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悪女は正しい  作者: Dちゃん
第四章「重なるものに、形が見える」

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第49話 悪役令嬢、二週目の木曜日を歩む

 木曜日の朝、帝国からの書簡は、なかった。


 オットーが、朝の業務一覧を持ってきたとき、その紙の上に、書簡はなかった。


 (――昨日の水曜日に出しましたのね)

 (返信は、また、数日後かもしれませんのね)

 (でも――「まだ来ていない」ですのね)


 今日の王都の空は、木曜日だった。


 (――また、曜日で呼んでいますのね)

 (先週の木曜日は「週末の気配」でしたのね)

 (今日は――その気配を、最初から知っていて迎えますのね)

 (先週は、流れの中でふと「もうすぐ週末だ」と気づいた感じでしたのに)

 (今日は――「週末が近い」ということを、朝から知っていますのね)

 (知る前の気配と、知った後の気配は――同じようで、違いますのかしら)


――――――


 木曜日は、定例の文官報告が二件と、午後に東区市場の月次巡回があった。


 オットーが、朝の業務一覧を差し出した。


 「――今日の予定は、以上でございます」


 「わかりましたわ」


 一件目は、南区診療所の週次確認だった。


 「担当医師からの所見:「今週、先週来た子どもの弟が、一人で来ました。最初は入り口でしばらく立っていましたが、受付の者が声をかけると、「お姉ちゃんに教えてもらった」と言って入ってきました。診察の結果、熱はほぼ下がっていました。帰り際、「また来ていいですか」と聞いていきました」」


 レオノーラは、その言葉を、しばらく、見た。


 (――「弟が、一人で来た」のですのね)

 (お姉ちゃんに、教えてもらって)

 (「お姉ちゃんに教えてもらった」という言葉がありますのね)

 (あの子どもが教えたことが、弟の中に残っていて――弟が、一人で来ましたのね)

 (「元気に歩いて来た」「弟を連れて来た」「別の子に教えた」「お使いで来た」「来なくても窓口として機能した」「心配して自分の判断で来た」)

 (そして今週――「その子が教えた言葉が、別の人を動かした」)

 (七枚目のページに、なりましたのね)


 「――オットー」


 「はい」


 「――「弟が「お姉ちゃんに教えてもらった」と言って一人で来た」という事実と、「また来ていいですか」という弟の言葉を、七枚目のページに記録してください。あの子どもが渡した言葉が、別の人を動かしましたのね」


 老執事は、少しだけ、目を細めた。


 (――七枚目のページが、加わりますね)

 (一人の子どもから始まった記録が、今日、別の人の「初めての来院」を生みました)

 (「来た」という記録が、「来させた」という記録になりましたよ)


 二件目は、周縁部第一区の緑地化工事の週次報告だった。


 「担当者からの所見:「計画外の草花ですが、今週、隣に植えた苗の傾きが少し戻った気がします。向き合っていた感じが、今週は並んでいる感じがします。草花の方も、全体的に少し落ち着いてきた気がします。合計三枚の葉が、それぞれ、ゆったりしている感じです」」


 レオノーラは、その言葉を、もう一度、読んだ。


 (――「向き合っていた感じ」が「並んでいる感じ」に変わりましたのね)

 (「向き合う」の次は「並ぶ」ですのね)

 (出会いの後に、横に並ぶ段階があるのですのね)

 (「気がします」という言葉が、また、ありますのね)

 (担当者が、確認できないことを、また書いてくれましたのね)


 「――オットー」


 「はい」


 「――「向き合っていた感じが並んでいる感じに変わった」という担当者の観察と、「葉がゆったりしている」という言葉を、どちらも記録してください。「気がします」という言葉も、そのまま残してくださいませのよ。確認できないことが続いて残っていることが、大事ですのね」


 オットーは、少しだけ、間を置いた。


 (――「確認できないことが続いて残っている」)

 (先週も「気がする」という言葉をそのまま残されました)

 (二週続けて残ることで、「気がする」が「確かなもの」に近づいていきますよ)


