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悪女は正しい  作者: Dちゃん
第四章「重なるものに、形が見える」

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第56話 悪役令嬢、三週目の金曜日を歩む

「悪女は正しい」をお読みいただき、ありがとうございます。第五十六話をお届けします。


金曜日、五本の枝が、初めて一つの姿になります。

――――――

 金曜日の朝、帝国からの書簡は、なかった。

 オットーが朝の業務一覧を持ってきたとき、その紙の上に、書簡はなかった。

 (――木曜日の夜に出しましたのね)

 (返信は、また、数日後かもしれませんのね)

 (でも――「まだ来ていない」ですのね)

 窓の外を見た。今日の王都の空は、金曜日だった。

 (――また、曜日で呼んでいますのね)

 (先週の金曜日は「知っている入り口」でしたのね)

 (先々週の金曜日は「週末の入り口」でしたのね)

 (月曜日は「一緒にいる」に、火曜日は「頼れる」に、水曜日は「支える」に、木曜日は「繋がる」に、辿り着きましたのね)

 (金曜日の三枚目は――どこに辿り着きますかしら)

 窓の外の青を、しばらく、見た。

 (――「週末の入り口」は、まだ来ていないものを、探して見つけた入り口でしたのね)

 (「知っている入り口」は、来ることを知って、穏やかにその前に立つ入り口でしたのね)

 (今日の入り口は――違いますのね)

 (探すでも、その前に立つでもなく――もう、扉の向こうの灯りが、こちら側からも見えている感じがしますのね)

 (「灯りが、見えている」という言葉が、浮かびましたのね)

 (でも――もう少し、この気配の中にいますのね)


――――――

 金曜日は、定例の文官報告が二件あった。

 オットーが、朝の業務一覧を差し出した。

 「――今日の予定は、以上でございます」

 「わかりましたわ」

 一件目は、南区診療所の週次確認だった。

 「担当医師からの所見:「今週、西区の診療所から、担当の医師が実際に見学にいらっしゃいました。半日、待合室での声のかけ合い方や、記録の残し方までを、丁寧に書き写して、お帰りになりました。『まずは、真似させていただきます』とのことでございました」」

 レオノーラは、その言葉を、しばらく、見た。

 (――「書き写して、お帰りになった」ですのね)

 (先週は「仕組みを取り入れたい」という申し入れでしたのね)

 (今週は――その申し入れが、実際に、手を動かす形になりましたのね)

 (「来た」「連れた」「教えた」「お使いで来た」「機能した」「自己判断で来た」「動かした」「感謝を届けた」「円を描いた」「声をかけた」「溶け込んだ」「境を越えた」「型を渡そうとしている」)

 (そして今週――「型が、実際に、渡りましたのね」)

 (十四枚目のページに、なりましたのね)

 「――オットー」

 「はい」

 「――「西区の診療所の医師が、実際に見学に訪れ、記録の残し方まで書き写して帰った」という事実を、十四枚目のページに記録してください。言葉として渡ろうとしていたものが、今日、初めて、手の動きとして渡りましたのよ。一人の子どもの物語は――もう、この診療所だけのものではありませんのね」

 老執事は、少しだけ、目を細めた。

 (――「手の動きとして渡った」ですね)

 (一人の子どもの「来た」から始まった十四枚のページが、今日、初めて、この屋敷の外へ、実際に運ばれていきましたよ)

 二件目は、周縁部第一区の緑地化工事の週次報告だった。

 「担当者からの所見:「先週、根の付け根から顔を出した双葉ですが、今週、初めて本葉が開きました。見たところ、計画外の草花の葉にも、隣の苗の葉にも似ておりません。どちらとも違う、独自の形をしております」」

 レオノーラは、その言葉を、もう一度、読んだ。

 (――「どちらとも違う、独自の形」ですのね)

 (二つの根が絡み合った先に生まれた三つ目の命は――どちらかの続きではなく、それ自身の形を持ちましたのね)

 (重なった先に生まれるものは、重なったものの複製ではなく、まったく新しいものになりますのね)

