悪魔の彼は
主人公の役職を、学級委員→生徒会長に大幅変更。
「可愛いなぁ君は本当もう目の保養以上もうこの世の中の全てを束にしても敵わないくらい可愛いんだから〜」
太陽の光が差し込む温かい部屋で、私を愛でている人間が約一名。私が動けないのを良い事に、上に乗って抱きついてくる。匂いや触感からして、男の人かもしれない。私はサイトリールに来て色んな変態と会ってきたけど、彼は中でも酷い。結構前に、誰かに変態ホイホイと言われたような気がする。そんなGが来るホイホイとか止めてほしいんだけどね。
彼は今にもキスしてきそうな勢いで、私に顔を近づけてきた。
「あの...離せ」
「いやぁ酷いなぁ君は。怒ってる君も嫌がってる可愛い〜」
可愛いと言われて、こんなに嬉しくなかった事はないだろう。
さて、まずはこの自称悪魔はあくまでも『自称』であるからにして、本物とは限らない。そもそも、悪魔って何なんだ? 私の中のイメージがかなり崩壊しちゃっているのだが。彼が悪魔ならば、きっと私の帰る事が出来る。
「あ、あの...私帰りたいんですが」
「何処に? 何処に帰るって言うの?」
「何処って、サイトーー」
「君に帰る場所なんてないんだよ」
「えっ...?」
彼は嫌味ったらしく笑い、狂気がかった目をこちらに向けた。
「ほら...あの花園で見たでしょう? あれは全部事実なんだ。現実逃避は良くないよ。あの世界に、君の居場所なんて存在しない。ただ、ただ君は此処にいれば良い。私は君を必要としている。ね、だから私と一緒にいて」
「私は彼らにも必要とされている! 私に触れないで!」
どうにか起き上がり、私は彼を突き飛ばした。目には涙がたまっていた。彼は酷く困惑した表情を浮かべていたが、私の殺気を感じ取ってすぐに言葉を発した。
「君は、誰にも愛されていない」
「っ、違う! 私は愛されている! アーレイにも...アリスにも...み、んなにも」
「ほら、自信がないんじゃないか。そのアーレイって、男だろう? ただ君を誑かしているだけだよ」
「そんな事ないもん! アーレイは私に...『愛してる』って言ってくれた」
「そういうの言う男が、一番信用できないんだ」
溢れだしそうな熱い液体を堪えて、私は心の中でもう一度考える。
確かに日本人は、アメリカやヨーロッパの人と違ってシャイだから、「愛してる」なんて滅多に言わない人が多い。でも、それは日本だからの話であって、サイトリールの人はそんな事ないのかもしれない。寧ろアーレイは、人前でも構わずキスしてくるような輩だから、「愛してる」くらい普通に言うだろう。
そんな彼が信用できない? それは人によって違うだろうし、私はアーレイを信用しているし、愛している。これはまぎれもない事実だ。
「訳も分からずこんな場所に連れてこられて、抱きつかれて、自分は悪魔だと名乗って...貴方の方がよっぽど信用できない」
「私はこの世界の神だ。何が信用できないと言うんだ。君は己に勝った! だからこそ相応しいんだ! 私の花嫁に!」
「バカ言うな! 変態!!」
さっきも言っていた。「花嫁に相応しい」と。やっぱりこいつは男のようだ。もう神とか悪魔とか無礼とか関係ない。今は逃げるかサイトリールに戻るのが先手だ。しかし、起き上がる以上の事はできないし、今は魔法を使うほどの体力も残っていないから、それらは難しい。
彼はショートな黒髪を揺らし、私に掴みかかった。甘い香りが優しく鼻を突く。彼の目は血走り、怒りに満ちていた。怯む事さえ忘れて、私は彼の冷たい突き刺さる言葉を耳に受ける。
「誰が信用できないだって...? 私は神だ。お前なんかすぐに殺せる。そう...もう起き上がるだけで精一杯なお前の体なんて、今すぐにでもバラバラにできる...今まで捜し求めてきた”器”が、今この場所にあるっていうのに...逃がしてなるものか!」
「何を言っているのかさっぱり! 離して! 私をサイトリールに返して!!」
「折角、この俺が花嫁にしてやろうと優しく腕を広げているのに、お前は嫌だと首を横に振る...そうか...そんなにも嫌ならば良いだろう」
彼はそう言うと、私の細い首元に鋭い歯を突き立てた。真っ白な短刃が肉を抉り、全身に震えと激痛を与えた。
「純白を穢し、紅蓮の華を咲かせてみせよう」
血の吸われる感覚に耐えられず、私の意識は空の果てへと飛んだ。逸そ、このまま星になってしまった方が楽だろう。
狂気に満ちた彼の目は、肉だけでなく私の心さえも深く抉っていた。