――――――


 昼過ぎ、マリアが昼食を持ってきた。


 「――今日は、どんな空ですか」


 「木曜日の空ですのね」レオノーラは言った。「でも――先週の木曜日とは、少し違いますのよ」


 マリアは、トレイを置きながら、少しだけ、目を細めた。


 「――どう違うんですか」


 「先週の木曜日は――週の流れの中で、ふと「もうすぐ週末だ」と気づいた感じでしたのね」レオノーラは言った。「今日は――朝から「週末が近い」と知っていますのよ。気配を知った上で、その中にいる感じがしますのね」


 マリアは、少しだけ、考えた。


 「……なんか、それって、遠足の前の日みたいな感じですよね。初めての遠足の前日は、「何が起こるんだろう」ってドキドキするじゃないですか。でも二回目の遠足の前日は、「あ、あの感じが来る」ってわかってて、ちょっと楽しみが違う感じっていうか」


 「「あ、あの感じが来る」」レオノーラは言った。「――ええ。それは、先週より落ち着いた楽しみですのね。「知っている楽しみ」とでも言いますかしら」


 マリアは、少しだけ、窓の外を見た。


 「……でも、なんか今日の空って、「楽しみ」というよりも、もうちょっと静かな感じがしませんか。ほわっとしてるというか、柔らかい感じというか」


 「「柔らかい」」レオノーラは言った。「――ええ。「気配」は気配なのですのに、今日は尖っていない感じがしますのよ。先週の「週末の気配」は、「もうすぐ来る」という少しだけ前のめりな感じがありましたのね。今日は――「来ることを知っていて、待っている」感じですのよ」


 マリアは、それを聞いて、少しだけ、止まった。


 「――「待っている」って、なんか、急いでいない感じですね。「来る」ってわかってるから、焦らなくていい、みたいな」


 「ええ」レオノーラは言った。「「知っている気配」とでも、言いますかしら。気配であることは変わりませんのに、知っているから、急がなくていい感じがしますのよ」


 (――「知っている気配」)

 (言ってから、少し、止まりましたのね)

 (「週末の気配」と「知っている気配」が――同じ木曜日の名前として、並びますのね)

 (先週は「気づいた」でしたのね。今日は「知っていて待っている」ですのね)

 (「気づく」ことと「知っていて待つ」ことは――同じようで、違いますのね)

 (気づくのは一度ですのに。知っていて待つのは――続きますのね)


 「――マリア」レオノーラは言った。「先週の「またこの空か」から始まって、今日の「知っている気配」まで――あなたの言葉から、毎週、何かが出てきますのね」


 マリアは、少しだけ、にこりとした。


 「――なんか、お嬢様と話してると、私も自分が何を感じてたかわかる気がするんですよね。「柔らかい」って言っておいて、それがどういうことか、お嬢様に言葉にしてもらって、初めて「あ、そういうことか」ってなるっていうか」


 (――「言葉にしてもらって、初めてわかる」)

 (診療所のあの子どもも――医師に教わったことを「持ち歩いて」いましたのね)

 (言葉は、受け取った後に、その人の中で形になりますのね)

 (渡す前には、その形は見えませんのね)


――――――


 午後、東区市場の月次巡回に出た。


 東区の市場は、今月も、活気があった。先月と変わらず、人の行き来があった。


 (――「変わらず、活気がある」ですのね)

 (これも、記録に値することですのね)

 (先月の「活気がある」と今月の「活気がある」が重なって――「続いている活気」という形が、見えてきますのね)


 担当者が、今月の変化点を報告した。


 「――今月、新しい野菜の売り場が一区画増えました。周縁部の農家が直接持ち込むようになったもので、先月末に申請があり、今月から始まりました。小さな区画ですが、午前中は早々に売り切れることが多いようです」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――「周縁部の農家が直接持ち込む」ですのね)

 (緑地化計画で整備された周縁部から、市場へと繋がりましたのね)

 (計画が、市場という別の場所で、動いていましたのね)

 (わたくしが知らないところで、点と点が繋がっていましたのね)


 「――担当者」


 「はい」


 「――「周縁部の農家が直接持ち込む区画が増えた」という事実を、今月の市場記録に残してください。緑地化計画との繋がりは、確認できなくとも、「周縁部から」という言葉だけは、記録に入れてくださいませのよ。後で重なって、形が見えることがありますのよ」


