そうして王子は夢を見る 2
今気づく 前でお話 五十話と
祝・五十話!で何か絵でも描こうかなと思ったけど、忘れてた...
リンを先に行かせ、王子は彼女の後ろ姿をジッと見つめていた。対してリンの方は、後ろから感じる視線に寒気を感じていたが、表情を変えずに真顔で歩いて、みんなの待っている「召喚の間」まで向かった。
彼女が「召喚の間」のドアノブに手をかけようとした瞬間、近くにいた衛兵が止めた。
「あ、お待ちください。実は...召喚師のスカイ様が、扉に結界を張っておりまして...出る分には良いのですが、入ろうとすると弾かれるのです」
「そう、なんですか...」
「勇者様方のお迎えですね。少々お待ちください」
衛兵は微笑むと、扉をノックして中に何かを呼びかけた。リンは心配そうな顔をしながら、扉を見つめていた。王子はチラチラと彼女の顔を見ていたが、リンは特に気にかける様子もなく、ただ単にクラスのみんなは落ち着いたかという、不安を募らせているだけだった。
だが、その気持ちを抑えるかのように、リンは王子に話しかけて来た。
「あ、えっと...殿下?」
「何だ」
「あ...その...」
王子の睨みで怯んだリンは、悲し気な顔をして俯いた。すると、王子の中の何かがうずいた。何か、無性に弄りたい、押し倒したいーーそんな感覚が。
まだ、「召喚の間」からは誰も出て来る気配はない。
「あの...お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「...庶民に教える名などない」
「そう、ですよね...すみません...」
「...」
極めて鬼畜冷血な人間を装ってリンを悲しませたが、衛兵の目には、リンの悲し気な顔を見てニヤけている王子の姿が、シッカリとうつっていた。
無言の無限地獄を、クラスメイトが打ち破ってくれた。
扉が全開になり、徳永くんを先頭にして、生徒達がゾロゾロと綺麗に並んで出て来た。
「あ...徳永くん」
「あぁ、蛇名さん。一応、並ばせておいた。ごちゃごちゃに出ても迷惑だろうからな。...その人は?」
彼は、涼し気な顔で王子を見た。
「こ、この方は...えと...この国ーー『ラリィ国』の第一王子。みんなを、案内してくれるんだって」
「そう、か...殿下、どうぞよろしくお願いします」
「...」
王子は無言で徳永くんを睨んだ。そして、王子はすれ違い様にささやいた。
「お前は俺がくるまで此処で待っていろ」
「あ、はい...」
彼等は先にさっさと行ってしまった。私は、一人でチョコンと取り残された。目の前には衛兵が二人いるが、先ほどとは違い、真剣そうな顔をして召喚の間へと続く扉を守っていた。
でも、中々戻って来ないので、リンは仕事の邪魔だと分かってはいながらも彼等に話しかけた。
「あの...大丈夫でしたか? みんな」
「えぇ。皆さん、えっと...トクナガ様が落ち着けてくださっていたようで」
「徳永くんが...」
「リン様...殿下の事ですが...お気をつけくださいね」
衛兵は苦笑しながら言った。
「え? 何故ですか?」
「殿下は...」
「おい、何を話している」
「「「ヒッ...」」」
何時の間にか、リンの真横には、腕を組んだ王子が立っていた。途端に三人とも息を飲む。不機嫌そうな顔はしているが、怒っているようには見えない...はず。
「来い。お前は...別室だ」
「え...?」
リンは、疑問を抱きながらも王子について行った。他の人は確か、共同部屋のはずなのだが、リンだけ独り部屋というのは、少し不自然だった。
王子の背中を見ながら、リンは考える。「衛兵さんは何を言おうとしたのか」を。結局リンは、それを身を持って知る事になったのだが、そこは置いておいて...
