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無職と行く迷宮冒険譚  作者: 賽ノ目seven
無職、弟子をとる
17/17

第五章 其の五 羽化、そして旅立ち

 ゾイドは自分が転移したことも、スケルトンの色が乳白色に変化していることにも気づかぬまま、スケルトンをジュンから引き剥がし地面に叩きつける。魔力を使い果たした影響か、スケルトンは水分の抜けた小枝のように脆く、バラバラに砕け散る。そこでようやくゾイドは辺りを見渡す。周辺の風景が先程までいた細い通路ではなく広い部屋に様変わりしており、自分達がどこか別の場所へ転移させられたことに気づく。

「随分、手の込んだことを」

 どうしたものかと考え込むゾイドの傍らでジュンは膝をつき顔を下に向けたまま立ち上がろうとしない。その手や足は小刻みに震えている。

「ゾイドさん、ごめんなさい。ボク、また、怖くて何も出来なくて…」

「ジュン。反省も後悔も後だ。まずはここから出るぞ」

 ゾイドは帰還の魔石を発動させようとするが、魔石は反応しない。実はあのスケルトンは自信の魔力だけでなく魔石に宿る魔力までも使い果たしてしまった。だが、そんなことをゾイドが知るはずもなく、混乱のなかさらに頭を抱えることになる。

 ゾイドが次の手を考える中、小さな足音が近づいてくるのが聞こえた。

 敵かと二人は身構えるが部屋に入ってきたのは人間。下を向いているせいで顔は見えないがその服装から救難信号を出した攻略者の片割れだとわかった。

「よかった無事だったんですね…!」

 ジュンは胸を撫でおろすがゾイドはその様子がおかしいことに眉をひそめる。

 攻略者の男はゆっくりと顔をあげる。その顔の半分は苔のようなものでびっしり覆われ、首には巨大なコブが男の鼓動に合わせ脈打っていた。男の目は虚ろで口の端からはだらしなく涎を垂らしている。明らかに正常な状態ではない。

 ゾイドが男の姿に衝撃を受ける横でジュンはその 魔物の名前を呟く。

寄生怪茸(マッドファンガス)……」

 それは菌類から派生した魔物。

 菌床とした生物から栄養素を取り込む。その対処としては親と呼ばれる菌の塊を引き剥がすことという寄生型魔物として標準的(ノーマル)な手法が用いられる魔物である。

 その知識はゾイドも持っており、すっかり平静を取り戻し問答無用でまとわりついた親を引き剥がしにかかる。

 ゾイドが距離を詰めようと駆けだすと攻略者の身体は後ろへ下がり通路の奥へ姿を消す。ゾイドは追跡するべく部屋の外へ向け全速力で駆ける。通路へ差し掛かったその時、眼前に巨大な何かが迫る。咄嗟に盾でガードするが想像以上の重みで部屋の中へ戻されてしまった。体勢を整えたゾイドの視界に入ったのは人型をした二体の緑色の何か。

 寄生怪茸にはある特異的(アブノーマル)な性質があった。

 寄生した生物の遺伝子情報を読み取りそれを基に自身の菌と融合させた分身体を作り出す性質。また厄介なことに分身体と本体は共通の意思を持っており、複数の分身体で連携を取る様子が何度も確認されている。

 通常人間サイズの分身体を複製するのに七日程度かかるとされているが、目の前のそれはたった数時間で二体の分身体を作り出していた。しかもそのサイズは菌床とした男より巨大なものだった。

 ゾイドはジュンの方を見る。ジュンは恐怖に耐えながら何とか戦闘態勢をとる。

「いけるか?」

「い、いけます!」

 ジュンは声を震わせながらも勇気を振り絞る。

 しかし魔物はそんなジュンの勇気を嘲笑うかのように腹にあたる部分を大きく膨らませる。そして同時に胞子を辺り一面にばらまく。

蔓延する恐怖(ハザードフェスタ)

 毒か!?

