剣豪・知千
戦地帰りの知千は栗色の毛並みの騎馬に乗り、王都『蒼京』の王宮へと帰っていた。戦場での疲れからぼんやりと何も考えず、ただ仲間たちに囲まれながら馬を歩ませていた。知千は隊長であり、その周りを副長や騎馬に乗った仲間、そして歩兵たちが取り囲むようにして護衛している。
東陽の門をくぐると、景色は少しずつ変わり、王都へと近づいていった。視界には大きくて豪華な、キラキラと輝く立派な建物が見え始める。もう少しで蒼京だろう、知千がそう感じたその時、副長であり側近を務める浩然が声をかけた。
「知千様、お待ちを!!」
前方の兵士たちがざわめき始める。
「騒がしい。どうした」
知千が前へ進むと、兵士たちは知千を守るように臨戦態勢をとっていた。浩然が説明する。
「知千様、この下民の小娘が我々の通行を阻んでいるのです。先ほどから必死に、若様に会わせろと喚いているとのことです」
知千は無言で前方の兵士たちを下がらせると、騎馬の上からその小娘を見下ろした。凛々しい目鼻立ちの眉を動かさず、静かに視線を落とす。その小娘は幼かったが、意志の強そうな青い瞳で真っ向から知千を見上げていた。
「この無礼者! 下民の小娘が!その細い首を落としてやる!」
兵士の一人が小娘の身動きを封じ、その横にいた兵士が刀の柄へと手をかけた。小娘は動じず、ただ真っ直ぐに知千を見て、激しい口調で言った。
「知千っ!私の首を切って構わないっ!その代わりに王家の薬園にしかない九転還魂草が欲しい。瀕死の姉を助けてほしいんだ...!」
小娘は死にものぐるいで必死に叫ぶ。
「九転還魂草だと?っ貴様っ!この下民の小娘がっ!若様を馴れ馴れしく呼びやがって!このくそガキっ!」
兵士が刀を小娘の首に当てる。
取り押さえていた兵士は怪訝な顔をする。
「瀕死の姉?」
「美並っ!連れてきたぞっ!おいおまえら! この子はもう二週間以上発熱し、呼吸は荒く、吐血し、意識が朦朧としている状態だ。どこの町医者に行っても原因も病名もわからず、何もできないと言われる! このままだとこの子は死んでしまう! だから助けてほしいんです!お願いです!」
突然走ってきた少年の背には、死人のように顔が真っ青で、やせ細り、生きているかもわからないほど瀕死の少女が背負われていた。
「なんだこのくそガキはっ!?!こいつも取り押さえてやるっ!若様、いいですよね!?!もうこの無礼は許せません。わたしに切り落とさせてください」
知千はイラついてきた。
「お願いですっ!姉を助けてくださいっ!お願いです!」
真剣に、心の底から叫ぶその様子と言葉には切実さが宿っていた。
知千はふと、美並がつけている首飾りに目を留める。首元を彩るのは、丸みを帯びた白色と青色の宝石が幾重にも連なった、華やかなネックレスだった。首飾りの真ん中には、ひときわ存在感を放つ大きな青い天然石が鎮座している。
「この娘は流翻族の者だ」
知千は言った。
「はい?流翻族?若様、本当ですか?どうしてそれを?」
浩然が冷静な態度で言う。
「首飾りだ。その首飾りは流翻族の者は皆身につけている・・・それが証拠だ。全員刀を納めろ。流翻族とは和平を結んでいる。殺めてはいけない・・・その瀕死の者は王宮の医務室に運べ」
「はっ!」
浩然が指示を出す。
「助けてくれるの?」
小娘は泣きそうな顔で知千を見た。
「貴様が流翻族の者だからだ。勘違いするな」
「知千、ありがどぉぉっぉ!うぅっ、すいはっよかったねぇっ」
ブワッと美並の青い瞳から涙が溢れた。




