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悪女は正しい  作者: Dちゃん
第四章「重なるものに、形が見える」

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第48話 悪役令嬢、二週目の水曜日を歩む

 水曜日の朝、帝国からの書簡が、届いた。


 オットーが、それを差し出すとき、一言添えた。


 「――月曜日にお出しになった書簡への、お返事でございます」


 レオノーラは、それを受け取った。


 (――一日、でしたわ)


 (「二度目の火曜日」という言葉を書いて――今日、届く)


 封を開けた。


「レオノーラ。「いてくれる青」、受け取りました。「再会の嬉しさ」が「ほっとする安心」に変わったこと、こちらでも同じような感覚がありました。一度目と二度目では、同じものが違って見える。二枚重なって、初めて見えてくるものがある。先週の水曜日は「流れの中の真ん中」と名付けていましたね。二度目の水曜日は、どんな感じがするでしょうか。「真ん中」にいることを、今度は知っていて迎えますね。返信は、また、数日後になるかもしれません。同じ時刻で。――好意として」


 レオノーラは、「今度は知っていて迎えますね」という一文を、もう一度、読んだ。


 (――「知っていて迎える」)


 (先週の土曜日に「知っていて迎えた土曜日」を過ごしましたのね)


 (今日は――「知っていて迎える水曜日」ですのね)


 (「流れの中の真ん中」というのは、先週、流れの中にいながらそれを感じた名前でしたのね)


 (今日は――「真ん中にいること」を最初から知っていて、迎えますのね)


 (知る前と知った後では、同じ「真ん中」でも、感じが変わりますかしら)


 窓の外を見た。今日の王都の空は、水曜日だった。


 (――また、曜日で呼んでいますのね)


 (先週の水曜日は、月曜日の「気合い」と火曜日の「馴染み」の後に、ふと気づいたら「真ん中」にいた感じでしたのね)


 (今日は――月曜日から「知っている青」で始まって、火曜日に「いてくれる青」があって、今日に来ましたのね)


 (流れそのものが、先週より落ち着いていますのね)


 (「落ち着いた流れの中の」、それでも「真ん中」ですのね)


 書簡を、静かに、折り畳んだ。


――――――


 水曜日は、定例の文官報告が二件と、午後に周縁部第二区の巡回があった。


 オットーが、朝の業務一覧を差し出した。


 「――今日の予定は、以上でございます」


 「わかりましたわ」


 一件目は、南区診療所の週次確認だった。


 「担当医師からの所見:「今週、またあの子が来ました。今度は一人で、薬の受け取りではなく、弟の具合を聞きに来たそうです。「先生に教えてもらったとおりにしているのに、熱が三日続いている」と言っていました。診察の結果、大事には至りませんでしたが、その子が「教えてもらったとおりに」という言葉を使ったことが、印象に残っています。教えたことが、その子の中に残っていたのですね」」


 レオノーラは、その言葉を、しばらく、見た。


 (――また、来ましたのね)


 (今度は自分のためでも弟の薬のためでもなく――「心配だから来た」のですのね)


 (「教えてもらったとおりにしているのに」という言葉がありますのね)


 (診療所で教わったことを、日々の暮らしの中で使っていましたのね)


 (「来た」「弟を連れた」「別の子に教えた」「お使いで来た」「来なくても窓口として機能した」)


 (そして今週――「心配して、自分から来た」)


 (六枚目のページに、なりましたのね)


 「――オットー」


 「はい」


 「――「教えてもらったとおりにしている」という言葉と、「心配して自分から来た」という事実を、六枚目のページに記録してください。「来た」から始まった記録が、今日は「自分で判断して来た」になりましたのね」


 老執事は、少しだけ、目を細めた。


 (――六枚目のページが、加わりますね)


 (「来た」という事実から始まって、今日は「なぜ来たか」を持って来ましたよ)


 (場所が、その子に「判断の根拠」を与える場所になっていますよ)


 二件目は、周縁部第一区の緑地化工事の週次報告だった。


 「担当者からの所見:「計画外の草花ですが、今週、もう一枚、葉が増えました。合計三枚になっています。それと、隣に植えていた苗の一本が、この草花の方を向いて少し傾いている気がします。気のせいかもしれませんが、なんとなく、向き合っているような感じがしました」」


