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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第55話 始まったテロと、立ちはだかる探索者

 その異変に、最初に気づいたのは遼達だった。


「……先輩」


「分かってる、遼。行くわよ」

 真琴の返事は早かった。


「え? どこへ……」


「いいから。急いで」

 有無を言わせない声だった。


 二人は人混みを抜け、足早で振り返ることもなく、その場から離れていく。

 何が起こるのかも、まだ分からない。

 ただ、真琴がそう判断した。

 それだけで、遼には十分だった。


 ショッピングモール中央では、探索者募集キャンペーンが続いている。 


 子供連れの家族。

 買い物袋を抱えた主婦。

 スマホを構える学生。

 適性検査に並ぶ人々。


 平穏な光景。


 二人が人目につかない場所へ身を潜め、十分な時間が経ったあと。



『本日は、当ショッピングモールへお越しいただき――』


 館内放送が、突然途切れた。


――ガシャァンッ!!


 館内から、凄まじい破砕音が響いた。


「きゃああああっ!」


 逃げ惑う人々の足音。

 子供の泣き声。

 商品が床へ落ちる音。


 ショッピングモールを包んでいた平穏は、一瞬にして崩れ去った。


 ――テロが、始まった。



 館内の複数箇所から、黒い装備に身を包んだ男女が一斉に姿を現した。

 その動きには、素人特有の迷いがなかった。

 まるで、何度も同じ戦場を経験してきたかのように、それぞれが決められた場所へ散開していく。


「動くな!」

 鋭い怒声が館内に響き渡った。


 直後、別の男が天井を見上げる。


「東側、確認」

「西側も制圧位置についた」

「出入口、問題なし」

 短い言葉だけが飛び交う。


「な、何……? いったい何が起きてるんだよ……?」

「警察は!? 誰か、警察に連絡して!」

「待って、スマホ……スマホが繋がらない!」

 

 突然の異変に、客たちの間で悲鳴と困惑の声が一気に広がった。

 子供を抱き寄せる母親。  

 恋人の手を強く握る若者。  

 状況を理解できず、ただ立ち尽くす老人。


「ん?あれ……探索者じゃないか?  

 見ろよ。あの装備。魔力を帯びている」

 一人の青年が、テロリストたちの装備をじっと観察する。


「分かるのか?」


「一応な。俺、探索者だから」


「「ええっ!?」」

 近くにいた人々が一斉に振り返る。


「最近なったばかりだけどな」

 青年は少し得意げに胸を張った。


「そこは、言わなくていいだろ!」

 別の男が小声でツッコむ。


 すると、その隣からさらに別の女性が手を上げた。


「私も探索者です」


「えっ!?」


「俺も」

「僕も……」

「えっ、私もなんだけど」 

 

 次々と声が上がる。


「え、ちょっと待って。ここ、探索者何人いるの?」


 どうやら、このショッピングモールに訪れていた客の中には、一般人に混じって複数の探索者がいたらしい。

 普段なら、互いに気づくこともない。

 探索者だからといって、常に探索者らしい格好をしているわけではない。


「……もしかしたら、俺たちで止められるんじゃないか?

 俺たちも探索者だろ?」

 最初に声を上げた青年、桐谷きりたに 恒一こういちが一歩前へ出た。


「……いや、待て」

 少し離れた場所にいた黒田くろだ 正芳まさよしが、低い声で制した。


「なりたての探索者じゃ、まだヤバさが分からんよな」


「そもそも俺、今日モールに買い物しに来ただけなんだけど」

 別の青年が困ったように手を上げる。


「俺もだよ。まさか命懸けのイベントが始まるとは思わなかった」


「……それは俺だって同じだ」


 女性探索者が、周囲を警戒しながら小声で続ける。


「探索者だからって、常に戦闘するつもりで街を歩いてるわけじゃないんだから」


「そうそう。今日は新しい靴を見に来ただけなのに……」


「俺なんか昼飯のことしか考えてなかったぞ」


 緊迫した状況にもかかわらず、妙に現実的な会話が続く。

 しかし、その場にいる全員が分かっていた。

 これは笑って済ませられる状況ではない。

 黒田が改めて、広場にいるテロリストたちへ視線を向ける。


「……見ろ。あいつら、完全武装してる。

 こっちは丸腰。

 しかも、あいつらは明らかに場慣れしてる。

 探索者ってだけで、あいつらと戦えると思うな。……あれは、俺たちがダンジョンで相手にしてるモンスターとは別物だ」


 桐谷の拳が、ぎゅっと握り締められる。


「……でも」


「気持ちは分かる」

 黒田は桐谷を見る。


「俺だって、できるなら助けたいさ。

 だからこそ、無策で飛び出すな。 

 俺たちが倒されたら、助けられる人間まで助けられなくなる」


 周囲の探索者たちは、黙って頷いた。


「それに……」

 別の女性探索者が、テロリストたちを見た。


「さっきから誰も無駄に動いてない。周囲を確認する人、出入口を見る人、人質を集める人……役割が最初から決まってる。

 たぶん、あれ。闇バイトとかで集めた即席の集団じゃないよ」


 その言葉を裏付けるように。

 先ほどとは別方向から、複数の黒装備が姿を現した。


「全員、中央ホールへ移動しろ!」

「逆らうな! 命が惜しければ指示に従え!」


 怒声が響き渡る。

 人々が悲鳴を上げながら中央へ集められていく。


 駆けつけた警備員の一人が、無線機へ手を伸ばす。


「緊急事態が発生――」


 黒装備の女が、動いた。


《瞬雷歩》


 ――バチィッ!!

