7-36 死んだ社畜は回復魔法の定義を話す
今回の話は若干グロテスク?な内容となります。
まあ、直接的な表現はないと思いますが……
とりあえず、どこぞの弟子に厳しい(けど、意外と親馬鹿な)お師匠さんの能力みたいな内容です。
「いやぁ、あの時の空気はすごかったわ。控えめに言っても、悲鳴みたいな声が会場中に鳴り響いていたから。あれが阿鼻叫喚、ってやつかしら?」
笑顔でアリスがそんなことを言う。
とりあえず、当事者から言えば、そんな風に笑顔で言うようなことではないと思う。
しかし、そんなアリスの言葉にシリウスたちは頷く。
そして、それとは対照的に驚愕の表情を浮かべているガルドさんがアリスに話しかける。
「だ、だが、グレイン君の右腕はあるように見えるのだが……」
ガルドさんが俺の右腕を指さす。
たしかに彼の言う通り、その先には俺の右腕があった。
この部屋に入ってくる時も右手で扉を開けているのだから、これが本物の右腕であることはわかっているだろう。
そんな彼に俺は説明する。
「くっつけましたから」
「くっつけたぁっ!?」
俺の言葉にガルドさんがさらに驚く。
ウィズさんも信じられないと言った表情を浮かべる。
まあ、わからないでもない。
しかし、右腕がついているのだから、そう考えるのが普通だと思うが……
「ど、どうやって?」
魔法に詳しいであろうウィズさんが俺に話しかけてくる。
おそらく、魔法を使ったと思われたのだろう。
まあ、当たっているわけだが……
「もちろん、【回復魔法】ですよ」
「【回復魔法】? そんなこと、できるとは聞いたことないのですが……というか、グレイン君は【回復魔法】を使えたのですか?」
俺の言葉にウィズさんが反論してくる。
まあ、人間が使う魔法でこんな効果があったなど、聞いたことはないだろう。
精々、神話で神々が使う魔法でこのレベルの魔法が使われたとか、使われなかったとかそういう記述があるぐらいだろうし……
だが、実際にやってしまったのだ。
「まあ、本職じゃないですけどね?」
「いや、本職じゃなくても十分すごいですよ? というか、本職じゃないのに、腕を引っ付けたのですか?」
「そういうことですね」
「どうやって? とても【回復魔法】とは思えないのですが……」
ウィズさんが考え込む。
おそらく【回復魔法】による効果とは思えなかったのだろう。
彼は生物における回復の定義を理解できていないのだろう。
まあ、地球に比べると数段階どころか、数十段階ぐらい技術レベルの低いこの世界の人間ならば、それも仕方のないことかもしれない。
だから、俺は説明するとしよう。
「ウィズさんは怪我はどうやって治ると思いますか?」
「怪我、ですか? ……擦り傷などは瘡蓋が出来て、気付いたら治っていると言ったところでしょうか? 骨折なども、折れた骨がいつの間にか治っているみたいですが……」
やはり予想通り、細胞云々の話は分かっていないようだ。
まあ、これは仕方のない事だろう。
俺だって、前世では中学や高校で生物関係の授業を受けるまでは、全く知らなかったのだから……
しかし、説明するのはかなり難しいな。
おそらく、細胞という概念は通じなさそうだから……
まあ、説明するしかないわな。
「人間の体には実は再生能力のような者が最初から備わっているんです」
「再生能力?」
「ええ、そうです。ウィズさんの言う通り、傷を治したり、骨を治したりするのもすべてこの人間の再生能力によるものなのです」
「な、なるほど……しかし、その再生能力で斬りおとされた腕をくっつけることは無理だと思うのだが……」
俺の説明に納得しつつも、今回の問題を指摘するウィズさん。
まあ、普通に考えれば、そうだろうな。
俺だって、人体のこの機能で斬りおとされた腕が引っ付くとは思っていない。
しかし、ここで出てくるのが【回復魔法】なのだ。
「ここで出てくるのが、【回復魔法】です。ウィズさんは【回復魔法】の効果はわかりますか?」