 ゾイドとジュンはすぐさま口や鼻を覆うが胞子は手の隙間から体内へ侵入し二人にある変化を及ぼす。

 その変化が現れる前に分身体の一体がゾイドへ殴りかかる。

 何てことない大振りな一撃。ゾイドは盾を構えようとするが、なぜか腕が思うように動いてくれなかった。ノーガードなゾイドの顔面に容赦ない一撃が襲う。

 吹き飛ばされたゾイドは自身の身体に起こった変化を自覚する。

 手足が無意識に震え、まるで自分のものとは思えない。殴られた箇所が火を点けられたように熱く、絶叫するように脳へ必要以上の痛みを訴える。痛みへの感覚が鋭くなっている。敵を見れば、先程より大きく見え、逆に自分は酷く小さく惨めに思えた。目の端には涙が浮かぶ。

 ゾイドの心を占めていたもの。それは恐怖。

 魔物の胞子は二人に恐怖という毒をもたらした。

 怯える心は戦おうとする脳に抗い逃げろと身体に指示を出す。戦え、逃げろ、相反する命令に身体は思うように動けない。ゾイドは盾で防ぎ攻撃するが、統率のとれない身体では攻撃を当てることすらできず、逆に反撃を受ける。自身の傷が増える度に恐怖は増し、魔物はより不気味な異形に見えた。

 ジュンはすっかり脳まで恐怖に染められうずくまり耳を塞いでいる。聞こえるはずのない怒声や狂ったように笑う声が至る所から湧きあがる。壁のシミが怨嗟を訴える顔に見え、足元の亀裂から生える雑草が苦しみに悶え助けを求める手に見えた。今のジュンの目には殺風景な石造りの部屋が魔界の如く映る。

 そんなジュンの側へ殴られたゾイドが転がる。分身体は脅威になるのはゾイドのみと判断し二体がかりで痛めつけていた。

 ボロボロになりながらもゾイドはまだ立ち向かおうとしていた。ジュンはゾイドの腕を掴み叫ぶ。

「ゾイドさん逃げましょう!このままじゃボクだけじゃなくゾイドさんまで…!」

「まだだ……。まだ俺はやれる」

「そんな…!これが、怖くないんですか…?」

「怖くて怖くて仕方ねえよ。だけどな、ジュン。俺が一番恐れているのはぶん殴られることでも化け物でもない…」

 立ちはだかる敵を見れば自然と足がすくむ。その腕で殴られると思えば無意識に後退する。激しい痛みを感じれば即座に逃げたくなる。しかし、逃げない。

 ゾイドは立ち上がり、堂々と魔物と相対する。

「あいつらに胸を張れねえことだ」

 英雄を夢見た過去の自分。何度も嗤われた。そんな自分を馬鹿にせず笑いかけてくれた友人達。例え、今ここで逃げ出しても彼らは何事も無く、いつものように接してくれるだろう。しかし、そんなことは誰でもない自分自身が許せない。

 あいつらと対等でありたい。

 あいつらと肩を並べたい。

 あいつらに、過去の自分に誇れる自分でありたい。

「ヒーローになるんだろう。だったら立ち向かわねえとな…!」

 ゾイドは敵に向かい一直線に駆けだす。分身体は片方が『蔓延する恐怖』で胞子をばらまき、もう片方がそれに合わせるよう殴りかかる。

 敵が迫る。拳が迫る。痛みが迫る。

 だからどうした!

『尖兵の衝突』

 ゾイドは相手の攻撃、その衝撃が最大となるポイントを見極め、そこへ盾を力の限りぶつける。結果として相手はまるで猛スピードで迫りくる壁を殴るような形となる。ゾイドによる盾の衝撃と自身の攻撃の威力、その二つが足し合わされ敵の腕に跳ね返る。分身体の腕は耐えきれず粉々に崩壊する。

 相手を破壊するはずの攻撃で自分の腕が破壊された。

 通常菌類が持ちえない半端な知能が分身体のあだとなった。知能により分身体は困惑し、そしてそれは紛れもない隙だった。

 ゾイドは弓を引くような形で力を溜め、高まった力を解放する。

『栄光への一撃』

 ゾイドの一撃は分身体の腹に穴を開ける。分身体に加わった衝撃は腹の穴に留まらず全身に広がる。腹の穴を中心に分身体は塵となっていき、もうゾイドの前に化け物はいなかった。

