたんだって。最初の記憶は、私が3歳の時、翠葉は5歳。山に行って、これが『睡蓮のお花だよ、とっても大切なお花なんだ』って、教えてくれた。あっ!」

「はっ」

 同時に声が被る。美並はあることに気づいた。知千も珍しく目が見開いている。

「まって知千!睡蓮の花って確か、白馬が貸してくれた本の表紙の題名『睡蓮の花と終焉の始まり』っ!だったよね!?!睡蓮の花!同じだよ!翠葉が大切な花って教えてくれた睡蓮の花だよ!」

「翠葉が睡蓮の花をとても大切な花と言ったことと、この本の題名の睡蓮の花と終焉の始まり、は絶対何か関係がある。これは調べる必要がある。それと、おまえに聞きたいことがある。翠葉には、美並以外に友達はいるのか?それともおまえだけか?」

「そうだな・・・翠葉には私以外に友達はいない。村落にはもちろん同年代の子とかもいるし、私はみんなと仲がいい。だけど翠葉は、内向的な性格もあって、もしかしたら、私以外には人見知りしてたのかな?それでいつも私と一緒にいた。私も翠葉といるのが楽しいから、ほとんど翠葉といた・・・言われてみればそうだ。翠葉が私のそばにいるのは当たり前のように感じていたから、何も不思議には思わなかったが、翠葉が他の子と遊んでいるのは見たことがない。いつも私の側にいた」

 それがどうかした?と美並は首を傾げる。

 知千は言葉を発するのを一瞬だけ迷うように、わずかに口元を歪めた。 

「・・・原因不明の重病になり、今は記憶喪失している翠葉が正常な状態ではない。これは、俺の推測だ。聞かなくてもいい。ただ『翠葉がおまえの側にいたのは理由があった』のではないか、と思っただけだ...翠葉には、王家の血を注ぐ末裔の美並に近づいて仲良くする目的と、そうしなければならない理由があったのだと思う」

「まって」

 美並が遮った。

「翠葉はそんな子じゃない。私と翠葉は、親友だよ?家族みたいな仲なんだよ。たとえ翠葉が意図的に王家の末裔の私に近づいていたとしても、私と仲良くしてくれている理由がそれだけなのは断じてない!翠葉は、私と一緒にいるのが楽しかった。だから一緒にいた」

 知千は驚いた顔をする。

「美並、おまえはなぜそこまでして翠葉を信じる」

「記憶を失ったとしても、私にとって、翠葉は翠葉なんだよ。何が起こっているのか、翠葉も辛いだろうし、なのに周りが信じるのをやめたら、そんなの、悲しすぎるよ。翠葉が私を忘れても、私は翠葉を忘れない。真実を知ることも大切だけど、私は翠葉を助けたいんだ」

「・・・・・・美並。おまえがどれだけ姉の翠葉を想っているか、同じ兄を持つ身として少しは理解できるつもりだ・・・・・・・・・・・・『どんな真実に直面しても挫けるな。お前が姉の翠葉を心から慕っていたこと、その気持ちと事実だけは絶対に忘れず、疑わないでほしい』」

 美並は知千が真剣な顔なので、驚いた。知千はなぜかいつになく深刻な表情だ。美並は瞬きして、にこっと笑う。

「・・・・・・ありがとう、知千。知千の言ってくれた言葉、絶対に忘れないよ。そうだね、私は今も、翠葉のことが大好きだもん。今も、これからも・・・」

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