 「――オットー」

 「はい」

 「――「新しい双葉の本葉が、どちらの親とも違う独自の形をしていた」という事実を、そのまま記録してください。何の芽かは、まだわかりませんのよ。でも、わからないままでいいのですのね。二つが重なって生まれたものが、どちらの真似でもなく、それ自身の形を選んだという事実だけで、十分ですのよ」

 オットーは、少しだけ、間を置いた。

 (――「それ自身の形を選んだ」)

 (お嬢様が、今日、新しい命に対して、初めてそういう言葉を使われましたよ)


――――――

 昼過ぎ、マリアが昼食を持ってきた。

 「――今日は、どんな空ですか」

 「金曜日の空ですのね」レオノーラは言った。「でも――先週の金曜日とも、先々週の金曜日とも、少し違いますのよ」

 マリアは、トレイを置きながら、少しだけ、目を細めた。

 「――どう違うんですか。先週は「知っている入り口」でしたよね」

 「ええ」レオノーラは言った。「先々週は、まだ来ていない週末を探して見つけた「週末の入り口」でしたのね。先週は、それが来ると知って、穏やかにその前に立つ落ち着きがありましたのよ。今日は――探すでも、その前に立つでもなく、もう、扉の向こうの灯りが、こちら側から見えている感じがしますのね」

 マリアは、少しだけ、考えた。

 「……なんか、それって、実家に帰るときの玄関の灯りみたいな感じですかね。夜道を歩いてて、まだ家の扉には手をかけてないのに、遠くから玄関の灯りがついてるのが見えると――もう、『帰ってきた』って感じがするんですよ。扉を開ける前から、もう、家の中にいるみたいな」

 「「扉を開ける前から、もう、家の中にいる」」レオノーラは言った。「――ええ。「週末の入り口」は、扉があることを見つけた驚きでしたのね。「知っている入り口」は、扉の前で、来ることを知って待つ落ち着きでしたのね。今日は――扉に触れる前から、もう、その向こうにあるものが、こちらまで届いている感じがしますのよ」

 マリアは、少しだけ、窓の外を見た。

 「……今日の空って、なんか、まだ金曜日なのに、もう週末の温かさが漏れてきてる感じがしませんか。境目がないっていうか、金曜日の中に、もう週末が始まってる、みたいな」

 「「境目がない」」レオノーラは言った。「――ええ。「灯る入り口」とでも、言いますかしら。扉という境そのものが、今日は、もう、意味をなさなくなっていますのね。灯りが、境を越えて、こちらまで来ていますのよ」

 マリアは、それを聞いて、少しだけ、止まった。

 「――「灯る入り口」って、なんか、お嬢様が殿下に書く書簡みたいですね。まだ届いてないのに、もう、書いてる時点で、なんか繋がってるっていうか」

 (――「まだ届いてないのに、もう、繋がっている」)

 (言われて、少し、止まりましたのね)

 (「週末の入り口」と「知っている入り口」と「灯る入り口」が――同じ金曜日の名前として、三枚、並びましたのね)

 (一枚目は「発見」、二枚目は「待つこと」、三枚目は――「境が、もう、ないと知ること」ですのね)

 (見つけて、待って、境がないと知る――それが、金曜日の三枚重なる形ですのね)

 (月曜日は「一緒にいる」、火曜日は「頼れる」、水曜日は「支える」、木曜日は「繋がる」、そして金曜日は――「灯る」ですのね)

 「――マリア」レオノーラは言った。「今週も、あなたの言葉から出てきましたのね。「扉を開ける前から、もう、家の中にいる」という言葉から、「灯る入り口」が生まれましたのよ」

 マリアは、少しだけ、にこりとした。

 「――三週目の金曜日にして、実家の玄関の話をしてよかったです」


――――――

 午後、周縁部第一区の巡回に出た。

 新しく開いた本葉を、自分の目で見るためだった。

 担当者が、案内した。

 「――こちらでございます。ちょうど、絡み合った根の真上のあたりから」

 レオノーラは、小さな本葉を、しばらく、見た。

 (――計画外の草花の葉とも、隣の苗の葉とも、違う形ですのね)

