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無職と行く迷宮冒険譚  作者: 賽ノ目seven
無職、弟子をとる
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第五章 其の二 強くなるためには汗と涙

 腹ごしらえを終えた五人は栄光の塔受付にて手頃な迷宮を探す。

「すいません、適度に魔物がいて物理攻撃が通りトラップが少なく尚且つ初心者向けの迷宮一つお願いします」

 イチの要望に受付嬢は笑顔のまま眉をひくつかせる。

「…もう一度よろしいでしょうか」

「適度に魔物がいて物理攻撃が通りトラップが少なく尚且つ初心者向けの迷宮あります?」

「失礼ですがまたどういった風の吹き回しです?」

「コイツに経験を積ませたいんだよ」

 ジュンの顔を見た受付嬢は納得したのか背後の資料をいくつか取り出す。

「…わかりました。少々お待ちください。今あるなかで一番適した迷宮は、ここですね」

「あるんだ」

「ただし、時折魔法式のトラップが報告されているのでお気を付けください。あと自由の冒険団の皆様はサンハニーさんへ助っ人申請を出されていませんね。…おや、助っ人制度を利用するのは初めてですか。それならば助っ人制度についてご説明させていただきます」

「さっさと行きたいんだけどな」

「私が知ってるから大丈夫だと思うんですけど…聞かなきゃダメです?」

「ダメです」

「どうしても?」

「どうしてもです」

「…じゃあお願いします」

 受付嬢はこほんと喉の調子を整えると説明を始める。

「助っ人制度とはケガなどの事情によりパーティーに欠員が出た場合の人員補充、または物理攻撃中心のパーティーが魔法職を必要とする迷宮に挑むためなど一時的な戦力強化のための制度でございます。また今回のように別のパーティーメンバーが同行する場合にも申請していただく必要があります。有名どころですと『万屋』は特定のパーティーに属さず助っ人制度を利用しあらゆるパーティーで活躍しております」

「自分のパーティー以外の人間が付いていく度にわざわざ申請しないといけねえなんて、改めて聞くと面倒くせえな」

「規則ですから…というのも我々はどなたがどこの迷宮に入っているか把握する必要がございますので」

「会社も色々あるんだね」

「ええ、まあ。あと補足としましてはパーティーの移籍をする場合、事前に助っ人制度を利用してからそのまま移籍すれば通常の移籍の場合よりかかる手間がずっと少なくなりますよ」

「そんな役所手続きの小技みたいなこと教えられても」

「こんな変人集団の凸凹パーティーに来たがる変わり者なんていないだろ」

「その凸凹パーティーのリーダーで変人代表のお前が言うか」

「はあ?俺のどこが変人なんだよ?俺なんてどこにでもいる成人男性だろ」

「…イチ、自分のアピールポイントを言ってみろ」

「あーえっとな、仕事を何度もクビになり、幾多の女性に振られても何度も立ち上がる不死鳥の如き精神(メンタル)

「酔った時に語る武勇伝は?」

「マジで金が無い時、道端の野草と塩で十日間生き残った。ちなみにその後入院はした」

「あなたはSorM?」

「人が言うにはドが付くほどのマゾヒスト。でもこんな俺でもたまには優しくして欲しいの」

「…役満レベルで十分じゃねえか」

「法に触れてない分余計質が悪いな」

「きっと世の中には目に見えない変人が息を潜めているんだろうね」

「あのなあ、人のことやいやい言うけどなこんなのとつるんでるお前らも同類だからな」

「…あの、それじゃあ弟子入りしたボクはどうなるんでしょうか?」

 ジュンの言葉に四人は顔を見合わせる。

「安心しろ。お前はもう変人(俺達)の仲間だ」

「世間の冷たい目が君を待ってるよ」

「やめてやれ」

 そうしてジュンを助っ人に加え、自由の冒険団は迷宮に入る。


 今回五人が飛び込んだ迷宮は苔むした石造りの建物内の装いを持ち、今まで一番人工的な雰囲気漂うが逆に生の気配を感じさせない場所だった。嫌に静かな迷宮内は五人の足音が反響する。

