7-35 死んだ社畜は落ち込んでいる
数日後、俺たちは再び冒険者ギルドにやってきていた。
普通にクエストを受注しようとした俺の顔を見て、なぜかウィズさんが俺たちをガルドさんの部屋に連れて行ったのだ。
そして、俺をソファに座らせると、温かい紅茶が出てきた。
紅茶を一口含むと、ガルドさんが口を開いた。
「一体、どうしたんだい?」
「何がですか?」
質問の意図が分からず、俺は聞き返してしまう。
内容がぼんやりしすぎて、まったくわからないのだが……
というか、ガルドさんだけでなく、ウィズさんも心配そうな表情を浮かべていた。
「いや、君の表情がものすごく暗いから、何かあったのかと思ってな」
「……別に何でもないですよ」
「そんな表情で言われても信じられないよ、こういうのは人に相談した方が気もまぎれると思うぞ?」
「……」
ガルドさんの優しい言葉に俺は返事をすることはできない。
たしかに相談した方がいいことは理解できる。
おそらく彼は年長者として、子供である俺の悩みを解決してあげたいと思っているのだろう。
それは非常に感謝している。
だが、俺にだって、話したくないと思うことだってあるのだ。
そんな俺の様子を見ていたのか、呆れたようにアリスが口を開いた。
「グレインは二日前から、ずっとこの調子なんですよ」
「姉さんっ!」
アリスの言葉に俺は思わず叫んでしまう。
しかし、そんな俺の様子に彼女はまったく気にした様子もなかった。
そして、そんなアリスの言葉を聞いたガルドさんたちは聞き返してくる。
「二日前? 何があったんだい?」
「その日は学院に行っていたんだよな? もしかして、いじめられたりしたのか?」
二人が少し驚いたような表情を浮かべた。
そんな二人の言葉にアリスは首を横に振った。
「グレインをいじめることが出来るような奴が学院にいると思いますか?」
「……いないな」
「そうですね。精々、学長ぐらいでしょうか?」
アリスの指摘に二人はあっさりと答えた。
たしかにその通りである。
しかし、あの学長は俺をからかうようなことは言ったとしても、悪意を持っていじめるということはない。
あれでも一応聖職者だからな。
その辺の良識はしっかりと持っているのだ。
「じゃあ、なんでこんなに落ち込んでいるんだ? グレイン君がここまで落ち込むなんて、生半可な事ではないだろう」
ここでガルドさんが話題を戻した。
本気でわからない、と言った表情を浮かべている。
その言葉にウィズさんも頷いており、二人が普段から俺のことをどう思っているのかわかるような反応だった。
いや、二人も気持ちもわかるけど、もう少しそういう気持ちは隠してほしい。
俺だって人間なんだから、悩むことぐらいはあるぞ。
「実は二日前、学院で一年ぶりの【特別試験】が行われたんですよ」
「【特別試験】? たしか、グレイン君を倒す試験だったよな? 倒したら、卒業資格を貰える、ってやつ」
「はい、それです」
ガルドさんの言葉にアリスが頷く。
そんなアリスの言葉を聞き、ガルドさんは首を傾げる。
「なら、どうしてこんなに落ち込んでいるんだ? そんな落ち込むようなことはないと思うが……」
「もしかして、グレイン君を倒すような人間が現れたんですか?」
首を傾げるガルドさんと、ある結論に辿り着くウィズさん。
ウィズさんはおそらく俺が落ち込むとしたら、負けることだと思ったのだろう。
まあ、普通に考えれば、一番それが考えられる原因だろう。
しかし、そんなウィズさんの言葉にアリスは首を横に振る。
「グレインを倒すことが出来るような化け物がそんなにたくさんいると思いますか?」
「……いないですね」
はっきりと宣言された。
いや、俺を倒すことが出来る奴ぐらい多くはないかもしれないけど、ある程度は居ると思うよ?
人間に限定すると、かなり少なくはなると思うけど……
「そもそも新入生以外はグレインの強さを知っていますから、【特別試験】を受けることはしないわ。無謀にも挑戦するのは、グレインのことを知らないような新入生ぐらいよ」
「なるほど……ですが、それならグレイン君が落ち込むような原因が無いように思えるのですが……」
アリスの言葉を聞いたウィズさんがそんなことを言う。
まあ、これだけを聞いたら、そう思うのも仕方がないな。
そんなウィズさんの言葉に、アリスはため息をつきながら答えた。
もちろん、この反応は俺に対しての呆れだろう。
「グレインは最初、片腕だけで戦っていたの。しかも、円から出たら負けという条件も付けて」
「は? なんでそんなことに?」
「学長に言われていたみたい。それぐらいしないと、あまりの差で試験する意味すらなくなる、って」
「ああ、なるほど」
アリスの説明に二人は納得する。
俺のことを知っていれば納得するのはわかるけど、そんなにあっさりと納得されるのもなんか癪だな。
まあ、話を途切れさせるのはあれなので、何も言わないが……
「当然、挑戦していた新入生たちはぶちぎれたわ。なんせ自分たちと同い年のグレインにそんな舐められた戦い方をされたんだから、怒るのも当然よね」
「それはそうだ」
「無知とは怖いですね」
アリスの言葉に二人は頷く。
うん、事実かもしれないけど、もう少しオブラートに包んでくれないかな?
言葉の刃が俺の胸に刺さるんだけど……
「ぶちぎれた新入生たちは一斉にグレインに襲い掛かったわ。でも、グレインはそれをあっさりと返り討ちにしたわ」
「まあ、納得だな」
「いくら数を揃えたとしても、実力がない者ばかりだと烏合の衆ですからね」
アリスの説明に二人は頷く。
アリスはさらに話を続ける。
「ここで接近戦は分が悪いと気づいた新入生はグレインが円から出られないという部分をついて、魔法攻撃を仕掛け始めたの」
「いい判断だな」
「10歳の少年少女にしてはなかなかいい作戦じゃないですか」
アリスの説明に二人は新入生たちを褒める。
たしかに、これは俺も認める部分だ。
俺の行動に対して怒りに任せて攻撃を続けていれば、このような判断に辿り着くことはない。
新入生の中にも冷静かつ的確に判断ができる者がいたということだ。
これは将来が楽しみだと言わざるを得なかった。
「でも、その後に事件が起きたの」
「「事件?」」
アリスの説明に二人は首を傾げる。
事件という不穏な言葉の意味が理解できなかったからだろう。
まあ、少なくとも試験で使われるような言葉ではないからな。
というか、俺はこれを思い出したくないんだけど……
しかし、そんな俺を気にした様子もなく、アリスは事実をありのまま告げた。
「新入生が放った魔法の一つがグレインの右腕を斬りおとしたの」
「「は?」」
予想外の言葉に二人は口を大きく開け、呆けた声を出した。
まあ、当然の反応かな。
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あと、今回は最後になかなかグロテスクなことになっていますが、心配はしないでください。
なんせ主人公は化け物設定ですから!
とりあえず、どうなるかは次回をお楽しみにしていてください。




