↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/69

第56話 深層探索者の名を知る者

「探索者の人たちなら……あの人たちを止められるんですか?」

 小さな女の子を抱いた母親が、不安そうに尋ねた。


 その声は決して大きくなかった。

 けれど、異様なほど静まり返ったホールでは、そこにいた全員の耳へはっきりと届いた。


「……」

 突然、視線が集まった。

 桐谷恒一をはじめとする探索者たちが、互いの顔を見る。

 さっきまで『自分も探索者だ』と名乗っていた人間たちが、一斉に口を閉ざした。

 誰も、簡単には答えられない。

 その沈黙こそが、何より雄弁だった。


「えっと……いや……

 先ほどの警備員さんとの戦闘、見てましたよね?」

 桐谷が頭を掻く。


「はい……だったら……その……」


 言葉が続かない。

 桐谷は、自分の拳を見下ろした。

 探索者登録をして、まだ日が浅い。

 ダンジョンへ潜ったこともある。

 モンスターを倒したこともある。

 だからこそ、自分は普通の人間より強いのだと思っていた。

 少なくとも、何かあったときには人を助けられるくらいには。


 けれど。

 先ほど目の前で繰り広げられた戦闘は、その認識を簡単に吹き飛ばした。


「……俺じゃ、無理だ」

 桐谷の口から、正直な言葉が漏れた。


「え……?」

 母親が目を見開く。


「俺、まだ探索者になったばかりなんです。

 ダンジョンに潜った回数だって、そんなに多くない。

 モンスターなら……何とかなる。  

 でも、あいつらは……」


 桐谷は悔しそうに、視線を向ける。

 黒い装備に身を包んだテロリストたち。

 その姿を見るだけで、身体が勝手に警戒する。


「そんなに……強いんですか?」

 別の客が震える声で尋ねる。


 すると、少し離れたところにいた男性探索者が、テロリストの一人を見ながら口を開いた。


「強いっていうか……技術が異常なんだよ」


「技術?」


「ああ。さっきの女を見ただろ?」

 全員の視線が、雷属性のスキルを使っていた女へ向く。


「《瞬雷歩》から《雷閃掌》に技繋げるの、ヤバかったよな」


「見ただけで技名まで分かるのか?」


「まぁな。

 ちなみに、あの雷系スキルの基礎になってるのは《雷纏》だと思う」


「《雷纏》?」


「情報元はSNS動画。

 欲しいスキル毎回上位に君臨する纏系」


「SNSまでチェックしてるのかよ」


「探索者なら見ておいた方がいいぞ。

 戦闘動画は、他の探索者がどういうスキルを使うのを見るのも勉強になる」


「……なるほど。あとで調べてみよう」

 桐谷が真剣な顔になる。


「……こういう情報交換って大事だな」

 別の探索者が、テロリストたちを見ながら呟く。


「じゃあ、さっきの炎属性の範囲攻撃は?」

 別の探索者が尋ねる。


「《炎纏》じゃないのか?」


「違うと思うぞ」

 先ほど雷系スキルについて話していた男が首を横に振った。


「《纏》系は基本的に属性を身体や武器へ纏わせるタイプだ。

 直接的な範囲攻撃をするスキルじゃない」


「でも、《雷纏》で雷を飛ばしてたぞ?」


「そこが面白いところなんだよ」


「《雷纏》そのものは雷を纏うスキルでも、纏った魔力を攻撃へ乗せることはできる。

 蹴りに乗せれば《雷閃脚》みたいになるし、掌に集中させれば《雷閃掌》になる」


「つまり、スキルの使い方次第で派生技が変わる?」


「そういうこと」


「じゃあ、俺もスキルをもっと工夫した方がいいのか……」

 桐谷が呟く。


「話が脱線したから、話を戻すぞ! テロリストたちに対抗するには……」


 男性探索者は一度言葉を切り、改めて黒装備の集団へ視線を向けた。


「深層探索者じゃないと、無理ではないかな」


「深層探索者……?」


 一般客には聞き慣れない言葉だった。


「それって、普通の探索者とは違うんですか?」

 小さな女の子を抱いた母親が、不安そうに尋ねる。


 その疑問に、別の探索者が答える。


「ダンジョン十階層以降を潜るような人たちだよ」


「十階層……」


「そう。政府から正式に認定されてる、いわば人間兵器みたいな連中」


「人間兵器って……」


「大げさじゃないぞ」

 別の男が真顔で口を挟む。


「俺、前に深層探索者の戦闘を見たことがある」


「本当に?」


「ああ」

 男は腕を組み、記憶を掘り起こすように目を細めた。


「モンスターの姿を見てから動くんじゃない。呼吸音を聞いて、次の行動を予測してた」


「呼吸音?」


「そうだ。モンスターが息を吸った瞬間に回避して、攻撃する前にもう懐へ入ってる。

 正直、あれを見たときは思ったよ。

 人間の動きじゃないってな」

 男は乾いた笑いを浮かべる。


 一般客たちの顔が引きつる。


「俺は、深層探索者の対人戦見たことあるぞ!」


「冗談たろ」


「いや、マジで!!

