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悪女は正しい  作者: Dちゃん
第四章「重なるものに、形が見える」

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第51話 悪役令嬢、二週目の土曜日を歩む

土曜日の朝、帝国からの書簡は、なかった。


 オットーが朝の報告を持ってきたとき、その紙の上に、書簡はなかった。


 (――昨日の金曜日に出しましたのね)


 (返信は、また、数日後かもしれませんのね)


 (でも――「まだ来ていない」ですのね)


 窓の外を見た。今日の王都の空は、土曜日だった。


 (――また、曜日で呼んでいますのね)


 (先週の土曜日は「着いた光」でしたのね)


 (一週間分の平日を歩んで――「着いた」という感じでしたのね)


 (今日は――月曜日から金曜日まで、「知っていて迎える」日々を重ねた上で、来た土曜日ですのね)


 (先週の土曜日と今日の土曜日は――どう重なりますかしら)


 (「着いた」という感じは、今日もありますのね)


 (でも――先週は「着いた」ことに気づいた土曜日でしたのね)


 (今日は――「着く」ということを、最初から知っていて迎えていますのね)


 書簡がないことを、静かに、受け取った。


――――――


 土曜日の午前は、定例外の用務が一件あった。


 南区診療所から、医師が屋敷を訪ねてきた。


 「――先週の弟の件で、少し、ご報告したいことがありまして」


 応接室で、医師は、静かに、続けた。


 「――弟が先週「ありがとう」を届けに来たことを、受付の者が、お姉ちゃんに話したそうです。お姉ちゃんが、それを聞いて、「弟が一人で行けた」ということをとても喜んでいたそうです。その様子を見た受付の者が、こちらに知らせてくれました。事実として残しておくべきかと思いまして、参りました」


 レオノーラは、その言葉を、しばらく、見た。


 (――「弟が一人で行けた」ことを、喜んでいましたのね)


 (お姉ちゃんが弟に渡した言葉が、弟を動かして――その事実が、お姉ちゃんのところに戻ってきましたのね)


 (言葉が、円を描きましたのね)


 (「来た」「連れた」「教えた」「お使いで来た」「機能した」「自分で判断した」「動かした」「感謝を届けた」)


 (そして今日――「渡した言葉が戻ってきた」)


 (九枚目のページに、なりましたのね)


 「――オットー」


 「はい」


 「――「弟が一人で来た事実が、お姉ちゃんのところへ喜びとして戻った」という言葉を、九枚目のページに記録してください。言葉が円を描きましたのよ。「渡した」が「戻ってきた」になりましたのね」


 老執事は、少しだけ、目を細めた。


 (――九枚目のページが、加わりますね)


 (「来た」という記録から始まった物語が、今日は「円を描いた」という形になりましたよ)


 (場所が、人と人の間に「喜びの回路」を作る場所になっていますよ)


 医師は、静かに、一礼した。


 「――ご記録いただけますか」


 「ええ」レオノーラは言った。「事実として残してくださいまして、ありがとう。こうして届けてくださらなければ、わたくしには、わかりませんでしたのよ」


 医師は、少しだけ、目を細めた。


 (――「ありがとう」という言葉が、今日、お嬢様からも出ましたよ)


 (場所が人を育て、人が言葉を渡し、言葉が円を描いて戻ってくる――その形を、今日、お嬢様も受け取られましたよ)


――――――


 午前の後半、温室に行った。


 今日は予定のない時間だった。


 二つの芽が、そこにあった。


 植木鉢の前に、しゃがんだ。


 エーデルローゼの芽は――昨日より、わずかに高くなっていた気がした。葉が、三枚のままだった。でも、今日の光を受けて、全体に、週を持ち越してきた落ち着きがある気がした。


 (――「週を持ち越してきた落ち着き」)


 (月曜日の「落ち着いた深さ」、火曜日の「静かに安定している」、水曜日の「中心を持っている」、木曜日の「落ち着いた重さ」、金曜日の「穏やかな充実」の次の土曜日ですのね)


 (「深さ」が「安定」になって、「安定」が「中心」になって、「中心」が「重さ」になって、「重さ」が「充実」になって、「充実」が「落ち着き」になりましたのね)


