7-91 死んだ社畜は王女の嫁ぎ先候補に悩む 1
「まあ、一番安全なのは、どこかの家に降嫁することなんですが……流石にこれは難しいでしょうね?」
「そうなのか?」
モスコさんの言葉に俺は聞き返す。
【降嫁】──この世界で言うと、王族の女性が貴族の家に嫁に行くことである。
前世でも皇族の女性が結婚していくときに、よくニュースになっていたぐらいだ。
というか、キース王子と言う優秀な跡継ぎがいる以上、シャル王女は降嫁する可能性の方が高いと思うのだが……
それのどこが難しいのだろうか?
「シャル王女を引き取ると正妃様から悪い目で見られる可能性がある、ということですよ」
「なるほど……たしかにそうかもしれないな」
モスコの指摘に俺は納得することが出来た。
たしかにシャル王女を引き取れば、自動的にそちらの派閥のものだと思われる。
そうなると、正妃からの覚えは悪い意味でよくなるわけだ。
嫌がらせとかもされるんだろうな……
「貴族の中で一番可能性が高いとすれば、キュラソー公爵家だと思うんですが……」
「それは駄目よっ!」
「ん?」
モスコさんの言葉にいきなりイリアさんが会話に入ってくる。
あまりの慌てように思わず俺は首を傾げる。
彼女の慌てる姿はなかなか珍しいな。
一体、どうしたのだろうか?
「どうしたんだ?」
「シャルがうちに嫁に来るなんてことは絶対に駄目よ」
「なんで? 公爵家なら、王族が降嫁してもさほどおかしくはないだろうし、正妃からの嫌がらせも受けないだろう?」
俺は純粋な疑問を投げかける。
彼女がどうして否定しているのかがわからない。
少なくとも、彼女はシャル王女の一番の理解者だと思っていたのだが……
一体、何を考えているのか……
「シャルが嫁に来るということは、うちの男と結婚するということになるでしょ?」
「まあ、そうだろうな。結婚することになるんだから……」
「うちの男の子供はあの兄だけなのよ?」
「……なるほど」
イリアさんの言葉にどうして彼女が拒否をしているのか理解することが出来た。
たしかに、彼女の立場ならば、思わず大声で拒否をしても仕方がないかもしれない。
というか、そもそも彼女の兄は向こうの派閥に所属しているではないか。
その時点で、キュラソー公爵家に嫁ぐことはかなり難しいのでは……
「絶対にシャルをあんな陰険男にあげないわ」
「実の兄に陰険とは……というか、シャル王女はイリアさんの持ち物じゃないでしょ?」
「大事な親友よ。だったら、あげないという表現も使っていいでしょ?」
「……まあ、いいんだけど」
イリアさんの言葉に俺はどう反応すればいいのかわからず、会話を切ってしまう。
別に俺から言うことでもないのだが、果たして彼女にとっていいのだろうか?
中々に恥ずかしい表現をしているのだが……
現に親友扱いをされたシャル王女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分と言ったところだろうか?
そんな感じで空気が若干おかしくなりそうなのを、モスコさんが会話で戻そうとした。
「キュラソー公爵家で駄目なら、おそらくほとんどの公爵家が駄目でしょうね?」
「なんで?」
「キュラソー公爵家が一番国王様に近い公爵家だからですよ。伊達に筆頭公爵家と言われているわけではないですからね」
「なるほど……一番近いところが駄目ならば、公爵家は全滅になるか」
モスコさんの説明に俺は納得する。
たしかに、それならば仕方のない話かもしれない。
「侯爵家以下の貴族の家はほとんどが王族からの圧力に耐えられるとは思えませんね」
「……そうだな」
やばいじゃないか。
シャル王女の降嫁先の案がほとんどない。
これはかなり不味い事態ではないだろうか?
しかし、そんな中でモスコさんが指を四本立てる。
「ちなみに、残る候補は四つあります」
「え? 意外に多いな」
全滅と思っていたところに四つもあると言われたのだから、思わずそんな言葉を漏らしてしまった。
だが、そんな俺の言葉をイリアさんが咎める。
「王族の嫁入り先の話なのに四つしかないことは問題なのよ?」
「いや、それはわかっているんだけど……さっきまでの話を聞く限りは、多いなと感じても仕方がないでしょ?」
「たしかにそうかもしれないけど、少しは隠すそぶりを見せなさい。だから、グレイン君は私に言い負かされるのよ」
「うぐ……なるほど」
イリアさんの指摘に俺がどうして彼女に言い勝てないのかが理解することが出来た。
どうやら、俺は意外と感情や思っていることが表に出てくるようだ。
たしかに、それならば彼女のように察しの良い女性なら、言い負かすことができるだろう。
まさか、頭の回転以外にもそんな弱点があるとは……
今までそんなことが認識できるほど、言い負かされたことはないからな……
「まあ、グレイン君はそれでいいと思うわ」
「え?」
「相手の足りないものを補うのも一つの在り方だと思うの。グレイン君の足りないものは私が補うから、私が足りないものをグレイン君が補ってね」
「ん? ああ、わかった」
イリアさんが突然そんなことを言ってきたので、俺はあっさりと答える。
そんな俺の言葉に顔を赤くしながら嬉しそうな表情を浮かべるイリアさん。
一体、どうしたのだろうか?
これからも付き合いがあるのであれば、適材適所で問題を解決していくべきだろう。
そんなことは言われずともわかっているが……
「あの……グレイン君はおそらく言葉の意図を理解してませんよね? 大丈夫なんですか?」
「う~ん、どうだろう……まあ、イリアも嬉しそうだから、下手に邪魔しない方が良いと思うわ」
そんな俺たち二人の様子を見て、ひそひそ話をするモスコさんとシャル王女。
なんか俺を可哀そうなものを見る目で見てくるのだが、一体なんでだ?
二人の視線の意味が分からず首を傾げてしまう。
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グレイン君たちがシャル王女の嫁ぎ先について悩んでいますが、グレイン君たちにそんな権力はありません。
とりあえず、考えているだけです。
これを王様に伝えれば、案として考慮はされるかもしれませんが……




