そうして王子は夢を見る 1
本編進まなくて申し訳ない。
でも、回想とかの方が書きやすいんだ。
リンがXと戦っていた頃、「ラリィ国」の第一王子であるシューベルト王子は、例のリンを閉じ込めていた部屋型地下牢に向かっていた。
何時間も部屋を開けていたのは、緊急で勇者に呼び出され、その後母親にも呼び出しをくらっていたからだ。勇者の話はすぐに終わったが、母親からは「リンとはどうなっているか」と聞かれ、母親の恋愛話を夜通し延々と聞かされていたため動けなかった。
だがその話をしている途中...彼女は亡くなってしまった。
母親は何時も明るくて優しい人だが、いざ話をすると昼でも夜でも彼女のネタが尽きるまで終わらない。正直、少し憂鬱だった。しかし、死んでしまった。何故キチンと聞いていなかったのだろう、という後悔が王子を襲っていた。
なので王子は、早く戻ってリンに癒されようと急いで戻った。あの可愛い顔を歪ませたい、泣かせたいーー
「で、殿下...随分と遅かったですね...」
「ん? ディノアは何処だ」
ドアを守らせていたはずの、クロノ・ディノアの姿が見えなかった。変わりに、別の衛兵が立っていた。
「クロノさんは...さ、先ほど、用をたしに行きました」
「...そうか。じゃあ、そこを退け」
王子が衛兵を無理矢理ドアの前から退け、ドアを強引に開けた。ベッドの上に、リンの姿はなかった。王子はドアを閉じてため息をつくと、大声を出した。
「おいリン! 隠れているのか?」
衛兵には、どんな声や音が聞こえても、気にせず職務に努めるという任務があるので、好きなだけリンに呼びかける事が出来た。
しかし、目の前にリンがいない事でキュッと心臓を強く握られたような気持ちになった。
「おい! 俺を煽ってるのか?」
王子は、次々を色々な所を捲った。ベッドの下、カーテンの裏、シーツの下ーー隠れられそうな場所は全て探した。王子には焦りの色が出ていた。
「り、リン...おい、早く出て来い。ふ、服でも何でもやるから...おい、おい!」
彼の顔は、怒りで歪んでいた。折角この手に収めたのに、指の隙間からスルリと彼女は逃げてしまったのだ。王子はドアを思い切り開けると、衛兵を怒鳴った。
「おい!! リンは何処だ! 何処に行った!!」
「り、リン様ですか?! わ、我々は存じーー」
「クロノ! あいつか!!」
王子はすぐに地下から地上へと駆け上がると、地下室へと続く扉を守っていた兵士を怒鳴った。
「おい! すぐにリンを指名手配しろ!! あと、ディノアは何処だ!」
「く、クロノさんは、見ていませんが...」
「何だと?! 外に出るには、必ず此処を通らなければならないだろう! さては...お前等共犯か?!」
彼が好き勝手に怒鳴りつけていると、何処から来たのか、すぐに王子の親友であり宰相のラギンスが飛んで来た。そして、兵士の首根っこを掴んでいた王子を引き離し、落ち着けようとした。
「で、殿下。どうなされたのですか...?」
「ラギンス、リンが逃げた。まただ...」
「...もぅ、リン様にはあまり逃げないでほしいですね。迷惑かかるのはこっちなんですから...」
「それはどうでも良い! すぐにディノアとリンを指名手配だ!!」
冷静に言うラギンスに反比例して、王子は怒りと絶望で溢れていた。やっと捕まえた最愛の人がーーまたしても逃げてしまった。その気分は、本当に最悪なものだった。
「殿下...(リン様は、殿下が嫌だから逃げ出しているというのに...本当にわがままですね...)分かりました。すぐに指名手配をしましょう。
ディノアと言うと、あの衛兵ですかね? クロノ・ディノア。彼は良い人ですね〜、王子も信用なさっているとかなり有名でs...」
「そんな事より、さっさとやれ!」
「はいはい...全く、殿下らしいですね」
「...クッ!」
**
王子はラギンスのため息を聞く間もなく、自分の部屋に光の如く駆け込んだ。そして、ベッドの下から鎖の巻き付いた鍵のかかった箱を取り出した。
王子が触れるや否や、鎖と鍵は外れ落ちた。
「リン...」
箱の中には、リンの色々なものが入っていた。所謂、「ストーカーBOX」というものだろうか。リンの服から下着から書き物やらーー王子はその中から、丁寧にたたまれた黒いローブを取り出し、それに顔を埋めた。途端に涙が溢れ出す。
「何で...なんで逃げるんだよ...なんで...」
リンの甘い香り、脳裏には彼女のあの時の温かさが蘇った。
そう、彼女がクラスごと召喚されて、リンが代表として、王であるサラザル・アーテル・ラリィにお目通りをした時の事だ。王子がリンと初めて会ったのは。
王の前で跪き、自己紹介をするリンを、王子は冷たい目で見つめていた。どうせ、ただの庶民。大した奴でもないし、俺にこの世界の存続とか勇者とか関係ない...と思っていた王子。だが、
「顔を上げてくれまいか、勇者殿」
「はい」
リンは、跪きながら顔を上げた。真っ直ぐと王を見つめる。その瞬間、王子は驚いた。
今まで、彼は大勢の女性に好意を寄せられ、そして大勢の美女とも出会った。だが、リンは何処かが違った。幼い顔立ちながらも、何故か今まで見て来た人間の中でも、飛び抜けて美しく可憐であり、惹き付けられるものがあった。
もしかしたら、彼女は女神かもしれないという思いが頭を過った。すると、王は王子の代わりに質問をした。
「うーん、リン殿は...もしや女神ですかな?」
「え...? 私はただの人間ですよ、陛下」
「そうかそうか...シューベルト、なぁ?」
王は、隣にいる王子をニヤニヤしながら見つめる。リンも王子を見たが、不思議そうな顔をしていた。
「何ですか、父上」
「いやいや...結婚、どう?(ボソッ)」
「っ! お、俺は...!!」
「ま、良いけどまぁ〜う〜ん♪」
彼はこうやって、何時も王子を弄っていた。今回は、不機嫌そうだった王子の目がリンに釘付けになっているのを見て、ちょっと思い付いた事を口走っただけだったが、かなりの効果があったようだった。
「じゃ、ぼくはちょっと城下町遊びに行って来るから。勇者達の案内お願い♪」
「はぁ? 俺がそんな事するとでも?」
「...なら、もうシューベルトにお土産買って来てやんないもん」
「...勝手にしてください。母上に言いますからね。でも...案内は、し、します...」
「フフン♪」
王は楽しそうに笑う。王子は不機嫌そうな顔をしたが、すぐにスタスタとリンの側にやってきて、彼女をキッと睨んだ。
「他の勇者は何処だ。案内してやる」
「あ、いえ...」
リンは急いで立ち上がったが、王子は無理矢理彼女の頭を抑え、力強く下へ押した。なので、リンはその場でバランスを崩して倒れてしまった。
「いっ...」
「何だ、その文句ありげな顔は。さっさとしろ」
「は、い...」
彼女は嫌なそぶり一つも見せず、立ち上がって王座の間を後にした。王はつぶやく。
「全く...ぼくの息子は素直じゃないなぁ」