 女の姿が掻き消えた。


「――え?」

 警備員が声を漏らし、目の前に、女が立っていた。


《雷閃掌》

 ――ドンッ!!


 掌底が胸元へ叩き込まれる。

 警備員の身体が大きく吹き飛び、床を数メートル滑った。

 無線機が手から離れ、乾いた音を立てて転がる。


「警備員さん!」

 誰かが叫ぶ。


 別のテロリストが一歩前へ出た。

 その男の周囲に、赤い魔力が収束していく。


《業火制圧》

 ――ゴォォォォン!!

 男を中心に、巨大な炎の奔流が床を舐めるように広がった。


「うわああああっ!熱っ!!逃げろ!!!」

 警備員たちが咄嗟に身を伏せる。

 しかし、炎は彼らを正確に捉えた。

 数人の警備員が一斉に吹き飛ばされ、床へ倒れ込む。

 わずか数秒。

 あまりにも一方的だった。


「……探索者、か」

 倒れた警備員の一人が、苦しそうに呟く。

 

「今さら気づいたか」

 テロリストの男は鼻で笑った。


「……だったら……話は早いな」

 炎に巻かれたはずの警備員の一人が、ゆっくりと立ち上がった。


「……え?」

 テロリストの女が、初めてわずかに目を細める。


 警備員は制服の袖をまくった。

 その手の甲に、淡い魔力紋が浮かび上がる。


「俺も探索者だ」


 周囲から息を呑む声が漏れた。


「え……警備員さんも?」

「探索者だったの……?」

「じゃあ、殺れるのか?」


 警備員はゆっくりと拳を握る。


「現役だ。普段は警備の仕事をしてるが……ダンジョンにも潜ってる」


 彼の身体から、濃密な魔力が噴き上がった。


《身体強化・剛》

 筋肉が膨れ上がる。

 床を踏み締めた足元に、細かな亀裂が走った。


《身体強化・迅》

 身体の周囲に魔力の残光が生まれる。


《身体強化・鉄壁》

 全身を淡い魔力の膜が覆った。


 三つの強化が重なり、警備員の身体から凄まじい圧力が放たれる。


「……客には、手を出させない」

 

 警備員の目つきが変わり、拳を構える。


「ここから先は――俺の仕事だ」


 その姿を見た桐谷が、思わず息を呑む。


「……マジか。

 警備員のおっちゃん……めちゃくちゃ強そうじゃん」

 隣の探索者が震える声で呟いた。


「魔力の密度が違う……。

 あの人、かなり潜ってるぞ」

 別の探索者も、警備員を見て息を呑む。


 「さっきの炎を食らって立ち上がったんだぞ……。普通の探索者なら、とっくに戦闘不能だ」


 その言葉を聞きながら、テロリストのリーダの男は口元だけを僅かに上げた。


「分かってるさ、沢村 順さん。

 探索者がいることなど調べ済みさ。

 もちろん。君の《戦躯術》についても……だから、一人じゃ相手をしない」


「……何?」


 次の瞬間。

 テロリスト六人が、一斉に動いた。

 六人の動きは単純な突撃ではなかった。

 一人が正面。

 二人が左右。

 残る三人が、わずかに距離を取って周囲へ散開する。


《風刃連舞》

 正面から無数の風刃が飛び出した。


「くっ!」

 沢村が腕を交差させる。


 ――ザシュッ! ザシュッ!

 風刃が床や壁を削り、視界を覆い尽くす。

 

《凍結弾》

 足元へ放たれた冷気が一気に広がった。


「なにっ!?」

 床が凍りつき、沢村の足がわずかに滑る。

 

《雷閃脚》

 横から飛び込んだ女の蹴りが、沢村の腕を弾き飛ばす。


「しまっ――」


 防御が開いた。


「今だ!」

 左右から二人の男が同時に踏み込む。


《破甲撃》

《衝撃穿》


 ――ドゴッ!!

 ――ズガンッ!!

 二つの拳が、ほぼ同時に沢村の腹部へ突き刺さった。


「ぐっ……!まだ……終わってないぞ!」

 沢村の身体がくの字に折れる。

 それでも倒れない。

 全身に魔力を巡らせ、無理やり踏みとどまる。


「まだ立つのかよ!?」

 その姿に、桐谷が思わず声を上げた。


 テロリストのリーダーは冷静だった。


「だから、六人なんだ」


「――っ!」

 背後に、すでに一人が回り込んでいた。


《轟震撃》

 ――ドゴォンッ!!

 背中から叩き込まれた衝撃。

 沢村の身体が宙へ浮き上がる。


「ぐあっ……!」


 そこへ、さらに追撃。


《雷鳴断》

 ――バチィィッ!!

 雷撃が身体を貫く。


《風衝脚》

 横から蹴り飛ばされる。

 沢村の身体が大きく吹き飛び、床を何度も転がった。


「沢村さん!」

 誰かが叫ぶ。

 しかし、沢村は立ち上がらない。


 テロリスト達は、追撃すら一切の無駄がなかった。

 一人が攻撃すれば、別の一人が次の隙を作る。

 防御すれば別方向から崩す。

 反撃しようとすれば、さらに別の者が間合いを潰す。

 まるで一つの巨大な要塞が動いているようだった。


 テロリストたちが、ゆっくりと客の方へ振り返った。

 その瞬間、誰もが理解した。

 ただの武装した犯罪者ではない。

 ダンジョンで何度も死線を潜り抜けてきた、熟練探索者そのものなのだ。

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