 でもちょっと特殊なケースだがな」


 その男は、少し言いづらそうに頭を掻いた。


「白石玲奈さんだ」


「「……え?」」

 周囲の探索者たちが一斉に反応した。


「……今、なんて言った?

 白石玲奈って……あの白石玲奈さん?」

「探索庁の受付にいる、あの玲奈さんだよな?」


「待て待て待て!」

 一人の若い探索者が慌てたように両手を振る。


「俺、毎回玲奈さんの受付に並んでるんだけど!?」


 別の探索者が頭を抱える。


「俺、玲奈さんに『今日も頑張ってくださいね』って言われて、三日連勤でダンジョン攻略頑張れたんだけど!?

 その人が深層探索者!?嘘だろ……」

 男の顔から血の気が引いていく。


「俺たち、受付で普通に世間話してたぞ……?」


「俺なんて新しい装備見せて『似合ってますね』って言ってもらったぞ」


「それ、今関係ある!?」


「あるだろ! 俺の人生最大の思い出だぞ!」


「知らねぇよ!」

 ロビーに、困惑と興奮が入り混じったざわめきが広がった。


 一般客たちは困惑する。


「有名な人なんですか?」


「有名も何も……探索者なら知らない方がおかしいだろ」

 若い男性探索者が、目を輝かせる。


「そうなの?」


「探索者登録したばかりの新人でも、たぶん名前くらいは聞いたことあると思う」

 別の女性探索者も頷く。


「探索庁の受付嬢の中でも特に人気がある人。対応も丁寧だし、綺麗だし、探索者の間じゃちょっとしたアイドルみたいな存在よ」


「アイドル……」


「写真を撮りたいとか、玲奈さんに受付してもらいたいとか言ってる人、結構いるからな」


「それ、ただのファンじゃない?」


「本人は『探索者としてのモチベーション維持だ』って言ってたぞ」


「言い訳が強い」

 緊迫した状況の中、一瞬だけ妙な空気が流れる。


「……でも」

 先ほど玲奈の戦闘を見たことがあるという男性探索者が、静かに続けた。


「俺が知ってる限り、白石玲奈さんが戦えるなんて話は……聞いたことがない」


「え?」


「受付嬢として有名なのは知ってる。けど、深層探索者だなんて……」

 男は首を横に振った。


「じゃあ、なんで知ってるんだ?」


「俺も最初は知らなかった。

 たまたま見たんだよ」

 男性探索者は苦笑した。


「何を?」


「政府探索庁で起きた騒動をな」

 そう言って、男は話し始めた。


「ある日、一人の新人探索者が庁に来たんだ」


「新人?」


「ああ。Tシャツにパーカー。装備らしい装備もない」


「……それ、探索者っていうより遊びに来た学生じゃん」


「俺もそう思った」

 男は肩をすくめる。


「本人も完全に遊びに来たような雰囲気だったらしい」


「それで?」


「その新人に目を付けたのが、三人の熟練探索者だった」


 周囲の探索者たちが耳を傾ける。


「その三人って?」


「政府探索庁じゃ有名な連中だよ」

 男の表情が少し険しくなる。


「実力だけなら、庁内でもトップクラス。しかも、やんちゃで有名でな」


「やんちゃ……?」

「簡単に言えば、逆らえる奴がいない」


「……それ、やんちゃで済ませていいのか?」

「だから、できれば誰も関わりたくない三人だった」

 男は続ける。


「その三人が、新人に『新人洗礼』したんだよ」


「うわぁ……新人相手に?」


「そう。ところが……その新人、三人の攻撃を全部避けた」

 男の口元が引きつった。

 