 しかしゾイドが倒したのはあくまで分身体。意識は共有していても痛みは共有していない。残った分身体はゾイドを倒そうと死角から襲いかかる。ゾイドはそれに気づきすぐさま対応しようとするが、与えられたダメージは想像以上に深く、限界の身体は片膝をつく。

 クソっ…あと少しだってのに。

 分身体はゾイドを潰すべく両腕を上げる。しかし、その腕が振り下ろされることは無かった。ゾイドは確かに目撃した。ジュンが分身体へ飛び蹴りを当てるその勇敢な姿を。

 ジュンは震える両足を抑え込み、ゾイドを守るように魔物の前へ立つ。

「これ以上はこのボクが許さないッ!」

 ジュンが放った言葉は劇で披露した台詞を少し変えたものだった。ジュンの心には未だ恐怖が深く根付いている。ジュンは劇で演じた強い武闘家の台詞で少しでも恐怖を払おうとする。とどのつまりジュンは虚勢を張っていた。

 そんなジュンでも魔物は新たな脅威と認識し問答無用で攻撃を加える。

 魔物は腕を棍棒のように振り払う。ジュンは両腕でガードするがその場で受け止めることは出来ず力を逃すように飛び退く。攻撃を受けた腕が酷く痛む。だが、眼前で見たサクヤの攻撃に比べれば威力も緊張感も大したものではない。ジュンの恐怖はもう増えない。

 それでも未だに怯える心にジュンはイチの言葉を言い聞かせる。

 恐怖がボクを支配するな。ボクがどう生きるかはボクが決める。

 分身体がさらに攻撃を加えようと殴りかかる。

 ジュンは魔物の拳をゾイドと同じように迎え撃つ。盾を持っていないジュンは代わりに頭を渾身の力でぶつける。

『牛頭滅』

 迫りくる壁を殴る。もちろん殴った拳はただでは済まないが、壁が無事だとは限らない。

 ジュンの額は割れ血が流れる。流れ出る血は不快感を煽り、酷い痛みがジュンを襲う。その先には危険が待っていると逃げろと身体は訴える。だが、問題ない。

 痛み(そんなもの)では止まらない。

 ジュンは雄叫びを上げる。それは産声のようだった。浮かべた涙は痛みによるものか、はたまた決別の悲しみからか。弱い自分から胸を張れる自分へ、ジュンは今生まれ変わる。

「おおおおおッ!」

『獄門無双』

 ジュンは目にも止まらぬ連撃を繰り出す。

 攻撃が当たるたびに分身体は削られていく。巨大な身体はみるみるうちに細く小さくなっていく。恐れるものはもう何も無い。

 最後の一撃を加えると分身体は塵となる。

 攻撃をし終えたジュンは肩で息をする。無我夢中で、考えるより先に身体が動いたせいで自分が何をしたのか実感が湧かない。だが攻撃を繰りだした手足はじんじんと痛み、今の出来事が幻覚ではないことを教えてくれる。

「やったなジュン」

「ゾイドさん……」

「結局俺らの助けは必要なかったな」

「いえ、皆さんがいてくれたからボクは…」

 言葉の途中でジュンは糸が切れたように倒れ込む。寸前のところでゾイドは身体を支える。急いでジュンの様子を確かめると少し息は浅いがは特段異状はないようだ。倒れてしまったのは極度の緊張から解放された結果だろう。

 ゾイドはジュンを寝かせると通路の奥を睨みつける。操られた攻略者と新たな分身体が姿を見せる。ゾイドのダメージは浅いものではなく、立つのもやっとだ。しかし、闘志は不思議なほど燃えていて、負けるなんて思いは微塵もなかった。

