7-140 死んだ社畜は対策を考える 3
「ウォーさん、いいですか?」
「グレイン君か? どうした?」
サンドラ先輩たちのもとから離れ、俺はドラゴンの攻撃を捌くウォーさんの近くにやってきた。
彼はドラゴンの重い攻撃をまるで闘牛士のように流していた。
ドラゴンの攻撃を受け止めることができるのはさっきのでわかっていたが、流石にそう何度もできることではないようだ。
まあ、これだけの体格差があれば、仕方がない事かもしれないのだが……
「ウォーさんはこれからどうしますか?」
「どうする、とは?」
「今後の戦いの方針です。一応、俺のパーティーとエクレール先輩のパーティーには指示を出したんですが、ウォーさんのパーティーにもその戦い方はあるでしょう?」
「ああ、そういうことか」
俺の説明を聞いたウォーさんが納得したように頷く。
彼らは中堅ではあるが、実力のある冒険者パーティーである。
つまり、彼らなりの戦い方があるのだ。
シリウスたちやエクレール先輩たちに指示を出したのは、各々が動くより俺が指示を出した方がいいと思ったからだ。
しかし、ウォーさんたちは違う。
俺の指示よりもいい戦い方があると思ったからだ。
「俺たちは陽動と観察をするつもりです」
「なるほど……あの娘たちの動きはそういうことなんだな? えらく動き回ると思っていた」
俺の言葉にウォーさんはドラゴンの方に視線を向ける。
ドラゴンの周りには激しく動き回るアリスたちの姿があった。
俺の指示通り動いてくれているようで何よりである。
だが、それでもドラゴンの意識が陽動に向いていないことが気になるが……
「ウォーさんたちはどうしますか? するべきことがあるのなら、それに合わせてこちらの動きを変えますが……」
「いや、それはいい」
「どうしてですか?」
俺の提案をあっさりと却下するウォーさん。
あまりにも簡単に却下されたので、思わず質問してしまった。
そんな俺の言葉にウォーさんは軽く笑みを浮かべながら答える。
「俺たちに合わせるより、君の指示通りに動いた方が彼女たちも安心して動けるだろう? まだ知り合って間もない俺たちより、信頼しているグレイン君の言葉の方が彼女たちにとって信じられるだろうしな」
「ですが、新人の俺よりもウォーさんたちの方が知識はあると思いますよ?」
「普通の冒険者としての知識なら、確かに俺たちの方が上だろう。だが、この状況でそれは意味はない」
「そうなんですか?」
ウォーさんの言葉に俺は聞き返す。
どうして、彼の経験は意味がないのだろうか?
疑問に思う俺にウォーさんはため息をつき、説明してくれる。
「今までダンジョンマスターとの戦いを何度かしてきた俺たちでも、流石にドラゴンとの戦いの経験はないからな」
「あっ!?」
ウォーさんの言葉に俺はようやく納得できた。
たしかに、今回のドラゴンは他のダンジョンマスターとは一線を画している。
まあ、そもそも俺は他のダンジョンマスターすら知らないわけだが……
「とりあえず、俺たちはドラゴンに近い動きをする魔物と戦った経験をもとにやっていくつもりだ。それがどこまで通用するかはわからないがな」
「ちなみに、それはどれぐらいの大きさで?」
「全長5mほどかな? こいつに比べれば、かなり小さい相手だな」
「……」
その経験は役に立つのだろうか?
彼が言うのであれば、雰囲気はなんとなく似ているのかもしれない。
だが、流石にそこまで大きさに差があるのなら、あまり意味はない気がする。
それをこの場で指摘するつもりはないが……
「まずはこいつの四肢を破壊していくつもりだ。一本でも破壊できれば、機動力は大分落とすことができるからな」
「なるほど……確かにその通りですね」
ウォーさんの言葉に俺は納得する。
たしかに彼の言っていることは理にかなっている。
大きさは違えども、意外と経験が役に立っているようだ。
しかし、ウォーさんが少し不安そうな表情を浮かべる。
「だが、こいつには尋常ではない回復能力がある。四肢を破壊したとしても、果たして意味があるのやら……」
「それは何と言えば……ですが、流石にそんな何度もできるようなことではないと思いますけどね」
「そうなのか?」
俺の言葉にウォーさんが少し期待したような視線を向ける。
何か状況を打開できるようなことを言うと思ったのだろうか?
流石に彼が期待するようなことを言うことができるとは思えない。
あくまで俺の知識を伝えるだけだ。
「欠損した部分を回復するのはかなり体力と魔力を消耗するんです」
「体力もか? 回復魔法なんだったら、消耗するのは魔力だけだと思うんだが……」
俺の言葉にウォーさんが聞き返してくる。
彼の考えていることは理解できる。
だが、それは【回復魔法】について誤解しているせいだ。
世間的に【回復魔法】は誤解されている。
「【回復魔法】はただ傷を癒す魔法じゃないんです」
「そうなのか? それは欠損した部分が生やすことができる、というオチじゃないよな?」
「流石にその程度のことでこんなことは言いませんよ。【回復魔法】は掛けられた側の回復力を強化する魔法なんです」
「それはどういうことだ? 回復力を強化するのなら問題はないと思うのだが……」
俺の言葉にウォーさんがそんなことを言ってくる。
この言い方では伝わらなかったか?
細かい原理を説明するのは本当に難しい。
「回復力とは、簡単に言うと人間に備わっている傷を治す能力のようなものです。ウォーさんも怪我をしたとき、放っておけば勝手に治るでしょう?」
「ああ、そうだな。だが、それがどうしたんだ?」
「それは何のリスクもなしに起こると思いますか? 怪我を放っておくほうが危険なために自然とこの働きが起こりますが、その分も体内で消耗するんですよ」
「……なるほど。そういうことか」
ようやく理解してくれたようだ。
正確な知識ではないが、わかりやすく説明するためにこのように説明した。
今度、医学の本でも探してみようか?
そうすれば、もっとうまく説明できるだろうし……
「欠損した部分を生やす──言葉では簡単そうに聞こえますが、先ほどの話を聞けば、どれほどすごい事かわかりますか?」
「ああ、理解できた。そんなことをすれば、かなり体に負担がかかるはずだな」
「そういうことです。そして、ドラゴンは何度か外皮や部分的な個所を破壊されてきましたが……」
「回復をしていた。つまり、負担になっているはずだな?」
「ええ。ですが、見たところ負担があるように見えないんですよね」
俺はドラゴンの方を見て、そう告げる。
このドラゴンと戦っていて感じていたのは、一向にドラゴンの動きが悪くならないのがおかしいということだ。
俺たちの攻撃が伝わっていないのは理解できる。
だが、あれほど回復をしているのに、消耗の色が見えないのはおかしくないだろうか?
「まだまだ消耗させるほど体力が削られていないか、相手に消耗を悟らせないのが得意なのか──そういうことか?」
「それはわかりません。ですが、どんな生物にも体力には無限はないはずです。それならば、この調子で攻撃をするべきかもしれません」
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