「えっと...此処ですか?」
「あぁ。感謝しろ。図書館は隣だ。俺は...この奥の部屋に居るから、何かあったら来い」
「はい...ありがとうございます」
リンはお辞儀をしてお礼を言ったが、王子はそれを鼻で笑った。
「勇者どもは、そこまでしなかったがな」
「あはは...」
王子の姿が見えなくなると、リンは部屋の中に入った。
特に解説も必要ない。
リンは一通り休憩すると、隣の図書館に向かった。驚く事に、全て日本語で書かれていた。後で聞いてみようと思うリンだった。
**
三日後の夜、リンは、宰相のラギンスから、王子に書類を届けるよう頼まれた。ラギンスは何か、城に迷い込んだ自分のペットを探しに行くようだ。
まぁ、特に何も言わずに書類を受け取って、王子の部屋に向かった。
「殿下...居ますか〜?」
ノックをすると、リンを呼びかけた。でも、返事は来ない。ラギンスによると、王子は絶対に部屋に居る、絶対に寝ていないとの事だ。
もしかしたら何かあったのかもしれないーーリンはそう思い、ソッと部屋のドアを開けた。
すると、中では王子が床に突っ伏して倒れていた。
「で、殿下?! 嘘!」
リンはすぐに王子に駆け寄ると、彼に向かって呼びかけた。
「殿下! 殿下! 大丈夫ですか?!」
返事はない。
リンはすぐに、外に居る衛兵に助けを求めようとドアにがむしゃらに飛びついたが、何故か開かなかった。何度ドアノブを回そうしても、開く事はなかった。
焦りで魔法という存在は忘れていたリンは、ドアは諦めて王子がどういう状況なのかを確かめる事にした。
「脈はある...息もしてる...熱はない...ん?」
よく見ると、王子の目を下には真っ黒で深いクマが出来ていて、手には血豆、おまけに意識はまるでなかった。
ツクエには、大量の書類と血が染み込んだ筆ペンがある。床には、リンが驚きのあまりで放り投げた書類が散らばっていた。
「もしかして...ずっと仕事をしてたの...?」
「う...」
王子の意識は、徐々に戻って来ていた。リンは魔法という便利で簡単なものを思い出し、王子に「回復」を駆け始めた。
すると、王子の状態異常は次々に回復していき、王子自身の意識も取り戻した。
「お、俺は...」
「殿下...良かったです」
王子は、リンの膝の腕に頭を乗せて倒れていた。真上にある大きな膨らみが、リンの顔を見る邪魔をしていた。彼は若干顔を赤くしながら言う。
「い、一体何があった...」
「王子、倒れてました。クマがありました、血豆もありました。どれだけ仕事してたんですか!」
リンは、王子の頬をグイッと抓った。だがそれはあまり痛くなく、何処か優しさが感じられた。王子の頭には、「仕事」という二文字のワードが思い浮かんだ。
そうだ、彼はリンが召喚されてからも二日二晩寝ずにずっと仕事をしていたのだ。だがそれは、今回に限った事ではない。今までも、そんな生活をずっと続けていた。ただ、倒れるのは今回が初めてだった。
普段から、勉強仕事勉強仕事の積み重ね。寝る時間などほとんどない。ストレスと疲労が心を蝕み、何時の間にか王子を変えていた。
前は温厚で笑顔の見られる人だったのに、今は誰に対しても冷淡になり、常に睨むような表情となっていた。
「寝なきゃ! ダメですからね!!」
「...分かっている。お前に言われるまでもない。だが、俺は次期国王だ。勉強も仕事も...しなければならない。お前...さっさと出て行け」
「っ...」
王子は起き上がろうとするが、リンが制した。王子の顔には、何か温かい液体が流れて来た。そうーーリンの涙だった。
「お、王子だからって...無理する事ないです! 休憩だって...睡眠だって人間には必要なんです! 魔法は、一種の薬。すぐに効かなくなるんです...だから、無理しないで...」
「...」
「血がにじむくらい頑張って...本当に殿下は優しい方なのですね。国のためを思って...毎晩夜も寝ずに仕事を...。
も、もし! もし何か大変なら! 私...手伝いますから! あ、貴方がキツくなったら私が仕事を変わりますし、もし病気になったりしたら...私が治るまで看病しますから!」
「っ...お前...本気か?」
「はい!」
「...」
リンの言葉に、汚れはなかった。何一つ嘘などない、純粋な気持ちだった。王子は、何だか嬉しかった。今まで生きて来た中で、此処まで心に響いて来る言葉を聞いたのは初めてだった。
王子は、何だか心と顔が熱くなるのを感じた。
「あ! 熱も上がって来てる?! 『回復』 あ、あれ?」
この熱が、魔法なんかで治る事はない。だってこれはーー恋という名の病なのだから。
え、何でドアが開かなかったかって?
そりゃあ、ラギンスが魔法で封じていたからに決まってるじゃないか!
PS
別サイトでの投稿が忙しくて大変。




