7-137 死んだ社畜は打開策を考える 1
「兄さん、レヴィア」
「「なに?」」
まず、俺はシリウスとレヴィアに声をかける。
声をかけられた二人はすぐに返事をしてきた。
そんな二人に質問をする。
「一度、俺を閉じ込めた魔法があるだろ? それを使えるか?」
俺は二年前の記憶を呼び起こした。
あれはシリウスたちが【特別試験】を受けた時の話だ。
シリウスとレヴィアがそれぞれで魔力を練り、同時に魔法を放つことによってより強力な魔法にしていたのだ。
その名は……
「【氷岩監獄】のことかな?」
「ああ、そうだ。使えるか?」
シリウスの言葉に俺は頷く。
後にも先にもシリウスたちの使っている魔法であれ以上のものを見たことがない。
別にシリウスたちを批判しているわけではない。
あの魔法の完成度が素晴らしかっただけだ。
あれを壊すのに、あの頃の俺ですら少しきつかったぐらいだ。
使ってもドラゴンを完全に抑え込むことはできないかもしれないが、時間を稼ぐことはできるだろう。
だからこそ、期待してみたのだが……
「難しいと思うよ」
「やはりそうか」
シリウスの言葉に俺は頷く。
期待はしていたが、可能性は低いと思っていた。
あくまで「できればいいな」という気持ちで聞いただけなのだ。
「あの魔法は様々な条件があるんだ」
「条件?」
「二人の魔力の量、魔法の発動タイミングを同じにして、発動した魔法も編み込むようにしないといけないんだ」
「……それはたしかに厳しそうだな」
「時間をかけることができる状況ならできるだろうけど、ドラゴンと戦っているという状況でできると思う?」
「不可能だな」
シリウスの残念そうな言葉に俺は返事する。
流石にこの戦いで二人に魔力を練ってもらう隙を作るのは難しい。
ただでさえ、二人も戦力として数えているのに、魔力を練るために抜けられてしまうと、その分の戦力が落ちてしまうのだ。
それだけでなく、ドラゴンが二人の方に意識を向けないようにしないといけないのだ。
ドラゴンの注意をひきながら時間を稼ぐ。
なんて無理ゲーなんだろうか?
「グレインっ!」
俺たちが話していると、アリスが近寄ってきた。
近くにはティリスもいた。
二人とも前線で戦っていたのに、どうしてこんなところにいるのだろうか?
俺たちが話しているのが気になったのだろうか?
別に仲間外れをしているつもりはないので、気にすることはないと思うのだが……
「私たちが本気を出すわ」
「ん?」
アリスの言葉に俺は思わず首を傾げてしまった。
本気を出す、とはいったいどういうことだろうか?
ドラゴンと戦っているのに、手加減をしていたのだろうか?
いや、アリスとティリスの性格を考えるに、手を抜くことは考えられない。
二人が言いたいのは……
「【獣気解放】と【氷結武装】のことか?」
「ええ、そうよ」
俺の言葉にアリスが自信満々に答える。
ティリスも同様に頷いていた。
【獣気解放】と【氷結武装】とは、二年前の特別試験で二人が使った技のことである。
【獣気解放】はティリスが体内にある【獣気】と呼ばれる獣人の因子のようなものを解放し、より獣の特性を強くすることで身体能力を強化する奥の手だ。
【獣気】は獣人なら誰でもが持っているが、これを解放できるものは相当の実力者でないと難しい。
【氷結武装】は氷魔法によりアリスの体を覆い、まるで鎧を着こんだような姿になるのだ。
俺やエクレール先輩のように炎や雷を纏っている姿に近いが、魔法の特性が俺たちのものと違うのだ。
俺やエクレール先輩の場合、炎や雷は実際に触れることができない。
それらを魔力の流れとして皮膚と同化させることで、あのような姿になるわけだ。
そのため、体の一部となっており、細かな形状変化をすることが難しいのだ。
炎や雷を纏っているという点で攻撃をすることには向いているが、体が強化されているわけではないので防御面では心配になる部分がある。
逆に、アリスの場合は体の周りを鎧のように氷が覆っている状態になっている。
氷は実際に触ることができるため、アリスの皮膚と同化することが難しいのだ。
だが、実際に存在しているという点で、しっかりと強度があるので、防御面でも俺たちより安心できるのだ。
さらに、魔力を操作すれば氷の形を変形させることができ、武器や防具も新しく生成することができる。
俺たちのものとどちらがいいか甲乙をつけることは難しいが、それでもアリスの魔法にも良さがあるわけだ。
アリスが言いたいのは、この二人の【奥の手】を使うべきだということだろう。
現状、ドラゴンに対して効果的な攻撃が何もできない状況であり、それをどうにか打破するためにこの提案をしたのだろう。
二人の気持ちは理解できる。
二人がこれを使えば、もしかするとこの状況を打破できるかもしれないのだ。
「却下だ」
「「えっ!?」」
だが、俺はそれを拒否した。
俺の反応に二人は驚いたような表情を浮かべる。
そして、慌てたように聞いてくる。
「なんで? 今、必要でしょう?」
「そうだ。状況を変えるためにも、アタシたちがやらないと……」
「それを使ったとして、状況が確実に打破できるか?」
「「え?」」
二人の言葉を俺はばっさりと切る。
二人は再び驚いたような表情を浮かべた。
そんな二人に俺は説明する。
「たしかに二人の【奥の手】は強力だ。もしかすると、この状況を打破してくれるかもしれない。だが、それはあくまで可能性の話だ」
「「……」」
「普通に戦うよりは可能性はあるかもしれないが、失敗した時のリスクが大きいのも事実だ。もし、状況を打破する前に二人が限界になったとしたら?」
「「……お荷物が増える?」」
「ああ、そういうことだ」
俺の説明で二人が状況を理解できたようだ。
別に俺は二人の言っていることを否定したいわけではない。
この状況を打破したい気持ちは俺も一緒なので、その提案を受け入れたい気持ちもある。
だが、まだまだ元気なドラゴンを見て、二人の奥の手でドラゴンの体力を削り切れず、二人が戦闘不能になるリスクを負うことの方が危険だと俺は判断したわけだ。
これは脳筋の二人では考えつかないだろう。
だからこそ、俺がいるわけだが……
「とりあえず、二人は地道にドラゴンに攻撃をしてくれ」
「「……」」
「必要になったら、俺から指示するから。いずれ絶対に必要になるはずだ」
「「わかったわ」」
【奥の手】が使えないことに二人は黙り込んでいたが、俺の言葉に顔を上げて返事をした。
ドラゴンを倒す目途が立てば、二人の力が必要になってくるはずだ。
まあ、そのためにはドラゴンの体力を削らないといけないわけだが……
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※感想で擬音が多いことを指摘されましたが、これは作者の性分ですので(生まれが関西なので、擬音の文化のせいかもしれませんが……)できたら我慢してほしいです。
「擬音だけではわかりづらい」、「文章ですべて説明するのは堅苦しく、長くなる」という考えのもと、「擬音を使いつつ、地の言葉で少し補足説明する」といった手法をとっています。
気になることかもしれませんが、今から変えるのは難しいので当分はこのままにします。
ご指摘ありがとうございます。




