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そうして王子は夢を見る 3

 





「も、もう良い!」



 顔を赤くしながら、無理矢理膝の上から起き上がろうとする王子。不思議な顔をして、リンは首を傾ける。王子はどうして彼女を顔を見る事が出来なくて、何処か明後日の方向を向きながら言った。



「な、何しに此処に来た...」

「ラギンスさんに、書類を届けるよう言われて...あ、でも! 今日はもうやっちゃダメですからね!」

「分かった...」



 リンは立ち上がって、床に散らばった書類を集めると、彼のツクエの上に置いた。文字の書かれた書類が、山のように積まれている。

 彼女はため息をつくと、王子の所に戻って彼の額に片手を優しく当てた。やはり熱い。というか、さっきよりも上昇しているような気がする。

 知らないとは何と幸せな事か。



「大丈夫ですか...? ベッドで休まれた方が...」

「そう、だな...」

「立てますか?」

「馬鹿にするな...うわっ」



 王子が立ち上がった途端、バランスを崩してリンの方に倒れ込んだ。途端にリンは受け止めたが、流石に重かった。

 でも、何とか体勢を取り戻して、リンは王子の肩に手を回して、ベッドの方が誘った。自分よりも重量のある人間に体重をかけられるのはキツかったが、「王子の身の健康のためなら良いや...」とリンは考えていた。

 これだけを見ると、リンが王子を事を好きなようだが、実際は「あぁ、本当は優しいのに我慢してるんだね。本当は休みたいのに頑張ってるんだね」と、純粋過ぎる親切心と心配という二文字の感情によるものだった。これに恋は皆無だ。



「あんまり無理しないでくださいね...」



 優しくベッドまで運ぶと、リンは王子をベッドに寝かせた。さてそろそろお暇しようかなと踵を返すと、王子がリンの手首を掴んだ。



「待て...お前、しばらく此処にいろ。もし病気になったら、お前が治るまで看病するんだろ?」

「あ、そうでしたね...ですが、よろしいのですか?」

「構わん」



 王子はまだ、リンの目をまともに見る事が出来なかった。



「では、お水とーー」

「此処から離れるな。ベッドに座れ。俺の話し相手に...なるだけで良いから」

「はい、じゃあ...失礼しますね」



 リンは微笑むと、王子の寝ている丁度彼の腰近くに座った。そこからは、王子の顔がよく見えた。彼は顔を真っ赤にして、リンの顔を見てたじろいでいた。

 どうしたんですか?と問うと、王子は視線を反らしてつぶやいた。



「シューベルト・サタル・ラリィ...」

「え?」

「シューベルト・サタル・ラリィ。俺の名前だ。知りたがっていただろ、好きに呼べ」

「では、シューベルト王子と...呼ばせていただきますね」



 彼女が優しく微笑むと、王子は深呼吸をした。すると、王子は近くにあったリンの手を握った。



「っ...どうかしましたか?」

「リン・へビナだったな。俺も、お前の事を好きに呼んでも...良いな。リンって、呼び捨てで呼ぶ事にする」

「えぇ、どうぞ好きにお呼びください」

「っ! べ、別に、ずっと”お前”って呼ぶわけにもいかないからであって...う、気にするな!!」

「は、はい...」



 急に王子が怒鳴って来たので、リンは驚いてビクッと震えてしまった。お化けとかドッキリとか吃驚とか...そういうのが苦手(あんまり好きじゃない)なリンは、ちょっと涙目になってしまった。



「リン、俺は...」



 王子は起き上がると、リンの目を真っ直ぐ見た。そして彼女の顔をグイッと掴むと、自分の顔に近づけた。



「お前が好きだ...」



 リンの思考が回る暇もなく、二人の唇は交わった。濃厚な口づけを、王子はリンに熱くかました。唇が離れると、リンはつぶやく。



「私も、王子の事が...好きです」








 **








「という、夢を見た」

「それ、最後はただの願望ですよね? キスシーンとか皆無でしたよね?」

「うるさい」



 現実に戻る。

 急に消えた王子の行方をラギンスは探した。一生懸命走った結果、部屋でリンのローブを抱きかかえながら目を泣きはらしていた始末。

 ため息をついてやれやれと言う他なかった。



「それで...リンは? 結局見つからず仕舞だろ? あいつの事だから...」

「えぇ。誰も見た人間はいません。勿論、クロノ・ディノアも」

「...チッ。それなら、一足早く、勇者と旅に出るしかないな」



 ラギンスは王子の舌打ちを聞いて微笑む。



「頑張ってくださいね。ただ...リン様が嫌がった場合、潔く諦める事は出来ますか?」

「諦める...? そんなわけないだろう」

「例えば...リン様に恋人や婚約者などがいたり...」

「その相手を殺してリンを監禁するから大丈夫だ」

「...殿下が日に日に怖くなって来る...」



 ラギンスはさっきとは打って変わってため息をついた。目の前にいる、ヤンデレ独占欲の塊王子に、呆れてものが言えなかった。



「まぁ、うん、ファイト」


まさ! かの! 夢オチ!

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