 レオノーラは、その言葉を、もう一度、読んだ。


 (――また、葉が増えましたのね)


 (先週から数えると、二週続けて変化がありましたのね)


 (「様子を見る」→「葉が一枚増えた」→「葉がまた一枚増えた」)


 (一度の変化では「偶然かもしれない」でしたのね)


 (二度重なって――「育っている」という形が、見えてきましたのね)


 (「隣の苗が傾いている気がする」という言葉が、ありますのね)


 (「気のせいかもしれない」という言葉も、ありますのね)


 (でも――担当者が感じて、書いてくれましたのね)


 「――オットー」


 「はい」


 「――「葉がまた一枚増えた(合計三枚)」という事実と、「隣の苗が向き合っているような気がした」という担当者の観察を、どちらも記録してください。「気のせいかもしれない」という言葉も、そのまま残してくださいませのよ」


 オットーは、少しだけ、間を置いた。


 (――「気のせいかもしれない」をそのまま残す)


 (以前のお嬢様は、確認できないことは記録から省いておられました)


 (今は――「気がした」という事実そのものが、記録に値すると知っておられます)


 (重なって、草花の成長の「形」が見え始めましたよ)


――――――


 昼過ぎ、マリアが昼食を持ってきた。


 「――今日は、どんな空ですか」


 「水曜日の空ですのね」レオノーラは言った。「でも――先週の水曜日とは、少し違いますのよ」


 マリアは、トレイを置きながら、少しだけ、目を細めた。


 「――どう違うんですか」


 「先週の水曜日は――気づいたら「真ん中」にいた感じでしたのね」レオノーラは言った。「今日は――「真ん中にいること」を知っていて、ここにいますのよ。同じ「真ん中」でも、知る前と知った後では、感じが違いますのね」


 マリアは、少しだけ、考えた。


 「……なんか、それって、知らなかった頃と知ってからって、同じ場所でも全然違いますよね。例えば、昔行ったことのある場所にもう一度行くと、「あ、あそこにあれがあったんだ」ってわかるじゃないですか」


 「「あ、あそこにあれがあったんだ」」レオノーラは言った。「――ええ。先週は気づかなかったものが、今日は見えている感じがしますのよ」


 マリアは、窓の外を見た。


 「……今日の空って、なんか、どっしりしてる感じがしませんか。落ち着いているっていうか、重さがある感じ」


 「「重さがある」」レオノーラは言った。「――ええ。「軽い真ん中」ではなく、「重さを持った真ん中」という感じがしますのよ。先週は流れに気づいた瞬間でしたのね。今日は――流れを知った上で、その中心にいる感じですのよ」


 マリアは、それを聞いて、少しだけ、止まった。


 「――「その中心にいる」って、なんか、もう流されていない感じですね。先週は流れの中にいたけど、今週は流れを見ている、みたいな」


 「ええ」レオノーラは言った。「「見えている真ん中」とでも、言いますかしら」


 (――「見えている真ん中」)


 (言ってから、少し、止まりましたのね)


 (「流れの中の真ん中」と「見えている真ん中」が――同じ水曜日の名前として、並びますのね)


 (先週は「気づいた」でしたのね。今週は「見えている」ですのね)


 (気づくことと、見えていることは――同じようで、違いますのね)


 (気づくのは一度のことですのね。でも「見えている」は――続きますのね)


 「――マリア」レオノーラは言った。「今週も、あなたの言葉から出てきましたのね」


 マリアは、少しだけ、にこりとした。


 「――毎週ですよね、なんか。お嬢様と話すと、何かが出てくる」


 「ええ」レオノーラは言った。「「何かが出てくる」のは、あなたが「重さがある」と言ってくれたからですのよ。わたくし一人では、「重さ」という言葉には、たどり着きませんでしたのよ」


 マリアは、それを聞いて、少しだけ、黙った。


 「……なんか、そういうの、嬉しいですよね。自分の言葉が誰かの何かになるって」


 (――「自分の言葉が誰かの何かになる」)


 (診療所のあの子どもも――そういうことをしていましたのね)


 (「教えてもらったとおりにしている」という言葉も、誰かの言葉が自分の中で生きているということでしたのね)


 (言葉は、渡した後も、消えませんのね)


