7-2 死んだ社畜は絡まれる
意気込んで冒険者ギルドの扉をくぐったのだがつい十分前ぐらい。
現在の俺たちはというと……
「なあ、姉ちゃんたち。こんなガキなんかじゃなくて、俺たちと一緒に冒険しないか?」
「俺たちと一緒だったら、安心してクエストを受けられるぜ?」
「今だったら、俺たちが代わりに装備を揃えてあげられるぜ」
女性陣(+シリウス)が男性冒険者から声を掛けられていた。
まあ、見目麗しい少女たち(一人、男子を含む)なので、比較的に男所帯な冒険者たちはこぞって声をかけるのもわからないではない。
そして、彼女たちが勧誘を受けている間、俺の方はというと……
「おいおい、てめえ。ガキの癖に女連れとはいい御身分だな?」
「はぁ……」
強面の男性冒険者たちに囲まれ、恫喝を受けていた。
俺を追い出して、女性陣を分捕る算段なのかもしれない。
まあ、一般的な新人冒険者だったら、こういうふうに凄まれたら引いてしまうだろうな。
俺には全く効かないけど……
「しかし、なんか治安が悪いな……聞いていた話と違うんだけど?」
「あぁ? 何言ってるんだぁ?」
俺の呟きに目の前の男が睨み付けてきた。
額から左目にかけて大きな傷があり、左目を覆うように眼帯をつけているので、その強面がさらに強調されている。
クエストでついた傷だろうか、かなりの大怪我に見える。
しかし、そこで気になることがある。
俺の目には目の前の男の実力は決して高いものではなく、彼が自分に見合ったクエストを受けているのであればそんな大怪我をすることはほぼあり得ないのだ。
どうしてそんな怪我を負ったのだろうか?
「ああ、どいてくれないかな? 俺は弱い者いじめが嫌いなんだけど……」
とりあえず、無駄な折衝を好まない俺は穏便に事を運ぶべくそう告げる。
しかし、そんな俺の言葉を聞いた男たちは……
「あぁ? ガキが粋がってんじゃねえよ」
「新人のくせして、先輩冒険者より強いってか?」
「女連れだからって、自分が強いと勘違いしているのか?」
俺の言葉に男たちは次々に暴言を吐いてくる。
はぁ……まさかこんなに怒るとは……
ここはギルドの職員たちに仲裁を頼もうと思ったのだが……
(ニヤニヤ)
「(ん?)」
ギルドのカウンターらしき場所には意地の悪そうな男が一人だけだった。
ここで俺はこのギルドの状況がおかしい事に気が付いた。
明らかに人数が少ないのだ。
これほど巨大な建物に本来ならいるだろうと思われる人数が存在しないのだ。
別に冒険者が常に全員いるとは思っていない。
当然、クエストを受けるのが本業なので、ギルドにいないことの方が多いかもしれない。
だが、流石にここまで少ないことはあり得ないだろう。
職員についてもそうである。
これほどのギルドなら10人単位で職員がいてもおかしくないはずなのに、確認できる限りで三人しかいない。
いじわるそうな男以外には気弱そうな男女しかいないのだ。
おびえている様子から先輩に逆らえない後輩と言ったところだろうか?
さて、これは一体どういうことだろうか?
とりあえず、声をかけるとしようか。
「ああ、すみません」
「はい、なんでしょうか?」
俺の問いかけにニヤニヤとした職員がやってきた。
近くで見ると、よりその厭らしい笑みにイラついてしまう。
表情だけでここまで人に嫌悪感を与えられるなんて、なんと凄い才能だろうか。
まあ、流石にそんなことを本人には言えないが……
「おい、てめぇ。何職員を呼んでいるんだ?」
「俺たちに勝てねえからって、逃げようとしているのか?」
俺の行動に男たちが口々に馬鹿にしてくる。
だが、俺はその汚い言葉を気にすることはなかった。
というか、君たちは俺を気にするよりも女性陣の方を気にするべきだと思う。
俺を馬鹿にする言葉を一言発するごとに、女性陣(シリウスを除く)の怒りのボルテージが一段階ずつ上がっているんだから……
というか、話しかけている男たちはどうして女性陣の雰囲気に気付かない。
もしかして、ナンパ男に話しかけられていることにイラついていると思っているのか?
とりあえず、彼女たちが暴発する前に話を終わらせよう。
「ココの冒険者の方って、新人に対してこんないびりをするんですか?」
「いえいえ、本来ならばこんなことはしていませんよ。うちのギルドは歴史があり、格式高い冒険者ギルドですから」
「そうなんですか? だったら、どうして……」
ギルド職員の言葉に俺は思わず聞き返す。
だが、そんな俺の言葉を待たずに、ギルド職員は嫌らしい笑みを皿に歪めて言葉を発した。
「君が悪いんですよ?」
「あ?」
自分が思っていたよりも低い声が出た。
こいつは一体何を言っているのだろう、そんな疑問が俺の頭をよぎった。
そんな俺の様子に気が付かず、男は話を続ける。
「基本的に冒険者というのは男性の方が多いんです。つまり、女性が冒険者として登録に来れば、自然と勧誘合戦となってしまうわけです」
「まあ、わからないでもないな」
「そうなると、自然と一つのパーティーに女性は一人いるかいないか、多くても二人ぐらいになってしまうわけですよ」
「……なるほど」
厭らしい笑みを浮かべている割に男の言っていることはわからないでもない。
しかし、だからと言ってこの状況に問題ないわけがないと思うのだが……
「それなのに新人冒険者の君が5人も、しかも全員が見目麗しいのだからこんな風になっても仕方がないわけですよ」
「……」
「君のような新人冒険者が彼女たち全員の面倒を見れるはずがないから、先輩冒険者として声を掛けさせていただいているのですよ」
「……」
男の言葉に俺は思わず鋭い目で睨み付けてしまう。
こいつは本気で何を言っているのだろうか?
こいつの言い分だと俺が悪者になっている。
少なくとも、この状況において俺の過失はないだろう。
それなのに、どうしてここまで悪く言われなければいけないんだろうか?
「わかったら、女を置いてとっとと帰りな」
「てめぇみたいなガキが冒険者なんて、最初から無理だったんだよ」
ギルド職員の話を聞いている俺に冒険者たちが口々にそんなことを言ってくる。
だから、早く女性陣の剣幕に気づけよ。
もう見なくても怒りの表情を浮かべていることがわかるぐらいの威圧感を感じるぞ?
ここまで危機感がないのは冒険者としては致命的だと思うんだが……
そんなことを考えていると、背後にいたがたいのいい男が俺の肩に手を掛けようとして──
「おいおい、足が竦んでいるのか? だったら、俺が外に出して……(ドスッ)がはっ!?」
──即座に背中から地面に叩きつけられた。
もちろん、それを行ったのは俺である。
そして、俺はこの状況に疑問を思った。
こいつは本当に冒険者なのか、と。
「「「「「なっ!?」」」」」
突然の俺の行動にギルドの職員と冒険者たちが驚く。
俺が突然こんなことをしたのだから、それは当たり前の反応だろう。
しかし、明らかに反応が遅すぎる。
職員はともかく、冒険者がこれほどまで反応に遅れるのは致命的だと思うのだが……
「はぁ……」
俺はこれまでの情報からなんか面倒ごとに巻き込まれそうだなと思い、大きくため息をついてしまった。
冒険者になる前なのに、どうしてこんな面倒なことに……
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