7-3 死んだ社畜はリンチを受ける?
男達が俺を連れてきたのは冒険者ギルド内にある訓練所だった。
おそらく冒険者たちがクエストを受けなかったときに体をなまらせないために訓練を行うための施設だろう。
あってもおかしくはない施設だ。
だが、気付いたことが一つ──王立学院の訓練所よりも幾分耐久性に乏しいように思える。
まあ、あっちはあの学長が直々に作った結界で覆われているのでそれも仕方のないことかもしれない。
「てめぇみたいな生意気なガキには教育が必要だな」
「はぁ……」
男の言葉に俺は呆けた声を出してしまう。
それもそうだろう。
普通に考えれば、教育が必要なのはこんなことを言っている男の方なのだから……
だが、この場で俺以外にそのことに気付いている者はいない。
「謝るのは今のうちだぜ? 尻尾巻いて帰って、家でママのミルクでも飲んでな」
「もちろん、女は置いていけよ?」
「「「「「ぎゃはははははっ」」」」」
男達は自分の言った言葉で高笑いする。
その顔には下卑た表情を浮かべている。
本当に吐き気がする。
どこの世界にもこういう奴はいるんだな。
てっきり【聖光教】という巨大な宗教団体の力を笠に着た豚貴族ぐらいかと思っていたが、まさか自分たちが所属しようとしているギルドにこんな人間たちがいるとは思わなかった。
正直なところ、登録をやめようかなと思ってしまう。
まあ、俺たちのこれからのことを考えるなら、やめるわけにはいかないのだが……
「ん?」
視線を感じたので、思わずそちらを振り向く。
そこには観客席の一角から心配そうな視線を向けるシリウスたちの姿があった。
俺だけ訓練所に連れてこられたのでどこに言ったのかと思っていたが、まさかあんなところにいるとは……
周囲に数人の男性冒険者がいることから、彼らに連れてこられたのだろう。
まあ、大方「自分たちがいかに強いか見せてあげる」なんて先輩面をしているところだろう。
明らかにシリウスたちよりも格段に実力が足りないくせに、よくそんなことが言えたものである。
いや、足りないからこそそんなことが言えるのか?
相手の実力を正確に測れないだろうから……
「おい、どこ見てるんだよ」
「あ、すまん」
余所見をしていた俺に男が怒鳴ってくる。
俺は思わず謝罪の言葉を口にしてしまったが、ここで俺が謝るのはおかしくないか?
別に悪い事はしていないんだし……
だが、そんな俺の態度が気に入らなかったのか、男たちが口々に罵倒してくる。
「はぁ? てめぇ、何余裕ぶっこいてるんだよ!」
「ガキの癖に粋がってるんじゃねえぞ?」
「二度と消えない傷をつけてやろうか?」
男達は威圧するようにそんなことを言ってくるが、正直言って全く怖くない。
少なくとも学院で俺が戦った生徒たちの方がまだ威圧感はあるし、アレンのような化け物と比べると「毛ほどでもない」という言葉すら言いすぎな気がする。
どうしてこの程度でここまで粋がれるのだろうか?
こいつらの感性が心配になってしまう。
とりあえず、聞かないといけないことはいまのうちに聞いておこう。
「あの……」
「なんだ?」
「これは一体どういう趣向ですかね? 一方的なリンチか、それとも俺からの反撃が許されているのか?」
「は?」
俺の言葉に男は少し呆けた表情を浮かべた。
俺の言っている意味が分からなかったようだ。
さらに説明をしようとするが……
「「「「「ぎゃはははははっ」」」」」
俺が説明をする前に男たちは大笑いを始めた。
別に笑わせるつもりでこんなことを言ったわけではないのだが……
そんなことを思っていると、男たちが笑いながら話しかけてくる。
「お前は自分が反撃できると思っているのか? 新人の癖に……」
「まあ、そうですね」
「じゃあ、やってみろよ。俺たちとの実力差に絶望して、冒険者を止めたくなっても知らねえぞ?」
「はぁ……」
「といっても、俺たちにリンチをされたせいで辞めたくなるかもしれないがな」
「……」
なんか言葉を発するごとにこいつらに対する評価が下がっていく。
いや、最初から最低値だったはずなのに、それよりも下げるこいつらを褒めるべきだろうか?
「まあ、反撃したかったら好きにしたらいいさ。できるものなら、な」
「それならさせてもらいます。ところで、もう一つルールを決めませんか?」
「ルール、だと?」
「ええ。相手が全員降参するまで勝敗が決しない、なんてどうですか?」
「ふむ……いいぜ」
俺の提案に男がニヤリと口角を上げる。
大体考えていることはわかる。
意味のないルールをつけるなんて、素人同然だと思っているのだろう。
まあ、賛成してもらったのなら、問題はないな。
あとは……
「そこの職員さん」
「なんだ?」
「もし、この訓練所が破壊された場合、弁償代とかはどうなるんですか?」
「それはもちろんギルドの運営費から賄われるな。まあ、そう簡単に壊すことができるはずがないがな」
「つまり、俺が壊したとしても支払いが生じることはないということですね」
「そういうことになるな。まあ、お前みたいな新人がこの訓練所を破壊するなんて、万に一つもないだろうがな」
よし、言質を取った。
これで手加減をする必要はないな。
俺は再び男たちに視線を向ける。
「お待たせしました。では、やりましょうか」
「はんっ! そのすかした顔を屈辱で歪ましてやるよ!」
俺の言葉に男たちは武器を構え、襲い掛かってきた。
俺はそんな彼らを見ながら、武器を構えることなく……
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