 (丸みの中に、少しだけ、尖った先がありますのね)

 (どちらの子どもでもなく、それ自身の顔をしていますのね)

 担当者が、続けた。

 「――図鑑を当たってみましたが、まだ、これという答えは見つかっておりません。しばらくは、名前のないまま、育てることになるかと存じます」

 「――担当者」

 「はい」

 「――名前がないまま、育てて構いませんわ。名前は、いつか、必要になったときに、向こうからやってくるものですのよ。今は、名前より先に、形そのものを、見ていてくださいませ」

 担当者は、静かに、一礼した。

 (――「名前より先に、形そのものを見る」)

 (お嬢様の言葉が、今日、また一段、静かに、広くなりましたよ)


――――――

 温室に戻ったのは、夕方近くだった。

 二つの芽が、そこにあった。

 植木鉢の前に、しゃがんだ。

 エーデルローゼの芽は――先週より、わずかに高くなっていた気がした。葉が、三枚のままだった。でも、今日の光を受けて、全体に、遠くから見ても、そこに灯りがついているとわかるような、あたたかい気配がある気がした。

 (――「遠くからでも、灯りがついているとわかるような、あたたかい気配」)

 (一週目の「落ち着いた深さ」、二週目の「持ち越し」、三週目の「当たり前」、そして「静かな強さ」「揺るがない静けさ」「見なくてもわかる佇まい」の次の、今週ですのね)

 (「佇まい」の次に来るのは――「遠くからでも届く、あたたかさ」ですのね)

 子爵の庭の薔薇の芽は――葉が、五枚のままだった。葉の間の小さな蕾が、先週より、心持ち、膨らんでいた気がした。

 (――「蕾が、膨らんできた」ですのね)

 (見つけただけだった蕾が、今週は、確かに育ち始めていますのね)

 懐から紙を取り出した。二十七枚目を開いた。

 「――エーデルローゼ。高さ、約三十七ミリ。葉、三枚。遠くから見ても、灯りがついているとわかるような、あたたかい気配がある気がする。今日の光、灯る入り口」

 書いて、止まった。

 「灯る入り口」

 (――光の名前に、なりましたのね)

 (「週末の入り口」「知っている入り口」に続いて、三枚目の金曜日の名前が、揃いましたのね)

 「――子爵の庭の薔薇。高さ、約十九ミリ。葉、五枚(変化なし)。小さな蕾が、心持ち膨らんできた気がする。今日も、灯る入り口」

 書き終えて、二十七枚の紙を、ぱらぱらと、めくった。

 (――二十四種類に、なりましたのね)

 紙を、丁寧に折って、懐にしまった。


――――――

 夕方、オットーが書斎に入ってきた。

 「――お嬢様。本日の記録についてでございますが」

 「ええ」

 「――診療所の記録に、十四枚目のページが加わりました。西区の診療所の医師が、実際に見学に訪れ、記録の残し方まで書き写して帰ったという事実でございますね。加えて、周縁部の報告に、新しい双葉の本葉が、どちらの親とも違う独自の形をしていたという事実も、記録されております」

 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。

 (――「型が、実際に渡った」ことと「新しい命が、それ自身の形を持った」こと)

 (別のことのようで――同じことを、言っていますのね)

 (渡ったものは、渡った先で、渡した通りの形にはなりませんのね)

 「――ええ」レオノーラは言った。「十四枚重なって――記録が、初めて「手の動き」として、外へ渡りましたのよ。そして、周縁部の新しい命は、今日、誰の真似でもない、それ自身の形を選びましたのね。渡ったものも、生まれたものも――どちらも、渡した通り、重なった通りにはならないものですのよ。それが、正しいことですのね」

 オットーは、静かに、一礼した。

 (――「渡した通りにはならない、それが正しい」)

 (お嬢様が、今日、初めて、そう言い切られましたよ)

 「――また、温室の二十七枚目には「灯る入り口」という記録が入っております。「週末の入り口」「知っている入り口」に続く、三枚目の金曜日の名前でございますね。光の名前は二十四種類になりました」