「なんか雰囲気あるね」

「学園長が化けて出てきそうだな」

「お前らビビってんのかよ?あと、学園長はまだ元気だぞ」

「ビビって無いわい!」

「学園長だろうと何でも来い!」

「…だったらくっついてくるなよイチ、サクヤ。暑苦しい」

 毅然とセリフを吐く二人はそれとは裏腹にへっぴり腰でゾイドの腕にしがみつく。

「今月から自由の冒険団は友情強化月間に入ったので」

「親睦を深めようと思った次第です。このように」

「初耳なんだが……というか頬を擦り付けるな…!」

「意外と、こういうのが怖いんですねお二人とも」

「そういうお前は案外平気なのな」

「得意というほどではありませんが…一人で歩くぐらいは何とか…」

 ジュンはそこでピタリと歩みを止める。同時に四人も足を止め、曲がり角を睨む。その場の全員が何かの気配を感じ取った。

 角からくすんだ乳白色の人影が顔を覗かせる。カコカコと乾いた音を立てながらその魔物は錆び着いたブリキのおもちゃのような硬い動きでその全身像を現せる。

 現れたのはスケルトン。

 シルエットだけ見れば人とほぼ同じだが、その体に肉や皮は宿しておらず骨だけで動く異形の生物。

 スケルトンを見たイチは顔をしかめる。

「前から思ってたんだけどさ、あれってマジの人骨なの?」

「基本はゴーレムとかの仲間で魔法生物らしいよ。なんで人の骨の形をしてるかは知らないけど」

「死霊術士の魔法で動いてるならマジだな。あとは幽霊が乗り移っていたり」

「それって呪われたりしない?」

「安心しろ。仮に呪われても、教会の祈りで何とかなる。今なら攻略者割引も使えるらしいぞ」

「祈りも割引される時代か、世知辛いね」

「あの世の沙汰も金次第というやつだ」

 軽口を叩く四人へ向かいスケルトンは跳びかかる。動きの源となる肉や健がないとは思えない猛獣のような力強さだった。

 スケルトンはそのまま勢いにまかせ持っていた棍棒をゾイド目掛け振り下ろす。ゾイドは冷静にスケルトンの攻撃位置を見極め、盾を携えた右腕を前に出す。しかしその時「あ」と思わず声が漏れる。

 右腕にはイチが引っ付いたままだった。

 その結果棍棒はイチが背中で受け止めることとなった。

「ぎゃふっ!」

 攻撃を受けたイチはさすがにゾイドの腕を離し地面へ落ちる。

「すまんイチ。忘れてた」

「ナイスガード!」

「ガードじゃ、ねえ」

 スケルトンが一度距離をとるため後方へステップしたが、サクヤそれにあわせるように距離を詰め、スケルトン攻撃姿勢をとる前に剣を薙ぎ払う。サクヤは鮮やかな太刀筋で棍棒を持っていた右腕を破壊する。

 スケルトンは残った左腕で棍棒を拾おうとするが、サクヤの背後から現れたアンジーに阻止される。アンジーはメイスを振り切り、スケルトンの下顎を木端微塵に破壊した。

「よし。ジュン今だ行け!」

「は、はい!」

 ゾイドの号令にジュンは駆け出しスケルトンの前に立つ。

 スケルトンは例え人骨じゃなくてもその構造は人間となんら変わりはしない。鋭い爪もなければ凶悪な牙や毒もない。ましてや今や右腕を破壊され武器も持っておらず、下顎も砕かれているので噛みつきも不可能な状態。たかが骨と鍛えた格闘家、どちらかが優勢かは言うまでもない。

 しかしそんな整えられた状況でもジュンは恐怖で震えていた。スケルトンが一歩踏みよるたびにジュンは一歩後退する。

 ダメだ。ちゃんと戦わないと。

 なけなしの勇気がジュンの足を止めた。だがそれ以上何も出来ず、スケルトンの間合いへとあっさり入ってしまった。スケルトンは先程より低い軌道で直線的に跳びかかる。

 ジュンは微かな悲鳴とともに尻もちをつき、しっかり目を瞑り腕で顔を覆ってしまった。これでは避けれるものも避けれるはずがなかった。

 スケルトンの攻撃がジュンへと届くその前にゾイドの盾による右ストレートがスケルトンの頭部を粉砕する。

 スケルトンの身体は音を立てながらジュンの眼前で崩れる。

「大丈夫か?」

「はい…。すみません」

 ジュンはあまりの情けなさに俯き肩を震わせる。その背中からは微かな嗚咽が聞こえてくる。

 それを見たサクヤ、アンジー、ゾイドは互いに顔を見合わせる。

 強い弱いの問題ならば鍛えるなり方法はいくつか考えていたが、今の様子を見るにジュンはそれ以前に戦えないでいた。これでは強いだとか弱いだとかそういうステージにいない。どうしたものかと頭を抱える一行。その少し離れた所でイチが苦い顔で口を開く。

「あのさあ、お前ら?ちょっと悪いんだけど、考えるのは後の方がいいかもよ。…ちょっと上見てみ?」

 イチの言葉通り全員が上を向く。脊髄反射的に「げっ」と声が出る。ジュンは恐怖のあまり声が出ず腰を抜かしてしまう。

 天井一面にぎっしりと大量の骨が張り付いていた。その全てがスケルトンだったようで、攻撃の合図なのかカタカタカタカタカタカタと小刻みに揺れ出し、その揺れは天井全体に広がり、その様子は天井があらゆる形で波打っているかのようだった。

