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無職と行く迷宮冒険譚  作者: 賽ノ目seven
無職、少女の呪縛を解く
18/25

第六章 其の一 龍と成った少女

 あるところに小さな村がありました。

 そこで暮らす人々は決して裕福とは言えませんでしたが四方を囲む山々の豊富な恵みを皆で分け合い、慎ましくも穏やかに日々を過ごしていました。争いもなく、日々移ろう自然の姿を慈しみ、誰もがその幸せを噛み締める。そんな長閑な村。

 そんな村のはずれにたった一人だけ暗い表情を浮かべる少女がいました。

 少女は村の人間から腫れ物のように扱われていました。その理由は少女の父親にあったのです。彼女の父親は身体が岩石のように大きく、その身体が持つ力は誰も敵わない程でした。彼はその力でたくさんの人を傷つけ村を自分の思うように支配しました。そんな男の横暴に我慢ならなくなった人々は結託して男を谷底へ突き落としました。村にはまた平和が訪れ脅威は消え去ったのです。

 しかし、男の犯した罪は消えませんでした。

 男への恨みや憎しみは娘である少女へと向いてしまったのです。

 少女には誰も近づかず、彼女はいつも独りぼっちでした。

 それでも父の犯した罪を償い、いつか皆に許してもらえるよう少女は真面目に生ようと決めたのです。言いつけられた村の雑用をこなし、いつも笑顔でいて、時にはプレゼントも送ったりもしました。これならいつか皆自分を仲間に入れてくれるだろう。少女は来る日も来る日も希望を抱いて眠ります。

 しかし、どれだけ少女が雑用をこなしてもお礼一つ言われず、笑顔を向けてもそっぽを向かれ、プレゼントは受け取って貰えません。

 どうして、とめそめそ泣く少女に村の長がこう言いました。

 お前がどれだけ村の者に好かれようとしても、誰もお前を許しはしない。なぜならお前はあの男の…大罪人の娘なのだから。

 長の言葉に少女はどうすれば許されるのと聞きました。

 少女の縋るような訴えに長は黙って首を左右に振りました。

 少女はまた一人で泣くしかありませんでした。

 そんなある日のこと。北の山に大きな穴が突然現れたのです。穴からは魔物と呼ばれる見たことも無いような獣が出て来て、迷宮が出現したと村は大人も子供も大慌て。

 少女はもちろん蚊帳の外でしたが、一人のイタズラ好きな子供が少女に近づきこんなことを言うのです。あの穴の中にはとてつもないお宝がある。それがあればこの騒ぎもすぐに収まる。それどころかこの村はもっと潤う。もしお前がそれをあの穴から持って帰って来たのなら、皆お前に感謝して仲間にいれるだろうね。

 もちろんそれは真っ赤な嘘でした。

 だけど少女は男の子の言うことを信じてしまい、目を輝かせ穴へと向かいます。穴の中へ足を踏み入れた途端、少女は足を滑らせ闇の中へと落ちてしまいました。深い穴の底、そこには死の恐怖と魔物の気配があるばかり。身動きの取れない少女はガタガタと震え、どうしてこんなところに来てしまったのか後悔しますが、もう手遅れでした。

 少女は泣き叫び助けを呼びますがその声は虚しく穴の中で反響するだけで誰にも届くことはありません。

 誰にも助けてもらえない絶望感にポロポロ自然と涙が零れ止まりませんでした。

 少女の顔を覆っていた涙や鼻水はすっかり渇き、声も枯れてしまい、全てを諦めたその目からは希望の残渣も無くただ虚空を見つめるばかりでした。少女から希望の灯が消えるのを待っていたかのように闇の中から巨大な魔物が姿を現しました。魔物は少女を一飲みにしようと口を大きく開きます。少女は逃げることも泣くこともせず、ただ食べられるのを待つばかりでした。もう、これで終わる、と静かに目を伏せこれが運命だと身を委ねました。

 その時、一筋の雷が走ったのです。

 雷は闇の中にほんの一瞬だけ光を与えました。

 その僅かな時間で少女は確かに見たのです。二つに裂ける魔物と雷の正体を。

 雷は勇敢に剣を携え、髪やマントをなびかせるその姿はとても凛々しく、少女は目を奪われました。雷は呆気に取られている少女を抱えるとまるで羽がついてるかのように軽々と岩壁をのぼりあっという間に穴の外へと辿り着きました。

 どうして、私を助けてくれたの。

 少女は思わず雷に聞きました。長の言うことが本当ならば自分は救われるような人間ではないはず。そんな少女に雷はこう言いました。

 だって私は勇者だから。

 ユウシャ。それは少女にとって初めて聞く言葉でした。けれども、その響きはとても温かく心の中に希望が灯るようでした。少女の目からまた涙が零れ始めます。いつも流す涙と違い心は痛みを覚えず、それどころか心の傷が少しずつ埋まっていくようでした。