――――――


 午後、周縁部第二区の巡回に出た。


 今日の巡回先は、緑地化工事の第二区、遊歩道の一部が整備され始めた区域だった。


 担当者が、現地を案内した。


 「――こちらが、今週整地した区画でございます。来月から苗の植え付けを始める予定です」


 レオノーラは、整地された土の上を、しばらく、見た。


 (――まだ、何もありませんのね)


 (でも――これが「始まり」ですのね)


 (第一区では「計画外の草花」が育っていましたのね)


 (第二区は――まだ整地されたばかりですのね)


 (同じ「緑地化」の計画の中に、第一区の「育ちかけた草花」と、第二区の「まだ何もない土」が、並んでいますのね)


 (それも――重なって、「計画の形」になりますのね)


 「――担当者」


 「はい」


 「――この区画の整地が完了した日付を、記録に残してください。まだ何もない今日が、来月の苗の植え付けの「前の一枚」になりますのよ」


 担当者は、少しだけ、目を細めた。


 「――「前の一枚」、ですか」


 「ええ」レオノーラは言った。「何かが始まる前の日も、始まった後に重なって、初めて「始まりの形」が見えますのよ。何もなかった日を記録しておかないと、育ったときに、どこから来たかがわかりませんのよ」


 担当者は、静かに、一礼した。


 (――「何もなかった日を記録する」)


 (以前は、変化のない日は報告の対象外でございました)


 (今は――何もないことが、未来の「前の一枚」になると知っておられます)


――――――


 温室に戻ったのは、夕方近くだった。


 二つの芽が、そこにあった。


 植木鉢の前に、しゃがんだ。


 エーデルローゼの芽は――昨日より、わずかに高くなっていた気がした。葉が、三枚のままだった。でも、今日の光を受けて、全体が、静かに、中心を持っている感じがした。


 (――「中心を持っている」)


 (月曜日の「落ち着いた深さ」、火曜日の「静かに安定している」の次の水曜日ですのね)


 (「深さ」が「安定」になって、「安定」が「中心」になりましたのね)


 (軸が、生まれてきた感じがしますのね)


 子爵の庭の薔薇の芽は――葉が四枚のままだった。でも、全体として、今日は、両方向に少しずつ広がっている感じがした。


 (――「両方向に広がっている」)


 (月曜日の「静かに確かに始めている」、火曜日の「伸びやか」の次の水曜日ですのね)


 (「始まり」が「伸びやか」になって、「伸びやか」が「広がり」になりましたのね)


 (縦に伸びるだけでなく、横にも広がる感じがしますのね)


 懐から紙を取り出した。十九枚目を開いた。


 「――エーデルローゼ。高さ、約二十九ミリ。葉、三枚。中心を持っている気がする。今日の光、見えている真ん中」


 書いて、止まった。


 「見えている真ん中」


 (――光の名前に、なりましたのね)


 (先週の「流れの中の真ん中」と並んで、初めて、水曜日の光に「重なり」が生まれましたのね)


 (月曜日に続き、火曜日に続き、今日の水曜日も――二週分の名前が、揃いましたのね)


 「――子爵の庭の薔薇。高さ、約十二ミリ。葉、四枚(変化なし)。両方向に広がっている気がする。今日も、見えている真ん中」


 書き終えて、十九枚の紙を、ぱらぱらと、めくった。


 (――十六種類に、なりましたのね)


 (数えるつもりはありませんでしたのに、わかりましたのね)


 (月曜日、火曜日、そして今日の水曜日と――二週分の重なりが、三曜日分、揃いましたのね)


 紙を、丁寧に折って、懐にしまった。


――――――


 夕方、オットーが書斎に入ってきた。


 「――お嬢様。本日の定例業務、以上でございます」


 「ええ、ありがとう」


 オットーは、少しだけ、間を置いた。


 「――本日の記録についてでございますが」


 「ええ」


 「――診療所の記録に、六枚目のページが加わりました。「来た」「連れてきた」「教えた」「お使いで来た」「来なくても機能した」に続いて、本日「心配して、自分の判断で来た」という記録でございますね。今回は初めて、その子が「なぜ来たか」を持って来た記録でございます」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――六枚のページが、並んでいますのね)


 (最初は「来た」という事実でしたのね)


 (今日は「教えてもらったとおりにしている」という言葉がありましたのね)