 (一週間分の積み重ねが、今日の土曜日に、「持ち越してきた」という形で現れましたのね)


 子爵の庭の薔薇の芽は――葉が四枚のままだった。でも、全体として、今日は、ゆったりと、その場に収まっている感じがした。


 (――「ゆったりと収まっている」)


 (月曜日の「静かに確かに始めている」、火曜日の「伸びやか」、水曜日の「両方向に広がっている」、木曜日の「落ち着いて広がっている」、金曜日の「その場に馴染んでいる」の次の土曜日ですのね)


 (「始まり」が「伸びやか」になって、「伸びやか」が「広がり」になって、「広がり」が「馴染み」になって、「馴染み」が「収まり」になりましたのね)


 (馴染んだ後に、ゆったりと、その場に収まる感じがしますのね)


 懐から紙を取り出した。二十二枚目を開こうとして、止まった。


 (――まだ、光の名前が、決まっていませんのね)


 (先週の土曜日は「着いた光」でしたのね)


 (今日の土曜日の光は――何と呼びますかしら)


 窓から差し込む光を、しばらく、見た。


 (――「着いた光」と似ていますのね)


 (でも――同じではありませんのね)


 (先週は、一週間の流れの末に「着いた」という発見がありましたのね)


 (今日は――「着く」ことを知っていて、着きましたのね)


 (「知っていて、着いた」ですのね)


 (先週の「着いた」に、「知っていて」が加わりましたのね)


 紙を、いったん、懐に戻した。


 (――もう少し、この光の中にいますのね)


――――――


 昼過ぎ、マリアが昼食を持ってきた。


 「――今日は、どんな空ですか」


 「土曜日の空ですのね」レオノーラは言った。「でも――先週の土曜日とは、少し違いますのよ」


 マリアは、トレイを置きながら、少しだけ、目を細めた。


 「――どう違うんですか」


 「先週の土曜日は――一週間の流れの末に、気づいたら「着いていた」感じでしたのね」レオノーラは言った。「今日は――「着く」ことを知っていて、着きましたのよ。同じ「着いた」でも、知る前と知った後では、着いたときの感じが違いますのね」


 マリアは、少しだけ、考えた。


 「……なんか、それって、ゴールテープを切る感じに似ていませんか。初めて走ったとき、「あ、終わりだ」って気づいてテープを切るじゃないですか。でも二回目は、「もうすぐテープがある」ってわかって走っていて、切るときには「やっぱりここにあった」ってなる感じっていうか」


 「「やっぱりここにあった」」レオノーラは言った。「――ええ。先週の「着いた」は「ここが着いたところだったのか」という発見でしたのね。今日は――「やっぱり、ここに着いた」という確かめる感じがしますのよ」


 マリアは、少しだけ、窓の外を見た。


 「……今日の空って、なんか、「おかえり」って言ってもらえる感じがしませんか。温かいというか、受け取ってもらえる感じっていうか」


 「「おかえり」」レオノーラは言った。「――ええ。知っていて戻ってきた場所に、「おかえり」と言われる感じがしますのよ。先週の「着いた光」は、「初めて辿り着いた場所」の光でしたのね。今日は――「戻ってきた場所」の光ですのよ」


 マリアは、それを聞いて、少しだけ、止まった。


 「――「戻ってきた場所」って、なんか、もうそこが自分の場所になっている感じですね。初めてのときは「着いた」だけど、二度目は「戻ってきた」になるっていうか」


 「ええ」レオノーラは言った。「「戻ってきた光」とでも、言いますかしら。「着いた光」の次の土曜日は、「戻ってきた光」ですのよ」


 (――「戻ってきた光」)


 (言ってから、少し、止まりましたのね)


 (「着いた光」と「戻ってきた光」が――同じ土曜日の名前として、並びますのね)


 (先週は「着いた」でしたのね。今日は「戻ってきた」ですのね)


 (「着く」ことと「戻ってくる」ことは――同じようで、違いますのね)


 (着くのは初めての場所ですのね。戻ってくるのは――すでに自分の場所になっているところですのね)


