7-37 死んだ社畜は姉に諭される
「まあ、そんな光景を見せられたものだから、戦っていた新入生たちの戦意は一気になくなってしまったの」
「「なるほど」」
アリスのまとめにガルドさんとウィズさんがあっさりと頷く。
いや、なんでそんな簡単に納得するんだ?
「たかが傷を回復された程度で戦意が萎えるなんて、最近の子供は気持ちが弱すぎるな」
「「「「「……」」」」」
文句を言う俺になぜか全員から可哀そうな子を見るような目で見られる。
いや、どうして俺がそんな目で見られないといけないんだ。
思わず文句を言ってしまう。
「別に事実だろう? 少なくとも、兄さんたちは二年前に俺が同じことをしたとしても、戦うことはやめなかったはずだ」
「……たしかにそうかもしれないけど」
「その点を考えると、明らかに今年の新入生は戦いに関する考えが甘すぎる」
俺は憤慨する。
そもそも【特別試験】は合格すれば、一発で卒業要件を満たすことができる特別な試験だ。
通常ではありえない破格の条件のため、当然難易度もおかしなことになっていることぐらい馬鹿でも想像できるだろう。
つまり、戦う前から俺がおかしな強さを持っていることぐらい推測できるはずだ。
それに、いかに新入生とはいえ、上級生と交流を持っている者もいるはずだ。
それならば、そこから情報を得ることが出来ていた筈だ。
それなのに、あの体たらく。
俺が怒るのも当然である。
だが、そんな俺にシリウスが話しかける。
「グレイン、流石にそれは言いすぎだよ」
「何が?」
怒った状態のままシリウスに問い返した。
正直なところ、彼の言葉の意味が分からなかったからだ。
いや、わかるかもしれないが、今回の件は俺の方が正しいと思っているのだ。
そんな俺を窘めるようにシリウスが説明を始める。
「グレインの言っていることも当然だけど、あまり求めすぎるのも問題だよ?」
「どうして?」
「だって、今回の生徒は新入生なんだよ?」
「だから、なんだよ。新入生だからって、特別試験を受ければ関係ないだろう?」
「まあ、そうなんだけど……」
俺の言葉にシリウスが言い淀む。
何と言えばいいのかわからないと言った表情だ。
そんなシリウスを見て、アリスが話に入ってきた。
「グレイン、いい加減にしなさい」
「俺は別に間違っていないと思うけど?」
だんだんムカついてきた。
なんで間違ったことを言っていない俺がこんな怒られているのだろうか?
思わず怒りの感情を含めて反論してしまった。
そんな俺にアリスはひるまずに話を続ける。
「グレインは最近高望みしすぎなんじゃないかしら?」
「なんだと?」
アリスの言葉に俺は思わず怪訝な表情を浮かべる。
それはそうだろう。
俺が考えてもいなかったことを言われたからだ。
「元々、おかしな考えをするような子だったけど、最近はその考えが酷くなった気がするわ」
「……酷い言い様だな」
「否定できるかしら?」
「……」
彼女の問いかけに俺は答えることが出来なかった。
たしかに、そう言われても仕方のない部分があったかもしれないからだ。
そんな俺にアリスはさらに問いかける。
「今まではグレインについてこられるのなんて、私たちのおかしな父親たちだけだったわ。そのせいでグレイン自身が周りに期待することがなかったはずね」
「……」
アリスがアレンたちも非難?する。
まあ、言っていることは間違っていないが……
「でも、二年前に私たちがグレインに勝ってしまったことで、グレインは周りにも期待するようになってしまった、違う?」
「……違わないかもしれないな」
アリスの言葉に俺は少し考えてから、頷く。
二年前、シリウスたちが俺を負かした時から、他人を期待することも必要かと思ったのも事実だ。
しかし、それが今回の件となんの関係があるのだろうか?
「周りに期待するのは構わないけど、だからといってグレインの尺度で他人に期待するのは間違っていると思うわ」
「……どうしてだ?」
「それはもちろん、その尺度が異常だからよ」
「……本当にズバズバと言ってくるな」
さっきからアリスの言葉の刃が俺を抉ってくる。
いくら認めているとはいえ、こんな近くで真っ向から言われるのは認めている云々関係なく傷つく。
少しはオブラートに包むことを覚えてほしい。
いや、直感で行動する彼女には難しい話だろうか?
「だが、期待するのは悪くないんだろう?」
「そうね。でも、その期待に応えられる人間がそんなにたくさんいると思わないべきなのよ。むしろ、ほとんどの人が応えられない、と考えるべきね」
「……」
アリスの言葉に俺は言葉を失う。
そんなに俺の期待は酷いのか?
俺としては、当たり前のことを求めているだけなのだが、普通の人にとってはそれすらも難しいということか……
「だったら、【特別試験】の難易度を下げるべきなのか?」
アリスの言葉に俺はそんなことを呟いた。
ただでさえ、俺の力を制限に制限をかけた状況で戦っているのだ。
正直なところ、これ以上弱くなるのは難しい。
現状、限界まで力を抑えているからだ。
そんな俺の言葉にアリスは首を横に振る。
「それは必要ないと思うわ」
「どうしてだ?」
「それはもちろん、この試験が受験生に身の程を知ってもらうためだからよ」
「……少しは言い方を考えた方が良いと思う」
アリスの言うことは合っている。
だが、本当にオブラートに包むべきである。
これを聞いたら、受験生は怒るだろうから……
「グレインは新入生に身の程をわきまえさせればいいの」
「さらに酷い言い方に……」
「そして、信じればいいのよ」
「何を?」
アリスの言葉の意図が分からず、俺は首を傾げる。
彼女は何を言いたいのか?
「もちろん、その子たちの負けん気と成長を、よ」
「どういうことだ?」
「グレインに負けたことで気を落とす人も出てくるかもしれないけど、一部には次は勝ってやると思う人も出てくるかもしれない。私たちのように、ね」
「……」
「この試験はそういう意図もあると思うの。だから、グレインは戦い方は今のままで、考え方を少し甘くするべきだと思うわ」
「……わかった」
アリスの言葉に納得する。
まさか直感型の彼女に諭される日が来るとは思わなかったな。
彼女も成長している、ということだろう。
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