 (診療所が、この子の中に「残っている」のですのね)


 「――ええ」レオノーラは言った。「六枚重なって――その子が診療所を「自分のものにした」形が、見えてきましたのよ。最初は場所として来て、今日は「教えを持ち歩いている」子になりましたのね」


 オットーは、静かに、一礼した。


 (――「教えを持ち歩いている」)


 (お嬢様が、初めて、その言葉を使われましたよ)


 (「来た」という外から見える事実から、「持ち歩いている」という内側の変化へ――記録の深さが、変わりましたよ)


 「――また、温室の十九枚目には「見えている真ん中」という記録が入っております。先週の「流れの中の真ん中」に続く、二週目の水曜日の名前でございますね。月曜日・火曜日と同じく、水曜日の名前も、二つ、並びました」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 (――「流れの中の真ん中」と「見えている真ん中」が、一週間を挟んで並んでいますのね)


 (「流れの中」にいることに気づいた、と「流れの中にいることが見えている」は――同じようで、やはり違いますのね)


 (一枚目は「発見」でしたのね。二枚目は「確認」ですのね)


 「――ええ」レオノーラは言った。「月曜日から水曜日まで、三曜日分の重なりが揃いましたのね。重なるほどに、それぞれの曜日の「感じの流れ」が、見えてきますのよ。一枚では点でしたのに、二枚では線になってきますのね」


 老執事は、深く、一礼した。


 (――「点が線になる」)


 (三十年間、記録は記録で、積み重ねに意味はないとお考えでした)


 (今は――重なることで、単体では見えない「時間の流れ」が形になると知っておられます)


 (第四章の「重なるものに、形が見える」という章題が、今日の水曜日で、三曜日分、確かなものになりましたよ)


――――――


 夜、書簡を書いた。


「アドリアン。今日は二度目の水曜日でした。「今度は知っていて迎える」という言葉、受け取りました。先週の「流れの中の真ん中」と重なって、今日の水曜日の光を「見えている真ん中」と名付けましたのね。「気づいた」と「見えている」は、同じようで違いましたのよ。気づくのは一度ですのに、見えているのは続きますのね。光の名前が十六種類になりましたのよ。診療所のあの子どもが、今週は心配して自分の判断で来たそうです。「教えてもらったとおりにしている」という言葉がありました。六枚のページが重なって、その子が診療所を「自分のものにした」形が、見えてきましたのね。計画外の草花の葉が、また一枚増えました。二週続けて変化があって、「育っている」という形が、初めて、見えてきましたのよ。月曜日・火曜日・水曜日と、三曜日分の重なりが揃いましたのね。「点が線になる」という感じが、今日、しましたのよ。返信は、また、数日後かもしれません。同じ時刻で。――好意として」


 書き終えて、レオノーラは、その書簡を、しばらく、見た。


 (――「今日は二度目の水曜日でした」から、また、書き始めましたのね)


 (今週は月曜日から、毎日「二度目の」という書き出しになっていますのね)


 (先週の曜日が、今週の「前の一枚」になっていますのね)


 封をして、オットーに渡した。


 「――今夜中に」


 「かしこまりました」


 オットーは、それを受け取って、少しだけ、間を置いた。


 「――お嬢様。今週、月曜日・火曜日・水曜日と三日続けて「二度目の」という書き出しになっておられますね。先週は「今日は〇曜日でした」でございましたが、今週は毎日、「重なり」を持って書き出しておられます」


 レオノーラは、それを聞いて、少しだけ、考えた。


 「――そうなりましたのね」レオノーラは言った。「気づいていませんでしたのよ。でも――今週の一日一日は、先週と重なって、初めて「流れ」の中にある日ですのね。だから「二度目の」という言葉が、自然に出てきましたのよ。先週の一日一日が、今週の「前の一枚」になっていますのね」


 老執事は、深く、一礼した。


 (――「前の一枚」)


 (今日の巡回でお嬢様が使われた言葉が、夜の書簡の中に、また現れましたよ)


 (昼間に生まれた言葉が、夜に書かれる言葉に、自然に繋がっていますよ)


 (これが――お嬢様の時間が「一日の中で」重なっている、ということですよ)