 「――マリア」レオノーラは言った。「今週も、あなたの言葉から出てきましたのね。「おかえり」という言葉から、「戻ってきた光」が生まれましたのよ」


 マリアは、少しだけ、にこりとした。


 「――毎週ですよね。「おかえり」って言っただけなのに、こんな言葉になるとは思っていませんでしたよ」


 (――「おかえり」という言葉が、光の名前になりましたのね)


 (診療所の弟が「ありがとう」を届けに来たのも――「戻ってきた」ということでしたのね)


 (言葉が円を描いて戻ってくることと、場所へ戻ってくることが――今日の土曜日に、重なっていますのね)


――――――


 昼過ぎ、温室に戻った。


 懐から紙を取り出した。二十二枚目を開いた。


 「――エーデルローゼ。高さ、約三十二ミリ。葉、三枚。週を持ち越してきた落ち着きがある気がする。今日の光、戻ってきた光」


 書いて、止まった。


 「戻ってきた光」


 (――光の名前に、なりましたのね)


 (先週の「着いた光」と並んで、初めて、土曜日の光に「重なり」が生まれましたのね)


 (月曜日・火曜日・水曜日・木曜日・金曜日に続き、今日の土曜日も――二週分の名前が、揃いましたのね)


 (これで――一週間の全曜日に、重なりが生まれましたのね)


 「――子爵の庭の薔薇。高さ、約十四ミリ。葉、四枚(変化なし)。ゆったりと収まっている気がする。今日も、戻ってきた光」


 書き終えて、二十二枚の紙を、ぱらぱらと、めくった。


 (――十九種類に、なりましたのね)


 (数えるつもりはありませんでしたのに、わかりましたのね)


 (月曜日から今日の土曜日まで――二週分の重なりが、六曜日分、揃いましたのね)


 (一週間の全曜日に、「二枚目」が重なりましたのね)


 紙を、丁寧に折って、懐にしまった。


――――――


 夕方、オットーが書斎に入ってきた。


 「――お嬢様。本日の記録についてでございますが」


 「ええ」


 「――診療所の記録に、九枚目のページが加わりました。「来た」「連れてきた」「教えた」「お使いで来た」「来なくても機能した」「心配して自分の判断で来た」「渡した言葉が弟を動かした」「弟が感謝を届けた」に続いて、本日「渡した言葉が喜びになって戻ってきた」という記録でございますね。今回は、言葉が円を描いて戻ってきた、初めての記録でございます」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――「円を描いた」という形が、九枚のページに見えてきましたのね)


 (最初は「来た」という一点でしたのね)


 (今日は「渡したものが戻ってきた」という、閉じた形になりましたのね)


 (点から線へ、線から面へ、面に厚みが生まれて――そして、円になりましたのね)


 「――ええ」レオノーラは言った。「九枚重なって――記録が「円」になりましたのよ。「来た」という最初の点から始まって、今日「渡したものが戻ってきた」という形で、初めて閉じましたのね。でも――閉じることは、終わりではありませんのよ。円は、また次の動きの始まりになりますのね」


 オットーは、静かに、一礼した。


 (――「円は次の始まり」)


 (お嬢様が、初めて、その言葉を使われましたよ)


 (九枚のページが重なって、記録という「平面」が、時間の流れの中で「円環」という立体の形になりましたよ)


 「――また、温室の二十二枚目には「戻ってきた光」という記録が入っております。先週の「着いた光」に続く、二週目の土曜日の名前でございますね。これで月曜日から土曜日まで、一週間の全曜日に二週分の名前が揃いましたね」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――一週間の全曜日に、「重なり」が生まれましたのね)


 (月曜日から土曜日まで、六曜日分の「前の一枚」が揃いましたのね)


 (「点が線になる」「線が面になる」「面に厚みが生まれる」の次は――)


 (「厚みのある面が、流れになる」感じがしますのね)


 「――ええ」レオノーラは言った。「月曜日から土曜日まで、六曜日分の重なりが揃いましたのね。「面に厚みが生まれる」の次は――「厚みが流れになる」感じがしてきますのよ。平らでも点でも線でもなく、時間そのものに「流れの形」が宿る感じですのよ」


