7-138 死んだ社畜は打開策を考える 2
だが、流石に無策で攻撃をさせ続けるわけにはいかない。
とりあえずの指示は出しておくことにしよう。
「姉さん、ティリス」
「「なに?」」
「二人はドラゴンの意識を反らすように動き回りながら攻撃をしてくれ」
「それだけでいいの?」
俺の指示にアリスが聞き返してくる。
ティリスも同様の表情だった。
彼女たちとしては、派手に相手を倒したいのだろう。
だが、流石にそんなことをさせるわけにはいかない。
「まだ相手のことがよくわかっていない状態だからな。下手に深追いすると、こちらが手酷いダメージを与えられかねない」
「……確かにそうかもしれないわね」
「とりあえず、相手の脚元だけには注意してくれ。あれだけの大きさなら、動くだけでもかなり危ないから」
「それぐらいわかっているわよ」
俺の指示にアリスが笑う。
ことのほか、戦いを楽しんでいるのかもしれない。
これもこの二人の良いところである。
指示が終わると、二人はドラゴンの気を引き始めた。
「兄さん、レヴィア」
「なんだい?」
「何?」
今度は後衛の二人に声をかける。
こちらの指示は前衛の二人に比べると、少し複雑である。
まあ、前衛の二人は複雑な指示を理解できない可能性があるから、仕方のない事かもしれないが……
「二人はそれぞれいつも通りアリスとティリスの補助をしてくれ。ドラゴンの攻撃が二人に当たらないように、魔法で邪魔をしてくれればいいから」
「それだけでいいの?」
「行動としてはそれだけだな。それ以上やると、ドラゴンの意識が向きかねないから、後衛としてはあまり目立つ行動はとらない方が良い」
「なるほどね。たしかにそんなことになるのはまずいはずだ」
俺の説明に納得してくれたようにシリウスは頷く。
レヴィアも反論しないので、理解はしてくれたようだ。
「ただ一つだけ頼みたいことがある」
「何かな?」
「ドラゴンのおかしな様子があれば、探ってくれないか? 流石に激しい戦闘の中で相手の弱点を探すのは俺でも難しいから」
「了解。たしかにそれは僕たちの役割かもしれないね」
俺の言葉にシリウスは笑顔で答える。
役割を与えてもらったことが自信になったのかもしれない。
「俺にできないこと」という点もよかったのかも?
この世界で「俺にできず」、「他の人間ができる」ということは中々に少ないしな。
二人への指示は以上だ。
俺は次にリュコに声をかける。
「リュコ」
「なんでしょうか?」
「リュコには一番きつい事を頼むかもしれない。それでもいいか?」
「……もちろんです」
俺の指示にリュコは肯定の意志を伝える。
だが、少し考えているところを考えると、少し悩んでいるのかもしれない。
「正直、一番命を懸ける役割かもしれない。それでもいいのか?」
「私はグレイン様のメイドですよ? グレイン様に仇なすものを排除し、グレイン様を守るものです」
俺の言葉にリュコは真剣な表情で答える。
彼女にそこまで言ってもらえるのは誇りではあるが、流石に重すぎではないだろうか?
俺の知るメイドの仕事ではないと思う。
まあ、今はそこを指摘する場合ではないが……
「リュコにはドラゴンの弱点を探ってもらう」
「それはシリウス様とレヴィア様の役割では?」
「二人には外から探ってもらう。だが、それだけで見つけられるほど弱点と言うものは甘くないだろ?」
「たしかにそうですね」
俺の説明にリュコは頷く。
彼女も戦いに身を置く者なので、俺の言っていることを理解できるのだろう。
俺がシリウスとレヴィアに頼んだのは外側から俯瞰的に見ることで、相手の弱点を見つけることだ。
実際に戦う者には気づかない違和感に気づくことができる可能性がある。
だが、逆に実際に戦わないと気づかない違和感もあるのだ。
それを発見してもらうためにリュコに戦ってもらうわけだが……
「リュコには相手の内部へと衝撃を伝える技があったよな?」
「はい、ありますね」
「あのドラゴンにどれだけ伝わるかはわからない。だが、できる限り相手の全身に攻撃を加えることで、どこかに弱点がないかを探ってくれ」
「わかりました」
俺の指示にリュコは頷いた。
この指示なら、彼女もいい感じに動いてくれるだろう。
だが、一つだけ伝えておかないと……
「これはティリスにも言ったことだが、【獣気解放】はできる限り使わないでくれ」
「できる限り、ですか? ティリス様には絶対に使わないように言っていた気がしますが……」
「絶対に、とは言っていないな。使うな、とは言ったがな」
「まあ、そこはどうでもいいでしょう。ですが、どうして「できる限り」なんですか?」
リュコが分からないと言った表情で質問してくる。
まあ、どうしてティリスには使わないように指示し、リュコには使う可能性を示唆したのか、この違いは指示を出される側からすれば気持ち悪いのかもしれない。
だが、俺は別におかしなことを言って言えるつもりはない。
「あくまでティリスは陽動だから、だ。アリス姉さんもだな」
「私の場合は攻撃を加えていくことがメインだから、許可をすると?」
「そういうことだな。流石に命の危険がある状態で【奥の手】を見せないように言うほど、俺はゲスじゃねえよ」
「流石にそこまで言ってませんが……」
俺の言葉にリュコはどう反応すればいいのかわからない表情を浮かべる。
いや、俺も本気で言ってねえよ。
冗談で言っているんだから、それぐらいわかってくれよ。
まあ、真面目なリュコにそれを期待するのは酷な話か?
それが彼女の良いところでもあるんだしな。
「とりあえず、よろしくな」
「わかりました」
リュコは俺に一礼し、その場から立ち去った。
瞬きをした瞬間、姿が消えたので少し驚いてしまった。
ドラゴンの方に視線を向けると、そこにはドラゴンの脳天に攻撃を加えているリュコの姿があった。
今の一瞬であそこまで行くとは……メイドにするにはもったいない逸材かもしれない。
まあ、今の彼女に何を言っても、メイドの職を捨てることはないだろうが……
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