――――――


 夜、寝室の文机の上に、冊子があった。


 レオノーラは、それを、手に取った。


 最初のページから、ゆっくり、読んだ。


 「今日は晴れ」から始まって、「月曜日の光(気合いの入った青)」があった。「気合いが馴染んだ光」があった。「流れの中の真ん中」があった。「週末の気配」があった。「週末の入り口」があった。「着いた光」があった。「知っている青」があった。「いてくれる青」があった。


 そして、今日――「見えている真ん中」が、加わった。


 (――十六種類に、なりましたのね)


 (先週の月曜日から今日の水曜日まで――二週分の平日の光が、三曜日分、重なっていますのね)


 (「気合いの入った青」と「知っている青」が、月曜日として並んでいますのね)


 (「気合いが馴染んだ光」と「いてくれる青」が、火曜日として並んでいますのね)


 (「流れの中の真ん中」と「見えている真ん中」が、水曜日として並んでいますのね)


 (三曜日分の「流れ」が、冊子の中で、形になってきていますのね)


 患者の書簡が、挟まれていた。「元気に歩いて来た」があった。「弟を連れて来た」があった。「ここに来ると診てもらえると教えた」があった。「お使いで来た。怖がっていなかった」があった。「来ていないのに窓口になっている」があった。そして今日、「教えてもらったとおりにしている。心配して、自分の判断で来た」という言葉が、その次のページに加わっていた。


 (――六枚のページが、並んでいますのね)


 (「来た」という外の事実から始まって、今日は「持ち歩いている」という内側の変化になりましたのね)


 (六枚重なって、一人の子どもの「育ちの形」が、立体的に見えてきましたのね)


 「エーデルローゼ。高さ、約二十九ミリ。葉、三枚。中心を持っている気がする。今日の光、見えている真ん中」


 「子爵の庭の薔薇。高さ、約十二ミリ。葉、四枚(変化なし)。両方向に広がっている気がする。今日も、見えている真ん中」


 (――「中心を持っている気がする」と「両方向に広がっている気がする」)


 (どちらも「気がする」ですのね)


 (確認できませんのね。でも――消えませんのよ)


 (これが――「信じている」ことですのね)


 (そして今日――三曜日分の重なりが揃って、「点が線になる」感じがしましたのね)


 冊子を、静かに、閉じた。


 窓の外に、夜の王都があった。今夜は、穏やかだった。


 南の診療所は今夜も機能しているはずだった。あの子どもが今日、心配して自分の判断で歩いて来たはずだった。「教えてもらったとおりにしている」という言葉を、今夜も、その子の中に持っているはずだった。西区の水路は今夜も通っているはずだった。周縁部の第一区には――葉が三枚になった計画外の草花が、今夜も、隣の苗と向き合っているはずだった。第二区には――まだ何もない整地されたばかりの土が、来月の苗を待っているはずだった。


 温室には――十九枚の記録を持つ、二つの芽があった。一方は中心を持っている気がする。一方は両方向に広がっている気がする。


 帝国では――今夜、殿下が、「二度目の水曜日」という言葉を、読んでおられるだろうか。


 (――先週と今週の水曜日が、冊子の中で、並んでいますのね)


 (「流れの中の真ん中」と「見えている真ん中」が、一週間を挟んで、隣り合っていますのね)


 (重なって、水曜日の「感じの流れ」が、形になりましたのね)


 (これが――「重なるものに、形が見える」ということかもしれませんのね)


 冊子を、文机の上に、戻した。


 今日の水曜日を、思った。「二度目の水曜日」という言葉で書簡を書き出した朝。「心配して自分の判断で来た」という六枚目が加わった午前。「見えている真ん中」という光の名前が生まれた昼。「何もなかった日が前の一枚になる」と巡回先で感じた午後。三曜日分の重なりが「点から線になった」という感覚を持った夕方。


 (――これが、今日の「あったこと」ですのね)


 (二度目の水曜日の、積み重ねですのね)


 (明日は木曜日ですのね)


 (先週の「週末の気配」の木曜日と――二度目の木曜日は、どう重なりますかしら)


 (週末の「気配」を、今度は、最初から知っていて迎えますのね)


 (重なって初めて見えるものが、また、ありますかしら)


 (――それを、楽しみにしていますのね)


 (以前は、なかった感覚ですのよ)


――――――


(第四十八話 了)

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