 老執事は、深く、一礼した。


 (――「厚みが流れになる」)


 (月曜から土曜まで、六本の線が並んで面になり、二週分の重なりが厚みを生んで、今日、その厚みが「時間の流れ」として立ち現れましたよ)


 (第四章の「重なるものに、形が見える」という章題が、今日の土曜日で、一週間分の全曜日において確かなものになりましたよ)


――――――


 夜、書簡を書いた。


「アドリアン。今日は二度目の土曜日でした。先週の「着いた光」と重なって、今日の土曜日の光を「戻ってきた光」と名付けましたのね。「着いた」と「戻ってきた」は、同じようで違いましたのよ。着くのは初めての場所ですのに、戻ってくるのは、もう自分の場所になっているところですのね。光の名前が十九種類になりましたのよ。月曜日から土曜日まで、一週間の全曜日に重なりが揃いましたのね。「面に厚みが生まれる」の次は「厚みが流れになる」感じが、今日しましたのよ。診療所の記録が九枚目になりました。弟が「ありがとう」を届けたことが、お姉ちゃんのところに喜びとして戻ってきましたのね。言葉が円を描きましたのよ。でも円は終わりではなく、また次の始まりになりますのね。計画外の草花と隣の苗は「一緒にいる」感じの中に、今週も静かにいるそうです。整地した土と植えた苗と、それぞれの「変化なし」が、それぞれの時間の中で続いていますのよ。今週は、月曜日から毎日「二度目の」という書き出しで、あなたに書きましたのね。先週の一日一日が、今週の「前の一枚」になっていて、今週の一日一日は、来週の「前の一枚」になっていきますのね。重なって、流れになりますのよ。返信は、また、数日後かもしれません。同じ時刻で。――好意として」


 書き終えて、レオノーラは、その書簡を、しばらく、見た。


 (――「今日は二度目の土曜日でした」から、また、書き始めましたのね)


 (今週は月曜日から土曜日まで、毎日「二度目の」という書き出しになりましたのね)


 (六日続けて、「重なり」を持って書き始めましたのね)


 封をして、オットーに渡した。


 「――今夜中に」


 「かしこまりました」


 オットーは、それを受け取って、少しだけ、間を置いた。


 「――お嬢様。今週、月曜日から今日の土曜日まで、六日続けて「二度目の」という書き出しになっておられますね。一週間の平日と土曜日、全ての曜日が「二度目の」という書き出しで揃いました」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 「――そうなりましたのね」レオノーラは言った。「先週の一週間が、今週の「前の一枚」になっていて――今週の一週間は、来週の「前の一枚」になっていきますのね。一日一日が重なるだけでなく、一週間そのものが重なっていきますのよ。今週という「形」が、来週の「前の一枚」になりますのね」


 老執事は、深く、一礼した。


 (――「一週間が重なる」)


 (一日の重なりから始まって、今日、一週間という単位の重なりへと、お嬢様の言葉が到達しましたよ)


 (来週の月曜日には、また、「三度目の月曜日」が来るでしょうか)


 (それとも、新しい名前が生まれるでしょうか)


 (どちらであっても――重なりは、続いていきますよ)


――――――


 夜、寝室の文机の上に、冊子があった。


 レオノーラは、それを、手に取った。


 最初のページから、ゆっくり、読んだ。


 「今日は晴れ」から始まって、光の名前が並んでいた。「気合いの入った青」があった。「気合いが馴染んだ光」があった。「流れの中の真ん中」があった。「週末の気配」があった。「週末の入り口」があった。「着いた光」があった。「知っている青」があった。「いてくれる青」があった。「見えている真ん中」があった。「知っている気配」があった。「知っている入り口」があった。


 そして、今日――「戻ってきた光」が、加わった。


 (――十九種類に、なりましたのね)


 (先週の月曜日から今日の土曜日まで――二週分の光が、六曜日分、重なっていますのね)


 (「気合いの入った青」と「知っている青」が、月曜日として並んでいますのね)


 (「気合いが馴染んだ光」と「いてくれる青」が、火曜日として並んでいますのね)


 (「流れの中の真ん中」と「見えている真ん中」が、水曜日として並んでいますのね)


