7-119 死んだ社畜は先輩の成長に驚く
「グルアッ」
(ダッ)
サンドウルフの一匹がその場から駆け出す。
しかし、その動きは先ほどとは違っていた。
まるで上への攻撃を警戒するように、体勢を低くして駆け出していたのだ。
一見すると、先ほどのロット先輩の攻撃に臆しているように見えるが、その動きはあながち馬鹿にできない。
体勢を低くすることによって空気抵抗を減らし、より素早く動くことができるのだ。
「ふんっ!」
(ガッ)
サンドウルフの動きに気付いたロット先輩は槍で勢いよく突く。
だが、その動きに気付いたサンドウルフは槍が届く前に横に回避した。
「ガルゥッ」
下から近づいてくるサンドウルフに意識を向けている間にもう一匹のサンドウルフが上からロット先輩に襲い掛かる。
高さは先ほどと同じぐらいではあるが、ロット先輩が下のサンドウルフに意識を向けていたせいで一回目より高く感じるだろう。
だが、その奇襲もロット先輩に届くことはなかった。
「甘い」
「ギャンッ」
ヴォーパル先輩の片手剣がサンドウルフの腹部を斬りつける。
直前に気づいたおかげか、直的することはなかったようだ。
だが、それでもサンドウルフの腹部には深めの切り傷が作られたようだ。
どうやら、サンドウルフの体は土属性で硬くなっているとかそういうことはないようだ。
流石にメタルイーターのように食べた金属の性質を有する魔物だったら、こんな攻撃で傷をつけることなどできるはずはなかっただろう。
「【一点突き】」
「グルゥッ」
ロット先輩が一点──サンドウルフの眉間を狙うように突きを放つ。
だが、流石に正面からだと当たるはずもなく、サンドウルフはギリギリのところで横に回避する。
そして、槍に沿って駆け出し、ロット先輩に襲い掛かった。
「ふんっ」
だが、ロット先輩はサンドウルフが沿ってきた方向とは逆に体を捌き、槍の持ち方を変えて下から振り上げた。
「ギャンッ」
腹部を勢いよく打ち付けられ、そのまま天井に向かって跳ね上げられた。
だが、サンドウルフもただでは済まさなかった。
天井にぶつかる瞬間に、土魔法でその衝撃を緩和した。
そして、その場を足場にして、再びサンドウルフは襲い掛かってきた。
今までで一番早く、ぶつかればただでは済まない速度で……
「そう来ると思ったよ」
だが、それをロット先輩は読んでいた。
向かってくるサンドウルフのことをじっと見つめ、深く腰を落とした状態で槍を構える。
そして、槍を放つ。
「【一点突き】」
(ブシャアッ)
「ギャッ」
サンドウルフの悲鳴は短かった。
完全に悲鳴を口にする前に槍が眉間を貫き、命を奪ったからだ。
思わず俺は感嘆の声を漏らしそうになる。
だが、サンドウルフはもう一体いる。
そちらの方に意識を向けたのだが……
「はあっ!」
(ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ)
「ギャンッ」
「えっ!?」
いきなりの轟音に俺は思わず驚きの声を漏らしていた。
視線の先にあった砂煙が晴れると、そこには大きなクレーターができていたからだ。
その中心にはもう一匹のサンドウルフが頭を地面にめり込ませ、無残な姿で絶命した。
その傍らには片手剣を鞘に戻すヴォーパル先輩の姿があった。
どうやら倒したようだ。
「どうよ、グレイン君」
「俺たちも大分力をつけただろう?」
それぞれのサンドウルフを倒した二人は俺に向かって笑顔を浮かべる。
相手からの攻撃を一切受け付けず、完膚なきまでに叩き潰した。
戦いとしてはこれ以上ないぐらい完全な勝利と言わざるを得ないだろう。
それをわかっているからこそ、二人は笑顔を浮かべているのだ。
そんな二人の反応に俺はというと……
「お、おお……」
どう反応すればいいのかわからず、ただただそんな声を漏らしていた。
まさか、この二人がここまで強くなっているとは思わなかった。
負けることはないとは思っていたが、まさかここまであっさりと勝つとは思っていなかったのだ。
この場合、俺はどう反応すればよかったのだろうか……
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