「…気色悪ぃ」

「みんな!ここは私に任せて!」

 サクヤは意気揚々と一歩前に出る。

「おいおい。いくらお前でもこの数はさすがにキツイだろ?」

「大丈夫!こんなこともあろうかと元勇者のコネを使ってこんなものを買ってます」

 サクヤは懐から深緑色の小瓶を取り出す。

「これぞ『百華狂乱』セリアさん印の霊薬(エリクサー)!これをグイッと飲めばこの通り」

 小瓶の中身を飲み干したサクヤの魔力は魔法に明るくないゾイドやジュンが見ても、明らかに漲っていた。

「おお…!これが霊薬(エリクサー)…!」

霊薬(エリクサー)、ねえ…」

 アンジーは不審な顔を浮かべながら足元に転がってきた瓶を手に取る。

「ええっと、なになに?注意、これはあくまで伝説の霊薬(エリクサー)を模した、一時の活力を得るための栄養剤の一種です。不老不死、病の治癒、魔力増強、筋力増強他、そのような効果はありません。そもそも、薬を飲むだけで強くなれば人間苦労はしません(笑) セリア・エンスフィー」

 ゾイドとアンジーはサクヤを見て、もう一度瓶に視線を戻す。

「アンジー、説明頼む」

「そうだな、恐らくだがプラシーボ効果、思い込みによるものだろう。にしては効果が出過ぎだと思うが、それはサクヤの高い素質(ポテンシャル)と相まった結果かもしれないな。今のサクヤは急激な魔力上昇に伴い精神も極度の興奮状態にある」

「つまり?」

「つまり、最高にハイ!な状態だ」

「…一応聞くがこのままだと俺達どうなる?」

 サクヤは掛け声とともに魔力を練り、魔力量をさらに増やす。そしてその全てを剣に集中させている。

「十中八九巻き込まれるだろうな」

「ジュン、俺の後ろへ」

「は、はいっ!」

「イチは…」

 見ればイチは既に一人だけ、その場から撤退を始めていた。

「無駄に状況判断が早いな」

「毎度毎度お前らのトンチキに巻き込まれてたまるか…!」

「一番のトンチキが何を言うか」

「ふはははは!今日こそは逃げさせてもらうぜ!あば──」

 その時辺り一面に雷が走った。

『極・雷鳴斬』

 本日の攻略結果

  自由の冒険団、ジュン・サンハニー 攻略断念

 撤退理由

『元勇者』サクヤ・カグラザカによる自滅

 

「いやあそれにしても難題だね。まさか戦うことすら怖がっちゃうなんて」

 いつもの酒場『サイクロプスの樽』で四人はテーブルを囲んでいた。酒を飲みながらサクヤはジュンの問題について切り出す。だがゾイドがそれを許さず今日の出来事について問い詰める。

「それより今日のことについて何か言うことは無いのか?」

「…ついやっちゃった。許してちょーだいっ」

 ゾイドはお茶目なポーズをとるサクヤの両頬を引っ張り怒りをあらわにする。

「やっちゃった、で仲間殲滅させるやつがあるか…!」

「いひゃいいひゃい」

「ったくよくそれであの竜の爪で活躍していたな。今じゃもう想像出来ねえぜ」

「そりゃ何てったって竜の爪にはドミニクさんがいるからね」

「ああ…竜の爪ではドミニクが上手い具合に手綱を引いてた訳ね。さすが騎士団長を務める男だ。戦況把握や指示もお手の物ってところか」

「向こうとこっちじゃリーダーの格が違うわな。片や騎士団長、そしてこっちは……これだからな」

「何だよ?うちはうち、よそはよそだろ?そんなに周りが羨ましいなら、他のパーティーの子になっちゃいなさい」

「急に何その口調?」

「お前さてはすでに酔ってるな。一体何を飲んだ─ってこれ全員で取っておいたボトルじゃねえか!」

「あのみんなで少しずつお金を出し合って買った良いやつを!?」

「ゴチになりました」

「テメエ!吐けこの野郎!」

「極刑だ!極刑!」

 暴れる三人を尻目にゾイドは一人思案する。無論、ジュンについてだ。

 恐怖心、もとい精神(メンタル)というのは肉体と違い、鍛えようと思っても鍛えれるものではない。

 何かの拍子で飛躍的に成長することもあれば、下手に刺激すると逆により一層悪化させる可能性だってある。専門的な知識も無く、指導の経験も少ないゾイド達が出来ることは限られていた。

「とりあえずは現状把握とコミュニケーション、か」

「お?ジュンの話か?」

「何かいい案でも浮かんだ?」

 イチに対する制裁を終えた二人は爽やかな顔で話に加わる。

「ひとまずは今のあいつの実力を知ろうと思う。健全なる精神は健全なる肉体に宿るとも言うから、多少鍛えればまあ、精神的にもタフになるかもしれないしな」

「さすがゾイド!じゃあ早速、明日は訓練場に行こうぜ!」

 天井に顔をめり込ませながらイチは明るい調子で同意する。

「…よくその状態で普通に喋れるな」

「色んな意味でイチはタフだからね」


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