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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第七章 成長した転生貴族は冒険者になる 【学院編2】
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閑話1 とある日の冒険者ギルド

とあるDランク冒険者たちの会話です。

ギリギリ足りない実力のため、ダンジョン探索には行っていません。


(一般冒険者A視点)


「おい、聞いたか?」

「何をだ?」


 知り合いの冒険者に声を掛けられた。

 「聞いたか?」と聞かれても、内容を言わなければわからないだろう。

 だが、そんな俺の気持ちに気づいていないのか、こいつは落ち着きのない様子で話し始めた。


「【閃剣】のパーティーがドラゴンを討伐したらしい」

「なにっ!?」


 俺は驚かされてしまった。

 それはそうだろう。

 【閃剣】というのは、この冒険者ギルドで現在ナンバー1と名高い冒険者のことだ。

 まだCランクではあるが、他のメンバーと足並みをそろえるためにランクを上げていないと専らの噂だ。

 といっても、残りのメンツも弱いわけではなく、十分に冒険者としての実力を持っている。

 女性陣はBランクになるのに十分な実力を持っているだろうし、ハンマー使いのウォーさんはAランク並の実力を持っていると言われている。

 まあ、【閃剣】のカロンさんに比べれば、見劣りはするのかもしれないが……

 しかし、俺は疑問に思う。


「それは本当なのか? 信じられないんだが……」

「だが、あの【閃剣】だぞ? ありえない話じゃないだろ」

「……それはたしかに」


 俺は少し考え、納得させられかける。

 たしかに、現在ギルドに所属している冒険者で誰がドラゴンを倒せるかと聞かれれば、【閃剣】だけだろう。

 一昔前なら、【獣王】や【魔王】、【巨人殺し(タイタンキラー)】なんて伝説級の冒険者がいたので、その人たちが倒したと聞かされても信じていただろう。

 といっても、その人たちは俺たちが冒険者になったときにはすでに引退していたが……


「だが、そんな大物がどこにいたんだ?」

「噂によると、アストラ子爵領のダンジョンマスターだったらしい」

「ダンジョンマスターだとっ!」


 再び俺は驚かされる。

 ダンジョンマスターという言葉を聞けば、冒険者なら驚いて当然だろう。

 ダンジョンマスターとはダンジョンの主──ダンジョンの支配権を持った魔物のことだ。

 当然、そんな魔物が弱いはずがなく、倒すためには複数の冒険者のパーティーがレイドを組んで討伐することになっている。

 つまり……


「他にも冒険者のパーティーがいたんじゃないのか?」


 俺はすぐにその考えに至った。

 【閃剣】がドラゴンを討伐したレイドに参加しているのは十分に理解できる。

 だが、流石に【閃剣】のパーティーだけでドラゴンを倒せるとは到底思えない。

 といっても、ドラゴンがどれほど強いかは知らないのだが……


「なんでも、一つは【雷撃の戦乙女トニトルス・ヴァルキリー】のところらしいぞ?」

「それは本当か?」


 名前が挙がったのは、ここ2年で実力を伸ばしてきた新進気鋭の冒険者の異名だった。

 エクレール=アストラ──アストラ子爵家のご令嬢らしく、【雷属性】の魔法を使うことで有名な女性冒険者だ。

 若いながらもクールな雰囲気を醸し出し、男女問わずファンが多い。

 もちろん、実力は折り紙付きなわけだが……


「あのパーティーがドラゴン討伐のレイドに生き残れるとは思えないんだが……」


 俺はかつて遠巻きに見た彼女のパーティーを思い出す。

 どうやら彼女の同級生4人でパーティーを組んでいたらしい。

 もちろん、普通に冒険者としてやっていける程度の実力は持っていると思われるが、流石に2年ではものすごく強いわけではない。

 【閃剣】と同じCランクではあるが、実力には雲泥の差がある。

 この噂は嘘なのかもしれない。


「あと、これは真偽が定かではないんだが……」

「なんだ?」


 こいつは真剣な表情でさらに言葉を続ける。

 というか、そもそも噂の時点で、真偽は定かではないだろう。

 何を言っているのだろうか。

 まあ、そのことについてはとやかく言うつもりはないが……


「なんでも新人冒険者のパーティーも参加していたという噂があるらしい」

「……」

「あ、信じていないな」

「そりゃぁ、まあ……」


 俺は視線をそらし、ぼやいてしまう。

 だが、俺の気持ちもわかってほしい。

 到底信じられる話ではないのだ。


「どうしてダンジョンマスターの討伐に新人冒険者が参加できると思うんだ? その時点で嘘だとわかるだろ?」

「俺だって、そう思ったさ。だが、一つだけ心当たりがあるんだよ」

「心当たり?」


 俺は首を傾げる。

 こいつは一体、何を言っているのだろうか?

 どんなパーティーだろうが、新人の時点でダンジョンに入ることはできないのに……


「お前、【虐殺狂(ジェノサイダー)】を知っているか?」

「【虐殺狂】だぁ?」


 質問され、俺は思わずその言葉を呟く。

 そういえば、一時期噂になっていたな。


 曰く、近接戦闘も魔法もべらぼうに得意である、と。

 曰く、自分の女に手を出そうものなら、この世に原形を残さないぐらい叩き潰される、と。

 曰く、師匠が超常的な存在である、と。


 そんな信じられないような噂が流れているような存在だ。

 そもそも存在しているかすら怪しいんだが……


「お前、そんな噂を信じているのか? 所詮、噂だろ?」

「いや、噂じゃないんだって! 俺の知り合いが【虐殺狂】の被害にあったんだよ」

「本当か?」

「ああ。なんでも新人としてやってきた【虐殺狂】にギルドにいた冒険者たちが教育をしようとしたらしい。だが、【虐殺狂】はその冒険者たちを返り討ちにしたって話だ」

「本当か? 信じられないんだが……」

「本当だっ! 100人以上の冒険者がそれでやられてしまって、今も入院していたり、田舎に帰ったやつもいるらしい」

「……」


 到底信じられないのだが、最後の説明で一気に信じられなくなった。

 一気に100人も倒すことのできる新人などいるはずがなかろう。

 10人ですら怪しいのに……


「はぁ……お前の与太話を聞いた俺が馬鹿だったよ」

「おい、信じてないのかっ!」

「当たり前だろ? じゃあ、俺は行くぞ? これでも忙しい身でな……」

「さっきまで酒を飲んでいたじゃねえかっ! 仕事もないくせに嘘をつくなっ!」

「なんだとっ!」


 売り言葉に買い言葉で俺たちは喧嘩を始めた。

 いつもなら、こんな風に騒いでいれば、ギルドマスターが止めに入ってくる。

 正確に言うと、殴って止められる。

 だが、最近はそれがない。

 なぜかギルドマスターは副ギルドマスターとともに不在にしているからだ。

 だからこそ、こうやって暴れられるわけだ。

 といっても、流石にずっと暴れているわけにもいかないので、自分たちで止めることにはなるのだが……






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