~最終章&エピローグ~
『シェルタイト。どんな事があっても貴方は必ず帰って来るのですよ、私の許へ……』
シェルがムーカイトへ旅立つ日。
ノンマルタスの女王はそう言ってシェルを抱きしめた。
「母上、申し訳ございません。貴女との約束、違えてしまいました」
シェルは最期の力を振り絞ってセレスの亡骸の下まで這って行った。
(セレス、一緒に還ろう! 俺たちの郷へ……!!)
気がつくと、私はアクアオーラ領の浜辺に居た。
三ヶ月前、初めてムーカイト島を見た……あの浜辺だった。
島がゆっくりと沈んで行く光景は、その浜辺からもはっきりと見る事が出来た。
島が沈む余波は高波となって浜辺に押し寄せたが、私はその場から動く事は出来なかった。
クンツァイトもアンバーも……
そして、クンツァイトの兵たちも……
全てが沈んで行く──
「セレスっ! ……シェルーーーーーーっ!!」
私の想いを置き去りにして、島はゆっくりとその姿を海へと消して行く。
それは──私の目の錯覚だったのか?
一瞬、島は大きな亀の姿に見えた。
その時、私は遥か東方を旅した時に伝え聞いた、ある御伽草子を思い出していた。
亀を助けた若者が、その亀の背に乗って、海底の都へ招かれる物語。
あれは何と言ったのか?
そうだ!
彼らは乙姫(ノンマルタスの女王)の遣わした亀の背に乗って、竜宮(ノンマルタスの都)へ還って行ったのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一ヶ月後──
クンツァイトの所業は全て明るみに出た。
カルセドニー暗殺も。アクアオーラ一族に無実の罪を着せて滅ぼそうとしていた事も。
クンツァイト一族は失脚しフローライト王の計らいで、アクアオーラ領は再びコーラル伯が領主に着任した。
シェルが救った女、子供を中心とした島の半数の人々。
コーラル伯ならば彼らを手厚く遇してくれるだろう。
彼らはこのアクアオーラ領の中で、王家の一族としてではなく……
海人の血を継ぐ一族としてでもなく……
生きていく。
これが予言が示した“一族の再生”なのかもしれないと私は思った。
私は家(オルソセラス侯爵家)には戻らなかった。
父や兄や一族の者たちには申し訳ないと思ったが、私にはどうしても守らなければならない“約束”があった。
『……待っているから! ノンマルタスは……俺たちは、滅び逝く最期の瞬間まで待っているから!!』
シェルの最期の言葉を、私は地上の人々に伝えなければならない。
私は語り部となり諸国を巡った。
私はその後の人生をシェルとの約束を守る為だけに生きたのだ。
あれから60年──――
死期の迫った今……私は彼らが沈んだ、この懐かしい海に帰って来た。
彼らを竜宮へと誘ったあの亀が、何時か私を迎えに来てくれる事を夢見て。
『ほら、ごらん! 海鳥が沢山集っている処があるだろう。あそこには昔、島があったんだよ。海人の血を継ぐ誇り高き一族が住んでいた』
海は……人々の愛も憎しみも、喜びも哀しみも全てを包み込んで、今日も碧く輝いていた──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~エピローグ~
島があった。
何処の国の、どんな地図にも載っていない小さな島があった。
その島は厳然として其処に存在するのに……
誰の目にも見えず、訪れることも出来ない島。
その島は、その島に住む碧い髪の少年と島の意を得た者だけが
訪れる事を許される島。
その島で少年は妖精と共に暮らしていた。
───それは、もっと後の物語になる。
このエピローグは番外編~幻の島~の紹介になります。
或る日、一人の少女が亡くなった祖母の日記を見つけます。
その日記の中に祖母が若い頃に海難事故に遭い、一人の少年に助けられて小さな島で過ごした一週間ほどの出来事が書いてありました。
その少年は緑がかった碧い髪と瞳を持った八歳くらいの少年で、妖精が見え、動物と語っていた。
夢のような一週間を過ごし、祖母は無事に家に帰り着いたけれど、二度とその島と少年を見つける事は出来なかった。
これは現実の出来事だったのか?
それとも祖母の創作か? 的なそんな物語です。
ファンタジー風の短編漫画なんですが、その少年がノンマルタス最後の生き残り……という裏設定の物語でした。




