エピローグ2 死んだ社畜はわからない
「とりあえず、そのことについてはグレイン君、カロン殿のどちらにも感謝することにしよう。本当にありがとう」
結局、アストラ子爵はその結論になったようだ。
まあ、どちらか一方にするよりも、両方にした方がよいと判断したのだろう。
どちらも感謝はいらないと言っていたが、流石に感謝しないのは父親としてどうかと思ったのだろう。
「さて、感謝を伝えたということで、グレイン君に話したいことがある」
「はい?」
アストラ子爵が真剣な表情のまま、俺に話しかけてきた。
一体、どうしたのだろうか?
先ほどよりも真剣さが増しているような……
「君はエクレールのことをどう思う?」
「エクレールさんですか?」
「お父様っ!?」
アストラ子爵の質問に俺は首を傾げる。
どういう質問の意図だろうか?
なぜかエクレール先輩は驚き、声を荒げていた。
どうしてだろうか?
とりあえず、質問には答えるとしよう。
「優秀な女性ですね」
「ほう、どういう意味で?」
俺の答えにアストラ子爵は聞き返してきた。
もしかすると、他人から娘の評価を聞きたいのかもしれない。
親ならではの子に対する心配なのかもしれないな。
なら、下手なことは言えないな。
といっても、悪いことなど言えないが……
「たしか、彼女は王立学院を首席で卒業していたはずですね。つまり、頭が非常に良い」
「そうだな」
「冒険者としての実力も優れていると言わざるを得ないでしょう。アストラ子爵家の【雷属性】の魔法を使いこなしているようですし……」
「そうなのか?」
俺の言葉にアストラ子爵が驚く。
そんなに驚くことだろうか?
「はい。彼女が学生の頃でしたが、俺に初めて膝をつかせたのが彼女の【雷属性】の魔法なんですよ」
「それはすごい。私の娘ながら、誇らしいな」
「先ほどのドラゴンとの戦いでも、彼女の【雷属性】の魔法には救われました。彼女なら、冒険者としての高みにも登れるのではないでしょうか?」
「なるほど」
俺の説明にアストラ子爵は納得したように頷いた。
その表情はどこか緩んでいた。
娘が褒められたことを喜んでいるのだろう。
そして、エクレール先輩はというと、なぜか悶えていた。
褒められ慣れていないのかもしれない。
事実とは言え、べた褒めしてしまった感は否めないからな。
「では、女性としてはどうかね?」
「女性として、ですか?」
「お父様っ!」
アストラ子爵が質問を変えてきた。
先ほどよりも大きな声で文句を言うエクレール先輩。
一体、どうしたのだろうか?
質問の意図が本気で分からない。
どうして俺にそんなことを質問するのだろうか?
あと、周囲の視線が痛い。
シリウスとリュコからは同情の視線が……
それ以外の仲間からは突き刺さるような視線が……
エクレール先輩のパーティーとウォーさん、リンさんにニヤニヤとした視線を向けられていた。
サリーさんとカロンさんはよくわからず、首を傾げていた。
これはどういうことだろうか?
とりあえず、質問されたことには答えよう。
「素晴らしい女性だと思いますよ」
「ほう?」
「はうっ!?」
俺の言葉にアストラ子爵が少し感心したような反応を示す。
エクレール先輩はなぜか甲高い声を漏らしていた。
「それはどういう意味でかな?」
「ルックスが整っていることは当然ですが、人に好かれる性格も好ましいですね」
「それだけかな?」
「いえ、まだまだありますよ。先ほど言った通り、学年首席で卒業できるほどの才女でありながら、冒険者として活躍できるほど素晴らしい戦闘能力を持ち合わせている。これほどの女性はなかなかいないのではないでしょうか?」
「ふむ……なるほど」
俺の言葉にアストラ子爵が嬉しそうに頷く。
これは本気でどういう質問なんだろうか?
娘が評価されていることを確認したかったのか?
ちなみに、俺が話せば話すほどエクレール先輩は恥ずかしそうに悶えていた。
そこまで悶えるほどか?
俺としては、正当な評価をしているつもりなのだが……
と、ここでアストラ子爵が再び真剣な表情に戻った。
「さて、グレイン君について聞こう」
「なんですか?」
「君には婚約者が複数いるようだね?」
「はい? まあ、事実ですが……」
「何人いるのかね?」
「そこにいるリュコ、ティリス、レヴィア……あとは、キュラソー公爵家のイリア嬢ですかね?」
「そこのお嬢さん方は獣王と魔王の娘さんだったかな……そうそうたる顔ぶれだな」
俺の話を聞いたアストラ子爵が悩むような仕草を見せる。
どうして悩むのだろうか?
俺の婚約者について、関係ないのに……
「私の娘がどこまで食い込めるか……くっ、子爵という身分が今日ほど憎らしいと思ったことはないぞ」
「お父様っ!」
なにかアストラ子爵が小声で呟いていたが、よく聞き取れなかった。
エクレール先輩が文句を言っているが、まったく聞いている様子はなかった。
しかし、良いのだろうか?
このままでは、エクレール先輩からの評価がどんどん下がっていくと思うのだが……
「グレイン君?」
「なんですか?」
「君は複数の妻を持つ身になると思うが、それぞれにどのように接するつもりだね?」
「……もちろん、平等に接するつもりですが?」
「出身の身分が違えども、か?」
「はい、もちろんです。生まれがどこであろうと、俺の妻には変わりありませんから」
アストラ子爵の質問に俺ははっきりと宣言する。
これが俺の矜持でもある。
俺の妻という同じ立場なら、平等に愛するのが俺の務めだろう。
まあ、まだ結婚はしていないのだが……
「ならよし」
「はい?」
アストラ子爵の言葉に俺は首を傾げる。
一体、彼は何を言っているのだろうか?
どこか興奮した様子のアストラ子爵が俺に詰め寄る。
「グレイン君っ!」
「は、はい?」
アストラ子爵が顔を寄せてくる。
ものすごく圧が凄い。
イケメンではあるのだが、前世の日本で言うイケメンとは少し違う。
とりあえず、近づかれるとその濃さに若干引いてしまうほどだ。
「君になら、エクレールを……」
「お父様っ!?」
(ガンッ)
アストラ子爵が何かを言おうとした瞬間、エクレール先輩の叫びとともに彼の側頭部へ踵が叩き込まれた。
その衝撃でアストラ子爵は激しく吹き飛ばされた。
あれ、大丈夫かな?
そして、エクレール先輩はどうして息が上がっているのだろうか?
彼女の身体能力なら、あの程度の動きはらくらくにできると思うのだが……
「グレイン君?」
「は、はい……」
「お父様の言ったことは忘れて」
「え、えっと……」
「忘れてっ!」
「はいっ、わかりましたっ!」
彼女の鋭い視線に俺は頷かざるを得なかった。
一体、何が彼女をあそこまで駆り立てたのだろうか?
俺はまったくわからなかった。
あと、なんでこの状況をニヤニヤと見ているメンツと親の仇のような目で見るようなメンツに分かれているのだろうか?
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