 魔物が敵意を剥き出しにし、ゾイドが盾を構えたその時。

『雷穿』

 天井に大きな亀裂が走り、派手に崩れる。瓦礫と共にサクヤ達三人が飛び降りてくる。着地と同時にイチは敵に向かって走り出す。親を守るように分身体が行く手を塞ぎ、胞子をばら撒くべく腹を大きく膨らませる。もちろんイチは分身体が何をしてくるのか知らない。相手が奇妙な動きを見せた今、ここは様子を見るのが得策。しかし、イチは分身体など見えていないかのようにさらに加速する。それは賭けでも自棄でもなく、信頼の証だった。何を言わずとも、サクヤとアンジーはイチ援護する。

『雷穿』

千本ノック(アイスガトリング)

 分身体を雷と氷の槍が貫ぬく。スキルを使う間もなく消滅する。

 イチが武器を剣に変化させ親を切り離そうと構える中、途端に攻略者の腹が大きく膨らむ。

蔓延する恐怖(ハザードフェスタ)

 不意をつかれたイチは胞子を素直に吸い込む。その心に恐怖が芽生える。芽生えた恐怖は、イチが持つ僅かな不安を糧に一気に成長し身体を縛る。イチの動きがあからさまに鈍くなる。親は好機と言わんばかりに攻略者を操りスキルを発動させる。

『断頭』

 迫りくる刃がイチの目には何倍も大きく脅威に見えた。それでもイチは止まることなく、あえて頭から突っ込む。

「それがどうしたぁッ!」

 イチは身体を捻り、一刀両断を避ける。しかし剣はイチの顔、瞼や頬を裂く。血により視界の半分が真っ赤に染まりながらもイチは攻撃を繰り出す。

一度限りの模倣(フラジールミラー)・断頭』

 攻略者から寄生怪茸を切り離す。顔を覆っていた苔は消え去り、地面に落ちたコブは次の寄生先を探し蠢く。イチは地面を這いずるそれを見下ろすと、虫けらを潰すように足で踏む。発声器官を有していないコブは命乞いすらできず消滅する。

「よお。ゾイド。大丈夫か?」

 サクヤと共に寄生されていた攻略者の肩を支えながら、イチはゾイドに笑いかける。昔から変わらないその笑い顔にゾイドは緊張を解く。

「なんとかな。というかお前が言えたことか?」

「俺はもちろん、大丈夫…じゃない。すっげえ怖かった。つーか痛い。めちゃ痛い。血が止まらない。どうしよう。アンジー治して」

「はいよ。任しときな」

「あ、アンちゃんこの人とジュン君もお願い。もちろんゾイドも」

「言われなくとも。ほら、一か所に集まれ」

『天使の施し』

 ゾイド達は淡い光に包まれるとみるみるうちに傷が塞がっていき、暫くすると傷はすっかり無くなっていた。

「よーっしこれでバッチリ……アンジー?何だかまだ痛いんですけど」

「魔法での治療はあくまで傷塞ぐだけだ。鎮痛効果はねえよ。我慢しろ」

「痛い痛い。ズキズキする。振られた時の心のようにズキズキする」

「結構余裕あるじゃん。さすが振られ慣れているだけあるね」

「どういう意味だコノヤロー」

「そのまんまの意味だコノヤロー」

 騒がしいイチ達の声にジュンは目を覚ます。

「ゾイドさん…」

「起きたか。早速で悪いがあともうひと踏ん張りだ」

 そう言ってゾイドは通路に目をやる。そこから寄生怪茸に寄生されたもう一人に攻略者と大小様々な大量の分身体が姿を現す。

「これはまた大勢で」

「雑魚が増えたところで関係ねえよ」

「それならとっとと蹴散らすぞ」

 ゾイドは先頭に立ち盾を構える。

「ケガ治したばかりだぞゾイド。無理すんなよ」

「問題ない」

「頼もしい奴だ。さてと。じゃ、派手に行こうか。ジュン、お前も頼りにしてるぜ」

「え?」

 突然イチに顔を向けられたジュンはポカンとする。ジュンが戦う姿をイチ達は見ていないはずだ。情けない姿ばかり見せていた自分にそんな言葉がかけられるとは夢にも思ってみなかった。そんなジュンの考えを見透かしているように、今度はサクヤが言葉をかける。