「……回復するための魔法、だろう?」
「まあ、簡単に言えば、そうですね。とりあえず、わかりやすく説明すると、【回復魔法】とは人間の回復能力──つまり、先ほど説明していた再生能力を補助する魔法なんです。それにより、通常よりも何倍の速度で回復をさせるわけです」
「な、なるほど……だが、いくら補助したとしても、腕は引っ付かないのでは?」
「まあ、普通はそうでしょうが……俺ですよ?」
「……えっと」
俺の言葉にウィズさんが言葉を詰まらせる。
まあ、答えられないのは仕方がない。
俺だって、同じようなことを言われれば、なんて答えればいいのかわからないからだ。
とりあえず、これを説明できるのは俺だけなのだ。
「俺の過剰な魔力によって、無理矢理再生能力を強化させました。本体側と腕側の双方の再生能力を強化させることによって、無事にくっつきました」
「な、なるほど……」
俺の説明にウィズさんがものすごく引いたような表情を浮かべる。
それも仕方のないことかもしれない。
なんせ、明らかに人間が考えるような行動ではないからだ。
やった本人ですら、そう思う。
そんな会話をしていた俺たちにガルドさんが話しかけてくる。
「なあ、グレイン君」
「なんですか?」
「さっきから話を聞いていたのだが、再生するのなら腕をくっつける必要はなかったのでは?」
「というと?」
ガルドさんの言葉に俺は聞き返す。
いや、この質問は十分想定で来ていた。
しかし、まさかこの質問をされるとは思っていなかった。
頭はそこまでよくなさそうなのに、意外と鋭い人なんだな。
「君の本体側に再生能力があるのならば、そこに魔法をかけることで回復すると思うのだが……」
「まあ、その可能性はありますね。ですが、確率は半々といったところでしょう」
「それは成功する確率が、か?」
「まあ、そうですね。いえ、失敗するにしても、怪我が治らない方がマシなんですよ」
「どういうことだ?」
俺の言葉にガルドさんは聞き返してくる。
なので、俺はガルドさんに質問してみた。
「冒険者家業をしているのであれば、戦闘中に腕を斬りおとされた方もいらっしゃると思います。その怪我は時間が経てば、どうなりましたか?」
「え? えっと……その怪我の部分を覆うように皮膚が出来ていたな」
「そういうことです。斬りおとされた腕がないと、そのようになってしまう可能性が高くなってしまうわけです」
「なるほど」
俺の説明にガルドさんは頷いた。
彼もその状況を見たことがあるから、どんな風になるかを理解できたのだろう。
こういう点で経験のある元冒険者という相手は説明しやすい。
さらに俺は説明する。
「ちなみに、万が一成功した場合でも俺の体にはかなりの負担がかかったでしょう」
「そうなのか?」
「ええ。無くなった腕を再生するためのエネルギーが必要になるんですよ? 当然、かなりのエネルギーを消耗するわけですから、本体側にとってかなりの負担になるのは当たり前じゃないですか」
「な、なるほど」
俺の説明にガルドさんは若干引きながら、納得してくれた。
どうやら、説明は成功したようだ。
はあ、よかった。
細胞云々を説明することが出来ないから、伝わるかどうか心配だったんだ。
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今回出てくる人間の再生能力の話は人体の怪我を治す流れを過剰に書いたものです。
実際の怪我を治す流れとは異なると思うので、正しい知識として覚えないでください。
これはあくまでファンタジーなので……
ちなみに、腕を生やすくだりは七つの球を集めて願いを叶えるマンガに出てくる緑色の皮膚をした人をイメージして書きました。
個人的には一番好きなキャラです。
特に弟子の代わりに弟子の子供をあやす姿が普段はクールな彼とのギャップを感じ、ものすごく好感を持てました。
あと、弟子を守って命を落とすシーンも泣けますね。