 勇者は少女が泣き止むと村へと送り届けますが二人を待っていたのは感謝ではなく非難の嵐でした。どうしてそんな奴を救ったのかと村人達は目を血走らせます。

 そこで少女の現状を知った勇者は村人達に少女を仲間に入れるようお願いしました。

 ふざけるなと一人の村人が怒鳴りながら詰め寄ってきます。怯えた少女は勇者の影に隠れますが、勇者は怯えるどころか男をなんとヘッドバットで倒してしまいました。

 それを見た村の人々は怒りの表情で次々勇者に襲い掛かってきます。しかし相手は村人程度、勇者の敵ではありませんでした。

 まず男の兄にはアッパーカットをかまし、次に大斧を振りかざす村一番の戦士にはジャンピングニーをきめ、そして山の精霊の力を借り強大な魔力を身に宿した村長にはブレーンバスターをくらわせました。それでも村人達は歯向かってきます。勇者は片っ端から千切っては投げ千切っては投げ、とうとう村中の大人をぎったんぎったんに懲らしめてしまいました。

 この子が一体何をした。

 勇者は大きな声で村人達に言い放ちます。

 村人達は何も言い返せずただひたすらに黙り込むばかりでした。そこで村人達はようやく気付くのです。自分達が少女にどれほど酷い仕打ちをしていたのか。

 それから勇者は迷宮の主を討伐するとしばらく少女家に泊まり、村人達の様子を見ることにしました。勇者の側にいると誰も少女に冷たい態度を取らずぎこちなくも村の仲間として接してくれます。夜になると勇者はこれまでした冒険について話してくれました。それは村の外に出たことの無い少女にとってはまさに夢物語のようでした。

 火を噴く山、島よりも巨大な生物が眠る海という場所、雲を突き抜ける世界樹。

 話を聞くたびに胸は高鳴り少女は眠れませんでした。

 しかし、そんな日がずっと続くことは無く。勇者の旅立つ日が来たのです。

 一緒に行きたい。

 少女はその言葉をぐっと堪えました。こんな弱い自分が勇者の側に立つ資格はない。少女は自分の弱さを恨みながら、無理矢理作った笑顔で勇者を見送りました。

 勇者が去ってからも村の人々は少女を仲間として扱ってくれました。だけど少女は知っています。

 皆心の中では自分を罪人の娘と見下していることを。

 そんなある日、酔った男が少女に因縁をつけてきました。周りの大人がなだめますが、ひどく酒に酔っていた男は周りの態度に激昂しナイフを振り回し、少女へと襲い掛かります。少女は身を守ろうと男を両手で力の限り押しました。すると男はまるで嵐に巻き込まれたかのように吹っ飛んでしまったのです。

 その時、少女は自分の力に気付きました。勇者や英雄、特別な者達同様に少女もまた神に愛された一人なのでした。少女の才は強大な力。それは父と同じで、村の人々は少女に恐怖の目を向けます。しかし、少女はそんなもの気にも留めず、彼女の心を占めていたのは歓喜でした。

 これならあの人の横に立てる。

 翌日から少女は山へ籠ってしまいました。村人達は彼女が父と同じようになるのではと怯え、いつ少女が戻ってくるのかと震えながら少女が入った山の方を見ていました。

 少女が村へ姿を見せなくなって数か月が経った頃、また山に大きな穴が出現しました。そこから湧いてくる魔物は以前よりも強力で、村の戦士達ですら村へ侵入するのを防ぐことが精一杯で、とても穴の中へ入り主を倒せそうにはありません。

 勇者のいない今、村の長達はどのようにして対処するべきか毎日話し合います。

 村を捨てるしか方法が無いと諦めの空気が漂い始めた頃、少女が戻ってきたのです。しかもその背中には彼女が倒した迷宮の主と思われる遺体を背負っているではありませんか。

 村人達は少女に感謝し畏敬の念を抱き、今までの行いを頭に地面をこすりつけ詫びます。

 少女は村の英雄となり宴が繰り広げられました。しかし、宴の夜少女は人知れず村を出ました。目指す先はもちろん勇者の元。

 勇者のいる街へ来た少女は格闘大会に出場し見事優勝を果たすと、自分の力を人々へ見せつけました。そしてその力を認められ勇者と同じパーティー竜の爪へと所属することになり、憧れの勇者と共にいくつもの冒険を経て、少女はいつしかこう呼ばれるようになったのです。

 『龍少女(ドラゴンガール)』と。


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