 (「週末の気配」と「知っている気配」が、木曜日として並んでいますのね)


 (「週末の入り口」と「知っている入り口」が、金曜日として並んでいますのね)


 (「着いた光」と「戻ってきた光」が、土曜日として並んでいますのね)


 (六曜日分の「流れ」が、冊子の中で、一週間という「形」になりましたのね)


 患者の書簡が、挟まれていた。九枚のページが、並んでいた。「元気に歩いて来た」があった。「弟を連れて来た」があった。「ここに来ると診てもらえると教えた」があった。「お使いで来た。怖がっていなかった」があった。「来ていないのに窓口になっている」があった。「教えてもらったとおりにしている。心配して、自分の判断で来た」があった。「教えてもらった言葉で、弟が一人で来た。また来ていいですかと言っていた」があった。「弟が「ありがとう」を持って来た。お姉ちゃんに教えてもらいましたと言っていた」があった。そして今日、「弟が来たことが喜びとしてお姉ちゃんに戻った。言葉が円を描いた」という言葉が、その次のページに加わっていた。


 (――九枚のページが、並んでいますのね)


 (「来た」という記録から始まって、今日は「円を描いた」という記録になりましたのね)


 (でも円は終わりではなく、また次の始まりになりますのね)


 (次のページには――何が来るでしょうかしら)


 「エーデルローゼ。高さ、約三十二ミリ。葉、三枚。週を持ち越してきた落ち着きがある気がする。今日の光、戻ってきた光」


 「子爵の庭の薔薇。高さ、約十四ミリ。葉、四枚(変化なし)。ゆったりと収まっている気がする。今日も、戻ってきた光」


 (――「週を持ち越してきた落ち着きがある気がする」と「ゆったりと収まっている気がする」)


 (どちらも「気がする」ですのね)


 (確認できませんのね。でも――消えませんのよ)


 (これが――「信じている」ことですのね)


 (そして今日――六曜日分の重なりが揃って、「厚みが流れになる」感じがしましたのね)


 冊子を、静かに、閉じた。


 窓の外に、夜の王都があった。今夜は、穏やかだった。


 南の診療所は今夜も機能しているはずだった。言葉が円を描いて戻ってきた後も、その場所は今夜も誰かの「来るところ」として、そこにあるはずだった。西区の水路は今夜も通っているはずだった。周縁部の計画外の草花は――今夜も、隣の苗と「一緒にいる」感じの中に、静かに立っているはずだった。植えた苗は――今夜も、土の中で、時間を積み重ねているはずだった。


 温室には――二十二枚の記録を持つ、二つの芽があった。一方は週を持ち越してきた落ち着きがある気がする。一方はゆったりと収まっている気がする。


 帝国では――今夜、殿下が、「二度目の土曜日」という言葉を、読んでおられるだろうか。


 (――先週と今週の土曜日が、冊子の中で、並んでいますのね)


 (「着いた光」と「戻ってきた光」が、一週間を挟んで、隣り合っていますのね)


 (重なって、土曜日の「感じの流れ」が、形になりましたのね)


 (これが――「重なるものに、形が見える」ということかもしれませんのね)


 冊子を、文机の上に、戻した。


 今日の土曜日を、思った。「二度目の土曜日」という言葉で書簡を書き出した朝。「言葉が円を描いて戻ってきた」という九枚目が加わった午前。「戻ってきた光」という光の名前が生まれた昼。「一週間の全曜日に重なりが揃った」という節目の夕方。「厚みが流れになる」という感覚を持った夜。


 (――これが、今日の「あったこと」ですのね)


 (二度目の土曜日の、積み重ねですのね)


 (来週の月曜日ですのね)


 (今週の月曜日の「知っている青」と、先週の月曜日の「気合いの入った青」が並んでいますのね)


 (来週の月曜日は――三枚目が重なりますのね)


 (二枚重なって「線」になったものが、三枚重なると――「線」はどうなりますかしら)


 (重なりには、まだ、続きがありますのね)


 (――それを、楽しみにしていますのね)


 (以前は、なかった感覚ですのよ)


――――――


(第五十一話 了)

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