 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。

 (――月曜日は「一緒にいる」、火曜日は「頼れる」、水曜日は「支える」、木曜日は「繋がる」、そして金曜日は「灯る」ですのね)

 (五つの曜日が、それぞれ、三枚重なりましたのね)

 「――ええ」レオノーラは言った。「先週、木曜日に、それぞれの根が「同じ風」の中にあると申しましたのね。今日、わかりましたのよ。同じ風の中にあるだけではなく――五つの枝は、もともと、一本の木から伸びていますのね。月曜日から金曜日まで、別々の場所に見えていた根と枝は、実は、一つの幹から出た、五本の枝だったのですのよ」

 老執事は、深く、一礼した。

 (――「五本の枝を持つ、一本の木」)

 (月曜日の根、火曜日の根、水曜日の根、木曜日の根、そして今日、金曜日の根――五つが、初めて、一つの姿として、繋がりましたよ)

 (残るは――土曜日、一本だけですね)

 「――お嬢様。残る枝は、土曜日だけでございますね」

 レオノーラは、少しだけ、考えた。

 「――ええ」レオノーラは言った。「土曜日が加われば、一週間分の枝が、すべて揃いますのね。でも――焦る必要は、ありませんのよ。木は、すべての枝が同時に伸びなくても、確かに、一本の木でいますもの」


――――――

 夜、書簡を書いた。

「アドリアン。今日は三度目の金曜日でした。「週末の入り口」「知っている入り口」に続いて、今日の金曜日の光を「灯る入り口」と名付けましたのね。見つけて、待って、そして今日は――扉という境が、もう意味をなさなくなるところまで、辿り着きましたのよ。月曜日は「一緒にいる」、火曜日は「頼れる」、水曜日は「支える」、木曜日は「繋がる」、そして金曜日は「灯る」ですのね。五つの曜日が、それぞれ三枚重なって――今日、それが一つの木から伸びる、五本の枝であったと気づきましたのよ。光の名前が二十四種類になりましたのよ。診療所の記録が十四枚目になりました。西区の診療所の医師が、実際に見学に訪れ、記録の残し方まで書き写して帰ったそうです。一人の子どもの物語が、今度は、言葉ではなく、手の動きとして渡りましたのね。周縁部では、絡み合った根から生まれた新しい双葉が、本葉を開きました。どちらの親とも違う、それ自身の形をしていたそうですのよ。渡ったものも、生まれたものも――重なった通りにはならないのが、正しいことなのだと、今日、知りましたのね。返信は、また、数日後かもしれません。同じ時刻で。――好意として」

 書き終えて、レオノーラは、その書簡を、しばらく、見た。

 (――「今日は三度目の金曜日でした」から、書き始めましたのね)

 (月曜日、火曜日、水曜日、木曜日に続いて、金曜日も「三度目の」になりましたのね)

 (五日続けて――「三度目の」という書き出しが、揃いましたのね)

 封をして、オットーに渡した。

 「――今夜中に」

 「かしこまりました」

 オットーは、それを受け取って、少しだけ、間を置いた。

 「――月曜日、火曜日、水曜日、木曜日に続いて、金曜日も「三度目の」という書き出しになりましたね。五日、揃いましたよ」

 「――ええ」レオノーラは言った。「明日、土曜日が揃えば、一週間、すべてが「三度目の」になりますのね。でも――それも、来るべきときに、来ますのよ」

 老執事は、深く、一礼した。

 (――「来るべきときに、来る」)

 (お嬢様は、もう、揃うことそのものを、急いではおられませんよ)

 (それでも――明日への静かな期待は、確かに、そこにありますね)


――――――

 夜、寝室の文机の上に、冊子があった。

 レオノーラは、それを、手に取った。

 最初のページから、ゆっくり、読んだ。

 「今日は晴れ」から始まって、光の名前が並んでいた。「晴れ」「曇り」「薄曇り」「雨」「晴れ(雨上がり)」「まっすぐな光」「穏やかな光」「気合いの入った青」「気合いが馴染んだ光」「流れの中の真ん中」「週末の気配」「週末の入り口」「着いた光」「知っている青」「いてくれる青」「見えている真ん中」「知っている気配」「知っている入り口」「戻ってきた光」「一緒にいる青」「頼れる青」「動かない真ん中」「繋がる気配」。

