7-154 死んだ社畜はドラゴンと話す 3
「リヒトにシルトさん?」
そこにいたのは俺の知り合いだった。
ここからは結構な距離のあるカルヴァドス男爵領にいるはずの二人がどうしてこんなところに?
「おい、なんでシルトには敬称をつけて、俺にはつけてないんだ?」
「それは自分の行いを見返してみればわかるはずだ」
「なんだとっ!」
突っかかってきたリヒトに俺は睨みつけながら告げる。
そんな俺の態度にむかついたのか、リヒトはさらに激昂する。
「やめなさい、貴方」
「だ、だが……こいつは人間のくせに……」
人間の子供相手に大人げない行動をしようとしていた旦那にシルトさんが一喝する。
情けないと思ったのだろう。
だが、そんな妻の言葉にリヒトは反論しようとする。
そんなリヒトの言葉をシルトさんはばっさりと斬った。
「元々は貴方のせいでしょう? 出会った時に屋敷の中で暴れようとしたのだから、その家の人間から恨まれても仕方がないんですよ?」
「うぐっ……だが……」
「言い訳無用です。現にそのせいで私と扱いの差があるのですから」
「……」
シルトさんの言葉にリヒトは黙り込んでしまった。
あまりの正論に言い返すことができなかったのだろう。
「ざまあみろ」、俺はそんなことを心の中で考えていた。
しかし、シルトさんの視線がなぜか俺に向いてきた。
「グレイン君」
「は、はい」
シルトさんに声をかけられた。
俺は返事を詰まらせてしまう。
彼女に声を掛けられると、なぜか言葉が詰まってしまうのだ。
別に彼女に対して魅力を感じているせいで、緊張しているわけではない。
いや、人間の姿はおっとりとして、魅力的な女性だとは思う。
だが、それが理由で言葉を詰まらせることを俺はしない。
他に理由があるはずなのだが……
「うちのバカがこのようになるのはグレイン君にも原因があるんですよ? グレイン君がもう少し大人な反応をしてくれれば、このバカも突っかかることはないでしょう」
「うっ!?」
痛いところをつかれてしまった。
俺自身はそのことに気が付いていた。
リヒトが俺に突っかかってくるのは、俺自身の態度が原因であるのだ。
だが、だからといって俺が引くのも何か違う。
負けた気がするのだ。
それに、リヒトが調子に乗りそうな気がするし……
「うちのバカへの教育はしっかりしておきますから、グレイン君も少しは大人になってください」
「……それを10歳の少年に言いますか? ドラゴンで考えるのはわかりませんが、人間で言うならまだまだ子供ですよ?」
彼女の言葉に俺は思わず反論してしまう。
彼女の言わんとしていることは理解できる。
言葉通りのことをやり遂げることはできるだろう。
だが、それを普通は子供に対して言うのはおかしいと思うのだが……
「グレイン君だから言っているんですよ。普通の10歳には言いません」
「俺が普通じゃないように言いますね」
「普通ではないでしょう?」
「まあ、人間としては異常と言えますが……」
思わず言い返してしまったが、あっさりと論破されてしまった。
たしかに俺は異常であると自覚はしている。
だが、この世界でもトップクラスに超常的な存在であるドラゴンにまで異常と言われるのは何が違うと思う。
俺はそこまで異常な存在なのだろうか、と思ってしまう。
「そんなグレイン君を子ども扱いするのはおかしいと思うので、グレイン君は人間の大人と同じように扱おうと思っています」
「……異常かもしれませんが、まだ子供ですよ?」
「大人と同じ理解力があるのであれば、大人と同じように扱うべきです」
「……」
シルトさんの言い分はもっともだ。
しかし、なぜか納得できないものがある。
精神は大人であるが、肉体年齢が子供であるならば子供として扱ってほしいと思う。
異常だから、異常のまま扱ってほしくはないんだが……
「まあ、大人でもグレイン君より未熟な者もいますからね」
「そうでしょうね」
「うちのバカもその一人ですし……」
「そうですね」
シルトさんの言葉に俺は頷く。
彼女の言い分はリヒトが大人らしくないから、逆に俺を大人として扱うということだ。
俺からすれば、とばっちりもいいところである。
しかし、俺はそんなことで文句を言わない。
怒られることがわかっているからだ。
しかし、リヒトは違う。
「おい、なんで俺がこいつより扱いが下なんだ! たかが人間風情より……」
自分より俺の方が扱いが良い事に怒っていた。
今の説明でそういう結論に辿り着くか……
だからこそ、シルトさんにそんなことを言われるんだぞ?
「はぁ……」
そんなリヒトの態度にシルトさんが大きくため息をつく。
自分の旦那の態度が情けなくなったのだろう。
それは仕方がない。
彼女が優秀であるからこそ、相対的にリヒトが情けなく見えるのだから。
まあ、そうでなくても、十分情けないが……
「ほっほっほっ」
俺たちがそんな会話をしていると、背後から笑い声が聞こえてきた。
おそらく先ほどのドラゴンだろうと振り向き、俺たちは目をむいた。
「え? 誰?」
そこにいたのは白いローブを着た一人の老人だった
年齢的には80歳代前半ぐらいだろうか、立派なひげを蓄え、頭が光っているのが特徴の老人である。
見た目だけならそこまで強そうに見えない、だがその姿からは考えられないような威圧感を俺は感じた。
そんな老人は朗らかな笑みを浮かべ、口を開いた。
「先ほどまでお主と戦っておったじゃろう。忘れるとは酷いのう」
「……やっぱりそうか」
老人の言葉に俺は仕方なく受け入れた。
いや、最初からそれ以外の選択肢はなかったのだが、それ以外に期待したかったのだ。
まさか人間の姿になるとは……
そんなことをあっさりできるということは、このドラゴンはリヒトやシルトさんと同レベルのドラゴンだということだ。
それはとんでもない存在であるので、俺が大きなため息をついても仕方のない事だ。
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