7-153 死んだ社畜はドラゴンと話す 2
「ふむ……穴が開いておるな」
「……」
「む? どうしたんじゃ?」
ドラゴンの淡々とした様子に俺たちは声も出せずにいた。
そんな俺たちにドラゴンが声をかけてきた。
「いえ、いろいろと驚きの連続で……」
「まあ、種族が違うから、それは仕方のない事じゃろうな」
「いや、そういう問題じゃないと思いますが……」
ドラゴンの言葉に俺は思わずそんなことを呟く。
たしかにドラゴンと人間では種族の差がとても大きいと思うが、だからといって他のドラゴンが驚かないという保証はない。
とりあえず、気になることを質問することにした。
「えっと、それは大丈夫なんですか?」
俺はドラゴンの首元を指さす。
そこには直径1mほどの穴が開いていた。
最後にエクレール先輩がぶち抜いた穴である。
ドラゴンの巨体からすれば小さい穴ではあるが、貫通している時点でかなり痛いはずだ。
だからこそ、この質問をしたわけだが……
「多少の違和感はあるが、大丈夫じゃな。この程度なら数日寝ておれば、治るはずじゃ」
「それだけで治るんですかっ!?」
ドラゴンのトンデモ理論に思わず驚愕の声を漏らす。
ドラゴンが俺たち人間にとって想像もつかない生物であることは理解していたつもりだが、まさかそんなにすごいとは思わなかった。
普通の人間であれば、確実に数ヶ月単位の治療が必要になってくる。
下手をすれば、一生治らない可能性もあるのだ。
だが、ドラゴンは何の気もなしにそんなことを言ったのだ。
「まあ、儂はドラゴンの中でも頑丈さと回復力を売りにしているからな。この程度なら、それぐらいで治るな」
「なるほど」
今度は納得することができた。
種族的な特性なら、それもありうるのかもしれない。
土属性と言う魔法の特性上、納得せざるを得ない。
現に戦っているときも、その頑丈さと回復力に苦戦させられていたのだから……
「しかし、驚いたのう」
「何がですか?」
ドラゴンがしみじみと呟く。
そんなドラゴンの言葉に俺は思わず聞き返してしまった。
長い時を生きるドラゴンに驚かれるようなことはあっただろうか?
「これでも儂はドラゴンの中でも随一の頑丈さを誇っておるのじゃぞ? そんな儂の外皮をあそこまで破壊する人間がいるとは思わなかったぞ」
「ああ、なるほど」
「最後に儂の外皮を壊したのは何百年前じゃろうか? あやつらも人間だったから、もう死んでおるじゃろうがな」
「まあ、そうでしょうね」
ドラゴンの言葉に俺は頷く。
ドラゴンと言うのはそもそも伝説の存在であり、滅多に出会えるものではない。
ここ数十年の記録でもドラゴンと出会ったという情報はないぐらいだ。
もし出会っていたとしても、命を落とす可能性の方が高いしな。
たとえ何もできなくとも、出会ったことで記録するのが当たり前だ。
しかし、それすら残っていないということは命を落としたのだろう。
「それと、気になったことなんですが……」
「なんじゃ?」
「それって、着脱式なんですね?」
俺はドラゴンが脱ぎ去った外皮を指さす。
いや、正確に言うと、外皮ではないのかもしれない。
なんせ、それを脱ぎ去ったドラゴンの本体にも外皮が存在しているからだ。
なら、これは何と呼ぶべきなのだろうか?
そんな俺の質問にドラゴンは答える。
「まあ、あれは儂の寝袋みたいなもんじゃからな」
「寝袋なんですかっ!?」
再び驚愕の情報が出てきた。
俺たちが戦っていたのは寝袋を着ていた相手なのか?
そんな奴と戦ったなんて、なんか情けない気持ちになってくる。
いや、ドラゴンは寝ていたようなのだから、寝袋を着ていてもおかしくはないと思うが……
「いくらドラゴンでも寝ている間は無防備じゃからな。今回のように外敵に襲われた時のために寝袋を儂は着ておるのじゃ。儂の魔力で作っておるから、頑丈じゃしの」
「なるほど」
ドラゴンの説明に納得する。
攻めてきた俺だからこそ頷くことができた。
たしかにドラゴンの言う通り、かなり頑丈だった。
というか、そもそも攻撃をすることをためらうぐらい大きかったので、そういう効果も期待していたのではないだろうか。
まあ、このドラゴンがそこまで気にする必要があるのかは気になることではあるが……
「それより儂にも聞きたいことがある」
「なんですか?」
ドラゴンが真剣な声音で問いかけてきた。
おそらく、その表情も真剣なものなのだろう。
ドラゴンの表情の変化は俺にはわからないので、そう思っているだけなのだが……
「お主から何やら懐かしい匂いがするの」
「え?」
ドラゴンの言葉に俺は思わず驚きの声を漏らす。
どうして、俺からドラゴンが懐かしむような匂いがするのだろうか?
俺は潔癖症ではないが、そこそこの綺麗好きなので毎日体を綺麗にはしている。
ならば、匂ってくるのは俺の体臭か石鹸の匂いだと思うが……
流石にドラゴンに懐かしまれるような匂いではないと思う。
一体、なんのことだろうか?
「お主から儂の知り合いの匂いがするのじゃよ」
「知り合い、ですか? だとしても、匂いなんかしないと思いますが……」
「ああ、驚いていたのはそこか。匂いといっても、お主の体臭が匂うわけじゃないぞ? いわば、ドラゴンだけにわかる残滓のようなものじゃ」
「ドラゴンだけにわかる? それって……」
ドラゴンの説明に俺はあることに気が付いた。
ドラゴンだけにわかる、それはつまり……
「強力な気配を感じたから来てみれば、まさかお前だとはな……」
「「「「「っ!?」」」」」
いきなり背後から声が聞こえてきたので、俺たちは驚いて視線をそちらに向けた。
そこにいたのは……
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