「その顔見ればわかるよ。百人力だ」

 憧れの一人であったサクヤの言葉にジュンは頬を紅潮させる。

「はい!任せてください!」

 そんな一行に向かって、分身体達は全員同時に胞子を吹きかける。

蔓延する恐怖(ハザードフェスタ)

 部屋中が胞子に包まれる。恐怖で震える獲物を仕留めようと、分身体達は一つの意思の元、攻撃に移る。しかし、胞子の霧の奥から迫りくる影が一つ。

『番兵の行進』

 先頭を突っ切るゾイドに続くようイチもサクヤもアンジーも、そしてジュンも分身体に飛びかかる。

 誰一人恐怖に負ける者はいなかった。

 そして五人は見事、攻略者の救助を成功させた。


 こうして恐怖を克服したジュンは自信に溢れた表情で、いざパーティーへ戻ろうとする。

 しかし。

「パーティー解散?」

 それはまさに青天の霹靂だった。ジュンはパーティーメンバーから突然その旨を告げられた。パーティーメンバーである女性達は涙ぐみながらそれぞれの事情を話す。

「ごめんねジュン君、実家の家業を継がないといけなくなっちゃって」

「ジュン殿申し訳ない。私には使命があるのだ。行かなくては」

「私…家族の元、帰る」

「マジごめん!ウチも夢を追うチャンスなの」

「だったら仕方ない─」

「でもね」とジュンの言葉を遮るように一人が手を取り。

「ジュン君がついてきてくれるのは全然大丈夫なの」

「ちょっと抜け駆け!私も全然オッケーだから!」

「ジュン殿、あなたがいてくれたのなら心強い。どうだろうこれからは私と共に」

「ジュン、一緒…帰る?」

 女性達はジュンをもみくちゃにしながら奪い合う。その際、様々な部分が当たっているが本人達は一切気にする様子がない。ジュンは真っ赤になりながらも下手に抵抗できずされるがままとなっている。聞きしにも勝るハーレム具合に同行したイチ達は蚊帳の外となる。

「なるほど。確かにハーレムだな。つーか道の真ん中でやるなよ。しかもまだ昼間だぞ」

「こんな具合じゃイチが泣いて羨ましがるな」

「はっ何言ってんだ。俺はもういい大人だぜ?そう簡単に涙なんて流すかよ」

「……本音は?」

「めっさ羨まじい…!」

「正直でよろしい。ほら、涙吹きなよ」

 イチが泣き崩れるその傍らで、ジュンは何とか女性達の間から抜け出し、自分の思いを語る。

「みんな…ごめん!気持ちは嬉しいけど、ボク決めたんだ。ここでもっともっと強くなるって…!」

 女性達は寂し気な顔を浮かべるがジュンの気持ちを汲み取り大人しく引き下がる。

「わかったジュン君が決めた道なら私達全力で応援するから!…でも、これからどうするの?あの人達のパーティーに入るの?」

 女性達は不安げな目をイチ達に向ける。

「何だよその目は。文句あんのか。人には泣きたいときだってあるんだよ。だからそんな冷たい目で見て頂いてどうもありがとうございます」

「キレるか発情するか、せめてどっちかにしなよ。優柔不断はみっともないよ」

「じゃあ発情で。はあ~たまらんです…!」

「それでよし」

「何もよろしくねえ」

「おい見てみろ。あのドン引きした面」

「ワハハ。大変だなお前ら」

「オメエのせいだよ」

 女性はもう一度ジュンに向き直る。

「ジュン君本当にこれからどうするの?」

「いや、あのぉ……」

 言葉に困るジュンにイチは声をかける。

「まあ、冗談はさておいて。俺達は大歓迎だぜジュン。一緒に来るか?」

 イチの言葉にジュンは嬉しさのあまり思わず笑みを零す。しかし、何かを覚悟したようにその首を左右に振る。

「いや、ボクはボクなりに頑張ってみようかと思います。イチさん達は優しいから、一緒にいるとつい甘えたくなってしまいますしね」

「そっか。だったら仕方ねえな」

「また振られちゃったね」

「気にすんな。いつものことだ。…軽蔑の目を向けられるのもな」

「それもそうだ。にしてもジュン、だったら次のパーティーどうするんだ?」

「私…いいとこ、見つけてる」

 そう言うと女性の一人が一枚のポスターを取り出す。長々とそして無駄に詩的な文が並べられていた。それらを要約すると、前衛募集中を意味していた。イチ達の視線はその文章よりもパーティーの名前に集中する。

