7-139 死んだ社畜は対策を考える 3
うちのメンバーへの指示は終わったので、サンドラ先輩たちのもとへと向かった。
そこにはエクレール先輩以外は揃っていた。
彼女は雷を身に纏って、縦横無尽に部屋を駆けていた。
彼女に指示はいらないだろうな。
とりあえず、サンドラ先輩に声をかける。
「サンドラ先輩」
「あら、グレイン君? どうしたのかしら?」
ここが戦場とは思えないほど、落ち着いた雰囲気で返事をされた。
とてもドラゴンと戦っているようには思えない。
ロット先輩とヴォーパル先輩が真剣な表情になっているのと比較して、より落ち着いているように見える。
まあ、流石にこの状況で何も感じてはいないわけではないと思うが……
「指示を出させてもらおうと思いまして……」
「グレイン君の指示? それは頼もしいわね」
俺の言葉にサンドラ先輩は少し嬉しそうにする。
ロット先輩とヴォーパル先輩も期待に満ちた表情になる。
かなり信頼されているみたいだ。
それはありがたいのだが、そこまで期待するようなものはないのだが……
「三人には遠距離で戦ってもらいます。といっても、ドラゴン本体と戦うことはありませんが……」
「あら、いいの? それって、私たちだけ安全圏にいるようなものだと思うけど……」
「うちの後衛陣も同じですから。サンドラ先輩も同じ役割を担ってもらいます」
「同じ役割?」
「はい。遠距離からドラゴンを観察して、どこかおかしいところがないかを見つけてほしいんです」
「なるほどね」
俺の説明にサンドラ先輩が納得してくれる。
彼女は学生時代も成績が良かったらしいので、これだけの説明でやることを理解してくれたようだ。
頭を使って動いている人に説明は楽でいいな。
俺たちがそんな会話をしていると、ロット先輩とヴォーパル先輩が話しかけてくる。
「おい、俺たちはどうするんだ? 「遠距離で戦え」と言われても、俺は片手剣だからドラゴンに攻撃できないぞ?」
「俺も槍だからな。流石に攻撃は届かないな」
二人の質問はもっともである。
流石に近接武器では、遠距離から攻撃をすることなどほぼ不可能である。
しいて言うならば、武器を投げれば攻撃することはできるかもしれないが、それは一回限定である。
武器を投げてしまった後、無手状態になってしまえばほぼ何もできなくなる。
武器を回収しに行こうとしても、その間に無防備になった状態のためにやられてしまう可能性も高くなる。
そんな指示を俺はするつもりはない。
「二人にはサンドラ先輩の護衛を頼みます」
「護衛だと?」
俺の言葉にロット先輩が聞き返してくる。
言っている意味がわからなかったのだろう。
ヴォーパル先輩も同様の表情を浮かべていた。
まあ、流石にこれだけの説明では理解することは難しいかもしれない。
「同じパーティーメンバーを護衛する」──内容は理解できるかもしれないが、やる意味がわからないからな。
「サンドラ先輩にはドラゴンの観察を頼んでいます。その際に、ドラゴンからサンドラ先輩への攻撃を防いでほしいんです」
「なるほど……だから、【護衛】というわけか?」
「そういうことです。といっても、できるだけ攻撃が来ないように、うちのメンバーに陽動を頼んでいるわけですが……」
「ああ、あの二人か?」
俺の言葉にロット先輩がドラゴンと戦うアリスとティリスの方に視線を向ける。
彼女たちはドラゴンの攻撃をかいくぐりつつ、ドラゴンへと攻撃を加えていく。
だが、ドラゴンにはほとんどダメージが通っているようには見えない。
外皮に傷をつけることすらできないでいるようだ。
まあ、ダメージを与えることを考えずに動くように言っているので、それは仕方のない事だと思う。
「二人には時間を稼ぐように言っています。その間にどうにか相手へダメージを与える方法を考えないといけないわけですが……」
「ドラゴンが相手なら、難しいというわけだな?」
