7-90 死んだ社畜は面倒なことに唸る
「まあ、そんなことはさておき……」
「俺にとっては「そんなこと」にはできないんだが……」
モスコさんの言葉に俺は思わず文句が口に出る。
俺に対する認識ついて問いただしたい気持ちで一杯なのだ。
明らかに噂の俺は異常なのに、どうしてそれに納得するのだろうか?
しかし、たしかにこの件が今回の本題に関係ないのも事実だ。
仕方なく、俺は引き下がる。
「とりあえず、第二と第三王子一派は学院生であるにもかかわらず、グレイン君のことを全く知らないほどの馬鹿だということですね?」
「ああ、そうだな。しかも、自分たちの実力を過大評価しすぎているようだ」
「過大評価、ですか?」
俺の言葉にモスコさんが聞き返す。
どうやら気になるようだ。
俺は学院であった出来事を説明する。
「自分たちが「キース第一王子よりもあらゆる面で優れている」と言っていたな。だが、少なくとも近接戦闘と魔法の技術については、比べ物にならないぐらいなっていなかったな」
「グレイン君が言うなら、その通りなんでしょうね。ですが、勉強面などでは優れていることは……」
「それはないわね」
「イリアさん?」
モスコさんの言葉を遮るようにイリアさんが会話に割り込んできた。
その言葉には棘があった。
「あの二人──いや、うちの兄以外の取り巻きたちも含めて、成績下位に固まっているわ。何度も王宮ではその件が問題になっているぐらいよ」
「……そこまでの問題になっているのか。ちなみに、イリアさんのお兄さんは?」
「もちろん学年トップよ? 腐ってもキュラソー公爵家の長男ですもの」
「まあ、それもそうか」
イリアさんの言葉に俺は納得する。
少し話しただけであるが、あの青年は取り巻きたちの他の連中とは違っていた。
決していい人とは言い難いが、能力的には問題ないと感じた。
まあ、能力があっても、性格に問題があるのはどうかと思うが……
「シャルは三年生の中でも上位10名に入るぐらい勉強はできるわ。少しおっちょこちょいなところもあるけど、それを差し引いても優秀と言わざるを得ないわ」
「そうみたいだな」
「少なくとも、あんな連中に馬鹿にされるのは明らかにおかしいわ」
「たしかにそうだな」
イリアさんの言葉に俺は頷く。
言っていることはもっともだからだ。
能力的に上の者が下の者に対して馬鹿にすることは理解できる。
正しい事とまでは言わないが、そういうことができるぐらいの立場ではある。
だが、圧倒的に劣っている側が馬鹿にするのは、明らかにおかしい。
そういう情報を知れば、つくづくあの光景がいかに馬鹿らしいことか理解することが出来た。
「ちなみに私、シリウス君、レヴィアさんでトップ3は独占しているわ」
「……まあ、そうだろうな」
イリアさんの追加情報に俺はあっさり納得する。
この三人より頭のいい生徒が同学年にいるとは到底思えないからだ。
イリアさんに至っては、俺よりも頭が良いかもしれないぐらいだ。
前世分長く生きている身としては、もう少し頑張らないといけないな。
「アリスさんとティリスさんは真ん中より少し下ぐらいね。いくつか平均点を超えていない科目があるわ」
「……情報ありがとう」
アリスとティリスへの補講が決まった瞬間だ。
一応、授業に遅れないようにいろいろと教えてきたつもりだが、結果が伴っていないようだった。
とりあえず、シリウスとレヴィアにもこの情報は伝え、最低限平均点は超えられるような指導を行わないと……
俺たちがそんな会話をしていると、再びモスコさんが会話に入ってきた。
「しかし、中々に困った状況ですね」
「そうなのか?」
「ええ。第二及び第三王子とその取り巻きたちについてはあまり問題ではないですね。ですが、その後ろが問題なんですよ」
「後ろ……親ということか?」
「ええ、その通りです。彼らの後ろには正妃様及び正妃様一派がいるわけです」
俺の言葉にモスコが頷く。
しかし、また面倒な話になってきた。
単純な子供の喧嘩やいじめなら、そう難しい話ではなかった。
しかし、ここに大人の政治が混ざってくると、とたんに面倒な話になってくるのだ。
「一応、俺は国王様とつながりはあるが?」
「あまり意味はなさないでしょうね。グレイン君に対する攻撃への牽制にはなるかもしれませんが、第二王女様への攻撃に対する牽制にはならないでしょうね」
「そういうものか?」
「ええ。正妃と側妃の違いがあるとはいえ、同じ父親の子供であることには変わりありません。片方に肩入れすれば、必然的にもう片方から文句を受けることになります」
「つまり、国王様はシャル王女だけに肩入れするわけにもいかないわけだ」
「そういうことです。さらに、第二王女様のお母様──側妃様はすでに他界され、その実家もすでになくなっており、現状で後ろ盾がない状態です。それに対し、向こうは正妃様の出身である公爵家が後ろ盾となっていますから──」
「政治的には向こうの方が上、というわけだな?」
なかなかに厳しい状況である。
これほどまでに差があるのであれば、国王様から贔屓を受けてもいいものだと思うが……まあ、事はそう簡単な事ではないのだろうな。
「正妃一派はこの国の貴族の中では一番とは言いませんが、かなりの影響力を持っています。正妃様の機嫌を損ねれば、社交界で生きていくことが難しい、と言われるほどです」
「そうなのか? 初めて聞いたんだが……」
初耳の情報に俺は思わずそんなことを言ってしまう。
そんな俺の言葉にモスコさんは苦笑して、告げてくる。
「カルヴァドス男爵家は国王様直々に信頼されていますし、バランタイン伯爵家とつながりがあります。そのため、正妃一派からなにかされることは少ないんですよ」
「国王様の信頼はわかるけど、爺ちゃんのうちがなんで?」
「バランタイン伯爵は先代国王様と旧知の仲で、過去の大戦で王国を勝利に導いた英雄でもあります。そのため、貴族社会でも信頼が厚く、他の派閥でもバランタイン伯爵がいるということで折れる家もあるぐらいです」
「そんなにすごいのか」
身内の情報に思わず嬉しくなってしまう。
たしかに凄い人だと思っていたけど、そこまですごいとは……
祖父のように思っていたのに、親し気に話しかけることが出来なくなってしまうではないか……
まあ、他人行儀で話しかけると悲しそうにするので、孫として接するしかないわけだが……
「とりあえず、グレイン君やキュラソー公爵令嬢様についてはさほど問題はないでしょう。あとは、第二王女様なんですが……」
「キュラソー公爵家で後ろ盾にはなれないのか?」
「それは難しいでしょうね。キュラソー公爵様がどのような事を考えているのかわかりませんが、ご子息がいるということは敵対をしてはいないんでしょう」
「つまり?」
「片方だけに味方をするわけにはいかない、というわけです。なので、第二王女様の後ろ盾になることは難しいかと……」
「うぅむ……」
本当に政治と言うのは面倒だ。
俺は顎に手を当て、唸り声を漏らしてしまう。
さて、どうしたものか……
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