「このパーティーって…」


「はーはっはっは!ようこそ麗しの箱庭へ!僕こそが新たな魅力を見つけ日々輝きを増す、『無骨なる薔薇』ことロンソルトさ!」

 パーティー『麗しの箱庭』、そのリーダーである通り名持ち攻略者ロンソルトは香水の匂いをばら撒きながら決めポーズをとる。彼と自由の冒険団の関係は、以前迷宮攻略にて対決した顔見知り以上友人未満という何とも言えない仲である。その一件でロンソルトは髪を坊主にしており、その際に通り名が『華麗なるワイルドフラワー』から『無骨なる薔薇』に変わっており、それにもかなり馴染んでいるようだ。またその底なしのポジティブと独特のテンションは相変わらず健在である。

 ロンソルトの軽い挨拶で自由の冒険団はすでに軽い胸焼けを覚える。

「やっぱりあんたのパーティーか」

「おや、君達。久しぶりだね。ここにいるということは…僕のパーティーに入ってくれる気になったんだね!」

「いちいち抱きつくな!俺達はジュンの師匠兼友人としてついてきただけだ」

「そうなのかい?ふぅむ、残念だね。気が変わったらいつでも来てくれたまえ。そして君。ジュン・サンハニー君、だったね。僕は君を熱烈に歓迎するよ。君のように熱い瞳を持った若者にはそう出会えない。僕にはわかるよ。きっと君はこれからもっと強くなるね」

「あのロンソルトさんにそう言って貰えるなんて嬉しいです。是非、よろしくお願いします!」

「そうとなれば盛大に歓迎会を開こうじゃないか!さあみんな、今宵は宴だ!もちろん、君達も参加…おや?」

 気が付けばイチ達の姿は無く、これ以上ロンソルトのペースに巻き込まれまいと早足で退散していた。

「はい。お疲れ様でした」

「ジュン君の新しいパーティーも見つかってよかったよかった」

「終わり良ければ総て良し」

「今日ぐらいは酒を控えて身体を休ませないとな」

 去り行く四人の背中にぼそりと一言、ロンソルトは魔法の言葉をかける。

「今夜は僕の奢りだよ」

「今宵は宴だぜ…!」

 宴の夜はそうして幕を開けることになった。


 父さん母さんお元気ですか。ボクは元気にやっています。

 最近は返事も書けず、心配かけてばかりでごめんなさい。以前にも言いましたが、改めてボクの気持ちをここに書きます。

 ボクは家に戻るつもりはありません。まだまだボクはここでやりたいことがあるのです。

 ボクが弱いことはボクが一番知っています。だけど、今回自由の冒険団の皆さんと行動してほんの少し強くなれた気がするのです。それは肉体的な強さじゃなく、もっと人として根幹的な強さで、安っぽいかもしれませんがボクはその強さを勇気と呼ぶのだと思います。

 あなた達はそれで十分だと言ってくれるかもしれません。だけどボクはボクにまだまだ満足していません。ボクはイチさん達の元を離れることを決め、次にあの無骨なる薔薇のロンソルトさんのパーティーに加入することになりました。ボクはここでもっともっと強くなります。

 ボクはまだ道の途中にいるのです。この道がどこまで続くのか、どんな困難があるのか到底わかりません。それでも、一度歩み始めたこの道、どこまで行けるのかボク自身が知りたい。

 安心してください、とはとても言い切れません。不安や心配は多くつき纏います。だけどこれだけは知って欲しいのです。

 ボクは覚悟を持ちました。それがどれほどのものなのか、言葉では伝わりません。なので見ていてください。ボクがどのように道を歩くのか。

 ああ、あと最後に。

 ……宴を共にする人は次からもう少し考えようかと思います。


 阿鼻叫喚の宴の中でジュンはそんなことを思った。


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