 担当者は、静かに、一礼した。


 (――「後で重なって、形が見える」)

 (今日の巡回で、また、その言葉が出てきましたのね)

 (昨日の「前の一枚」と同じ感覚ですのね)

 (今日の記録が、未来の誰かの「前の一枚」になりますのね)


――――――


 温室に戻ったのは、夕方近くだった。


 二つの芽が、そこにあった。


 植木鉢の前に、しゃがんだ。


 エーデルローゼの芽は――昨日より、わずかに高くなっていた気がした。葉が、三枚のままだった。でも、今日の光を受けて、全体に、落ち着いた重さがある気がした。


 (――「落ち着いた重さ」)

 (月曜日の「落ち着いた深さ」、火曜日の「静かに安定している」、水曜日の「中心を持っている」の次の木曜日ですのね)

 (「深さ」が「安定」になって、「安定」が「中心」になって、「中心」が「重さ」になりましたのね)

 (軸ができると、重さが生まれる感じがしますのね)


 子爵の庭の薔薇の芽は――葉が四枚のままだった。でも、全体として、今日は少し、落ち着いて広がっている感じがした。


 (――「落ち着いて広がっている」)

 (月曜日の「静かに確かに始めている」、火曜日の「伸びやか」、水曜日の「両方向に広がっている」の次の木曜日ですのね)

 (「広がり」が、今日は「落ち着いた広がり」になりましたのね)

 (広がることに、慣れてきた感じがしますのね)


 懐から紙を取り出した。二十枚目を開いた。


 「――エーデルローゼ。高さ、約三十ミリ。葉、三枚。落ち着いた重さがある気がする。今日の光、知っている気配」


 書いて、止まった。


 「知っている気配」


 (――光の名前に、なりましたのね)

 (先週の「週末の気配」と並んで、初めて、木曜日の光に「重なり」が生まれましたのね)

 (月曜日・火曜日・水曜日に続き、今日の木曜日も――二週分の名前が、揃いましたのね)


 「――子爵の庭の薔薇。高さ、約十三ミリ。葉、四枚(変化なし)。落ち着いて広がっている気がする。今日も、知っている気配」


 書き終えて、二十枚の紙を、ぱらぱらと、めくった。


 (――十七種類に、なりましたのね)

 (数えるつもりはありませんでしたのに、わかりましたのね)

 (月曜日から今日の木曜日まで――二週分の重なりが、四曜日分、揃いましたのね)


 紙を、丁寧に折って、懐にしまった。


――――――


 夕方、オットーが書斎に入ってきた。


 「――お嬢様。本日の定例業務、以上でございます」


 「ええ、ありがとう」


 オットーは、少しだけ、間を置いた。


 「――本日の記録についてでございますが」


 「ええ」


 「――診療所の記録に、七枚目のページが加わりました。「来た」「連れてきた」「教えた」「お使いで来た」「来なくても機能した」「心配して自分の判断で来た」に続いて、本日「教えた言葉が別の人を動かした。弟が一人で来た」という記録でございますね。今回は初めて、その子どもが「いない場面」での記録でございます」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――「いない場面」での記録ですのね)

 (先週の五枚目は「来なくても窓口として機能した」でしたのね)

 (今週は――「来ていないのに、誰かを動かした」ですのね)

 (「機能している」の次は「動かしている」ですのね)

 (七枚重なって――一人の子どもの存在が、波紋のように広がっていく形が、見えてきましたのね)


 「――ええ」レオノーラは言った。「七枚重なって――その子の存在が、波紋のように広がっていく「形」が、見えてきましたのよ。「来た」という記録が、今日は「動かした」という記録になりましたのね。本人がいなくても、渡した言葉が動いていますのよ」


 オットーは、静かに、一礼した。


 (――「渡した言葉が動いている」)

 (お嬢様が、初めて、その言葉を使われましたよ)

 (七枚のページが重なって、一人の子どもの存在が「場所」を超え「関係」を超え「波紋」になりましたよ)