 そして、今日――「灯る入り口」が、加わった。

 (――二十四種類に、なりましたのね)

 (金曜日の光が、三枚、並びましたのね。「週末の入り口」「知っている入り口」「灯る入り口」)

 (月曜日も三枚、火曜日も三枚、水曜日も三枚、木曜日も三枚、そして金曜日も三枚――五本の枝が、一本の木として、揃いましたのね)

 患者の書簡が、挟まれていた。十四枚のページが、並んでいた。

 (――十四枚のページが、並んでいますのね)

 (一枚目の「来た」から、今日の「型が、実際に渡った」まで――一人の物語が、言葉を越えて、手の動きとして、他の場所へ運ばれましたのね)

 (次のページには――何が来るでしょうかしら)

 「エーデルローゼ。高さ、約三十七ミリ。葉、三枚。遠くから見ても、灯りがついているとわかるような、あたたかい気配がある気がする。今日の光、灯る入り口」

 「子爵の庭の薔薇。高さ、約十九ミリ。葉、五枚(変化なし)。小さな蕾が、心持ち膨らんできた気がする。今日も、灯る入り口」

 (――どちらも「気がする」ですのね)

 (確認できませんのね。でも――消えませんのよ)

 (これが――「信じている」ことですのね)

 冊子を、静かに、閉じた。

 窓の外に、夜の王都があった。今夜は、穏やかだった。

 南の診療所は今夜も機能しているはずだった。西区でも、今夜、書き写された言葉が、誰かの手の中で、静かに形になろうとしているかもしれなかった。周縁部の小さな双葉は――今夜も、名前のないまま、それ自身の形を、静かに保っているはずだった。

 温室には――二十七枚の記録を持つ、二つの芽があった。一方は遠くからでも、そこにあるとわかるあたたかい気配がある気がする。一方は、小さな蕾を、少しずつ、膨らませている。

 帝国では――今夜、殿下が、「三度目の金曜日」という言葉を、読んでおられるだろうか。

 (――月曜日の枝、火曜日の枝、水曜日の枝、木曜日の枝、そして金曜日の枝が、冊子の中で、並んでいますのね)

 (五本すべてが、一本の木から伸びていたと、今日、わかりましたのね)

 (――残るは、土曜日だけですのね)

 冊子を、文机の上に、戻した。

 今日の金曜日を、思った。「三度目の金曜日」という言葉で書簡を書き出した朝。「型が、実際に渡った」という十四枚目が加わった午前。「灯る入り口」という光の名前が生まれた昼。名前のない本葉を自分の目で見た午後の巡回。「五本の枝を持つ、一本の木」という感覚を持った夕方。

 (――これが、今日の「あったこと」ですのね)

 (三度目の金曜日の、積み重ねですのね)

 (明日は土曜日ですのね)

 (「着いた光」「戻ってきた光」と来て――三枚目の土曜日は、どう重なりますかしら)

 (一週間の枝が、すべて揃う日ですのね)

 (重なって初めて見えるものが、また、ありますかしら)

 (――それを、楽しみにしていますのね)

 (以前は、なかった感覚ですのよ)


――――――

(第五十六話 了)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


診療所の記録は十四枚目に。今回は西区の医師が実際に見学に訪れ、記録の残し方そのものを書き写して帰るという、これまでで一番"形"として伝わった回でした。周縁部の新しい命も本葉を開き、どちらの親とも違う、それ自身の形を見せています。


光の名前は「灯る入り口」で二十四種類に。月曜「一緒にいる」、火曜「頼れる」、水曜「支える」、木曜「繋がる」、そして金曜「灯る」——五つの曜日がそれぞれ三枚ずつ重なり、実は一本の木から伸びた五本の枝だったと気づく回でもありました。残るは土曜日、一本だけです。


もしよろしければ、感想やブックマークをいただけますと嬉しいです。次回(土曜12:00予定)、ついに一週間分の枝が揃います。どうぞお楽しみに。

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