「最初は周りも笑ってたらしい。

 新人だから手加減してると思ったんだろうな。

 ところが、何度攻撃しても当たらない」

 男はそこで一度言葉を切った。


「そして……一人がキレた」


「……まさか」


「そのまさかだ」

 男性探索者の声が低くなる。


「他の探索者まで巻き込むような大技を使った」


「新人一人に?」

「ああ」


「危険すぎないか?」

「だから、そこで白石玲奈さんが動いた」


 その名前が再び出た。


「玲奈さんが……?」


「受付カウンターから、静かに立ち上がったんだ。

 白石さんが大剣を抜いた」


「大剣……?」


「そうだ」

 男の目が遠くなる。


「俺が見たときには、三人のうち一人が、周囲の探索者まで巻き込むような大技を放っていた。

 白石さんは一歩前に出た。

 そして、大剣を構えて……」


 男はゆっくりと右手を掲げる。


「《深紅の剣形・逆鱗》

 放たれた攻撃を、真正面から受け止めた」


「受け止めた!?」


「ああ」

 男性探索者は頷いた。


「そしてな。

 白石さんが、こう言ったんだ」

 男は玲奈の声を思い出すように、静かに口にする。


「『その力、そっくり返す……!』

 受け止めたはずの衝撃が、そのまま三人へ返された」


 周囲が静まり返る。


「……三人とも?」

「ああ」


「どうなったんだ?」


「一撃だった。

 三人とも、その場で戦闘不能」


 桐谷恒一も、目を丸くしていた。


「……ちょっと待って。

 その話が本当なら……」


「本当だ」


「じゃあ……白石玲奈さんって。

 本当に、あの受付嬢の白石玲奈さんなのか?」

 桐谷が、恐る恐る尋ねる。


「ああ」

 男性探索者は頷いた。


「ただし、深層探索者だってことを知ってる奴は少ない」

 別の探索者が口を挟む。


「なんで?」


「情報がほとんど出回ってないからだ。

 一部の熱狂的なファンは調べてるらしいけどな」


「ファンって……」

「いるんだよ。玲奈さんの経歴とか、担当した受付日とか、過去の記録まで調べてる連中が」


「怖いな……」

「愛が深いと言ってやれ」


 小さな笑いが起きる。 


 しかし。

 その笑いもすぐに消えた。

 全員の視線が、再びテロリストたちへ向く。

 そして、誰かが恐る恐る尋ねた。


「じゃあ……あのテロリストたちは?

 実際、どのくらいの実力なんです?」


「六階層……」

 別の探索者が呟く。


「大目に見ても八階層くらいじゃないか?」


「八階層……」


「少なくとも、五階層程度の探索者じゃ話にならない」


 その言葉に。


「……俺のことか?」

 低い声が割り込んだ。

 全員が振り返る。

 そこにいたのは、黒田正芳だった。

 普段からダンジョンへ潜っている熟練探索者。

 探索者としての実績は、五階層。

 この場にいる探索者たちの中では、明らかに上位に位置する。


 黒田はテロリストたちを睨みながら、ゆっくりと息を吐いた。


「じゃあ、佐伯さんなら……」

 桐谷が期待するように尋ねる。


「無理だ。いや。

 一対一なら勝機がゼロとは言わない。

 相手の一人が六階層なら、俺でも食らいつける可能性はある」


桐谷

「だったら!」


「だが――」

 黒田がテロリストを見る。


「周りに何人いる?」


 その一言に、桐谷は黙った。


「しかも、あいつらは互いの力量を完全に把握してる。

 攻撃のタイミングも、退くタイミングも、誰が次に入るかも迷ってない」


探索者達

「……」


「五階層の俺でも、あの連携に入られたら数秒で終わる。

 先ほどの警備員の二の舞になる」

 佐伯の表情は真剣だった。


「一階層違うだけでも、身体能力、魔力制御、経験、スキルの完成度が変わる」


桐谷

「……そんなに?」


 佐伯はテロリストたちを見る。


「その“一歩”が、とんでもなく遠い」


 桐谷が唾を飲み込む。



「でも……六階層くらいなんだろ?」


「そう見える」


「じゃあ、七階層の人がいれば……」


「勝てるかもしれない」

 佐伯は否定しなかった。


「一応、確認するか。

 皆、何階層まで潜っている?」

 その言葉が、冷たく響いた。


「……俺は二階層です」

「俺は三階層」

「私は四階層まで」

「俺も三階層だ」


 次々と自分の到達階層を口にする探索者たち。


 桐谷は最後に、小さく手を上げた。


「……俺は、まだ一階層です」


「一階層!?」


「言うなよ!」


「いや、自分から言ったんだろ!」

 こんな状況だというのに、妙なツッコミが飛ぶ。


 だが、誰も笑えなかった。

 黒田が桐谷を見る。


「恒一」

「はい」

「お前は初心者だからこそ、絶対に前に出るな」

「……でも」


「これは勇気の問題じゃない」

 黒田の声が鋭くなる。


「実力差を理解して生き残ることも、探索者の仕事だ」

 

「……分かりました」

 桐谷は拳を握った。

 悔しそうな声だった。

 だが、無謀に飛び出すことはしなかった。

 黒田はそんな桐谷を見て、ほんの少しだけ頷く。


「じゃあ……誰が……私たちを助けてくれるんですか?」

 小さな女の子を抱いた母親が、再び震える声で尋ねた。


「……」

 再び、沈黙。

 誰も答えられない。

 その沈黙を破ったのは、佐伯だった。

「……分からない。

 助けが来るまで、生き残る。

 それだけは俺たちにもできる」

 

 ホールの向こうでは、六人のテロリストが静かに次の行動へ移っていた。

 その姿を見つめながら、黒田は小さく呟く。


「……頼むから、早く来てくれ」


 誰を待っているのか。

 それは、この場にいる誰にも分からなかった。

 ただ一つ確かなことがある。

 この場にいる探索者たちだけでは、あのテロリスト達を止められない。

 その現実だけが、重く残っていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。