 「――また、温室の二十枚目には「知っている気配」という記録が入っております。先週の「週末の気配」に続く、二週目の木曜日の名前でございますね。月曜日・火曜日・水曜日と同じく、木曜日の名前も、二つ、並びました」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――「週末の気配」と「知っている気配」が、一週間を挟んで並んでいますのね)

 (「気配を感じた」と「気配を知っていて待つ」は――同じ気配でも、立ち方が違いますのね)

 (一枚目は「発見」で、二枚目は「用意している」ですのね)


 「――ええ」レオノーラは言った。「月曜日から木曜日まで、四曜日分の重なりが揃いましたのね。「点が線になる」の次は――「線が面になる」感じがしてきますのよ。一本の線ではなく、何本かの線が並んで、初めて「形の広がり」が見えてきます気がしますのよ」


 老執事は、深く、一礼した。


 (――「線が面になる」)

 (昨日の「点が線になる」の次の言葉が、今日、出てきましたよ)

 (月曜から木曜まで、四本の線が並んで――一週間という「面」の形が、見えてきていますよ)

 (第四章は、今週をかけて、確かなものになっていきますよ)


――――――


 夜、書簡を書いた。


「アドリアン。今日は二度目の木曜日でした。先週の「週末の気配」と重なって、今日の木曜日の光を「知っている気配」と名付けましたのね。「気配を感じた」と「気配を知っていて待つ」は、同じ気配でも立ち方が違いましたのよ。知っていると、急がなくてよくなりますのね。光の名前が十七種類になりましたのよ。診療所のあの子どもが渡した言葉が、弟を一人で動かしましたのね。七枚のページが重なって、「渡した言葉が動いている」という形が、見えてきましたのよ。計画外の草花の隣の苗が、「向き合う」から「並ぶ」に変わったそうです。出会いの次は、並ぶ段階がありますのね。東区市場に、周縁部から農家が直接持ち込む区画が生まれましたのよ。わたくしの知らないところで、点と点が繋がっていましたのね。月曜日から木曜日まで、四曜日分の重なりが揃いましたのね。「点が線になる」の次は「線が面になる」感じが、今日しましたのよ。返信は、また、数日後かもしれません。同じ時刻で。――好意として」


 書き終えて、レオノーラは、その書簡を、しばらく、見た。


 (――「今日は二度目の木曜日でした」から、また、書き始めましたのね)

 (今週は月曜日から毎日、「二度目の」という言葉で書き始めていますのね)

 (先週があるから、今週がありますのね)

 (「前の一枚」があるから、「今の一枚」が重なれますのね)


 封をして、オットーに渡した。


 「――今夜中に」


 「かしこまりました」


 オットーは、それを受け取って、少しだけ、間を置いた。


 「――お嬢様。今週、月曜日から今日の木曜日まで、四日続けて「二度目の」という書き出しになっておられますね。先週は「今日は〇曜日でした」という書き出しで、今週は「二度目の〇曜日でした」という書き出しになっておられます」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 「――そうなりましたのね」レオノーラは言った。「気づいていませんでしたのよ。でも――今週の一日一日は、先週と重なって、初めてその曜日の「感じの流れ」がある日ですのね。だから「二度目の」という言葉が、自然に出てきますのよ。先週の一日一日が、今週の「前の一枚」になっていますのね。「前の一枚」があるからこそ、「二度目の」という言葉が、生まれますのよ」


 老執事は、深く、一礼した。


 (――「前の一枚があるからこそ、二度目がある」)

 (先週の一日一日が、今週の「前の一枚」になっています)

 (そして今週の一日一日は、来週の「前の一枚」になっていきますよ)

 (第四章が、着実に、重なりを積み重ねていきますよ)


――――――


 夜、寝室の文机の上に、冊子があった。


 レオノーラは、それを、手に取った。


 最初のページから、ゆっくり、読んだ。


 「今日は晴れ」から始まって、「気合いの入った青」があった。「気合いが馴染んだ光」があった。「流れの中の真ん中」があった。「週末の気配」があった。「週末の入り口」があった。「着いた光」があった。「知っている青」があった。「いてくれる青」があった。「見えている真ん中」があった。