「ええ、そういうことです。当然、時間がかなりかかるわけですから、ドラゴンも二人への反撃以外の攻撃をする可能性があるわけです。特に土属性の魔法は広範囲に攻撃することができるので、遠距離にいるサンドラ先輩にも攻撃がくるわけです」
「それは理解できた。だが、それならシリウス君とレヴィアさんへの護衛は必要ないのか? あっちは二人だけのようだが……」
ロット先輩がシリウスとレヴィアを確認し、そんな質問をしてくる。
たしかに疑問に感じるのはもっともだ。
だが、これにもしっかりとした理由がある。
「あっちは二人で俺並の魔法を使うことができるからある程度は対処できます」
「それほどすごいのか?」
「ええ、この二年の成長は伊達ではなかったわけです。俺も驚いていますよ」
「それはすごいな……だから、うちのサンドラには俺たちが護衛するわけだな」
「そういうことです。サンドラ先輩を馬鹿にしているわけではないですが、流石にうちのメンバーほど期待はできていないです」
「それは仕方がない。たとえ二人でもグレイン君並の実力があるのなら、比べることもおこがましいからな」
俺の説明にロット先輩は肩をすくめる。
いや、そこまで卑下するほどでもないんだが……
そもそもあっちは二人で、こっちはサンドラ先輩だけなのだから。
「指示は俺たちだけでいいのか?」
「はい?」
今度はヴォーパル先輩が話しかけてきた。
彼の質問の意味が分からず、思わず聞き返してしまった。
そんな俺の言葉にサンドラ先輩が説明をする。
「エクレールへの指示はないのか、ということよ。私たちにこれだけ指示を出しているということは、エクレールにもあるんじゃないの?」
「ああ、そういうことですか」
サンドラ先輩の説明でようやく意味が理解できた。
三人は俺が全員に指示を出そうとしていると思っているのだろう。
そう思われても仕方がない。
だが、俺は別に全員へ指示を出すつもりはないのだ。
「エクレール先輩には特に指示はないですね」
「なんで?」
俺の言葉にサンドラ先輩が驚く。
ロット先輩とヴォーパル先輩も同様の表情を浮かべる。
いや、そんなに驚くことじゃないだろう。
まあ、説明はさせてもらうが……
「エクレール先輩は今やっていることと同じことをしてもらうつもりですからね」
「それでも指示ぐらいはあるでしょう? 何かないの?」
「何か、と言われましても……」
なぜかグイグイ来るサンドラ先輩に俺は若干引いてしまう。
なぜ、彼女はエクレール先輩に指示を出すことを期待しているのだろうか?
そもそも、あんな風に派手に動かれては、指示の出しようもない。
下手に大きい声を出せば、ドラゴンにも聞こえてしまうからだ。
とりあえず、思いついたことを伝えてもあろう。
「では、エクレール先輩にはドラゴンの内側から攻撃してもらいましょう」
「内側から? どういういことかしら?」
「ドラゴンは息吹を吐くときに大きく口を開きますよね? その隙に口の中へと攻撃をしてもらいたいわけです」
「ああ、なるほど。外が硬いなら、中を攻撃するわけね。けど、そううまくはいくかしら?」
「まあ、あくまでも試しですからね。それにかなりの危険を伴います」
「息吹を吐いている口元に近づくわけだからね。私たちとは段違いの危険があるでしょう」
「といっても、これは雷を身に纏えるエクレール先輩にだからこそ出せる指示なわけですが……」
「それ、エクレール本人に言ってあげて」
「戦っている状態では難しいと思いますよ」
「別に戦っている最中じゃなくて、戦った後でもいいから」
「……わかりました」
よくわからないが、肯定しておく。
これをエクレール先輩に伝える意味は分からないが、そう言われれば伝えよう。
「では、俺はこれで……エクレール先輩が戻ってきたら、指示を伝えておいてください」
「わかったわ」
俺はそう言うと、サンドラ先輩たちのもとを離れた。
なぜか三人は満足したような表情だが、一体どうしたのだろうか?
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