 そして、今日――「知っている気配」が、加わった。


 (――十七種類に、なりましたのね)

 (先週の月曜日から今日の木曜日まで――二週分の平日の光が、四曜日分、重なっていますのね)

 (「気合いの入った青」と「知っている青」が、月曜日として並んでいますのね)

 (「気合いが馴染んだ光」と「いてくれる青」が、火曜日として並んでいますのね)

 (「流れの中の真ん中」と「見えている真ん中」が、水曜日として並んでいますのね)

 (「週末の気配」と「知っている気配」が、木曜日として並んでいますのね)

 (四曜日分の「流れ」が、冊子の中で、形になってきていますのね)


 患者の書簡が、挟まれていた。「元気に歩いて来た」があった。「弟を連れて来た」があった。「ここに来ると診てもらえると教えた」があった。「お使いで来た。怖がっていなかった」があった。「来ていないのに窓口になっている」があった。「教えてもらったとおりにしている。心配して、自分の判断で来た」があった。そして今日、「教えてもらった言葉で、弟が一人で来た。また来ていいですかと言っていた」という言葉が、その次のページに加わっていた。


 (――七枚のページが、並んでいますのね)

 (「来た」という記録から始まって、今日は「動かした」という記録になりましたのね)

 (七枚重なって、一人の子どもの存在が、波紋のように広がっていく形が、見えてきましたのね)

 (次のページには――何が来るでしょうかしら)


 「エーデルローゼ。高さ、約三十ミリ。葉、三枚。落ち着いた重さがある気がする。今日の光、知っている気配」


 「子爵の庭の薔薇。高さ、約十三ミリ。葉、四枚(変化なし)。落ち着いて広がっている気がする。今日も、知っている気配」


 (――「落ち着いた重さがある気がする」と「落ち着いて広がっている気がする」)

 (どちらも「気がする」ですのね)

 (確認できませんのね。でも――消えませんのよ)

 (これが――「信じている」ことですのね)

 (そして今日――四曜日分の重なりが揃って、「線が面になる」感じがしましたのね)


 冊子を、静かに、閉じた。


 窓の外に、夜の王都があった。今夜は、穏やかだった。


 南の診療所は今夜も機能しているはずだった。あの子どもが今日いなくても、その子が渡した言葉が、弟の中で今夜も生きているはずだった。西区の水路は今夜も通っているはずだった。周縁部の計画外の草花は――今夜も、隣の苗と並んで、ゆったりと立っているはずだった。東区の市場には――周縁部から届いた野菜が、今日も早々に売り切れた後の空っぽの区画があるはずだった。


 温室には――二十枚の記録を持つ、二つの芽があった。一方は落ち着いた重さがある気がする。一方は落ち着いて広がっている気がする。


 帝国では――今夜、殿下が、「二度目の木曜日」という言葉を、読んでおられるだろうか。


 (――先週と今週の木曜日が、冊子の中で、並んでいますのね)

 (「週末の気配」と「知っている気配」が、一週間を挟んで、隣り合っていますのね)

 (重なって、木曜日の「感じの流れ」が、形になりましたのね)

 (これが――「重なるものに、形が見える」ということかもしれませんのね)


 冊子を、文机の上に、戻した。


 今日の木曜日を、思った。「二度目の木曜日」という言葉で書簡を書き出した朝。「渡した言葉が別の人を動かした」という七枚目が加わった午前。「知っている気配」という光の名前が生まれた昼。「点と点が繋がっていた」という発見のあった午後の巡回。「線が面になる」という感覚を持った夕方。


 (――これが、今日の「あったこと」ですのね)

 (二度目の木曜日の、積み重ねですのね)

 (明日は金曜日ですのね)

 (先週の「週末の入り口」の金曜日と――二度目の金曜日は、どう重なりますかしら)

 (「週末の入り口」を、今度は知っていて迎えますのね)

 (重なって初めて見えるものが、また、ありますかしら)

 (――それを、楽しみにしていますのね)

 (以前は、なかった感覚ですのよ)


――――――


(第四十九話 了)

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