~第十八章~
「オニキスさん、前にあんたに言ったよな。ノンマルタスの血はノンマルタス同士じゃないと継がれないって。それがどういう事だか分かるか?」
「えっ? いや……」
「一族同士でなければ継がれない血。陸の人間と交われば凌駕され失われる血。それが意味するものは“滅亡”だ!」
「……っ!!?」
「濃すぎる血は生殖能力の低下となり、奇形や死産が激増する。その際たるものがムーカイト王家だ。ノンマルタスは女王の国。もう長い間、王家に男子は産まれていない。そして現女王には遂に子が出来なかった」
「…………」
「俺は物心ついた時から自分は滅び逝く一族の王になるのだという事を知っていた。でもそれは王家に産まれた者の宿命だと、もう未来のない一族であっても全身全霊で護ろうと、それが誇りだと思っていた。そう、あの日までは……」
「俺は五歳の時に実の両親に、一族に捨てられたんだと聞かされた。それは確かにショックだったけれど、俺はそんな事より、母の実の子ではない事の方が哀しかった。海に流された俺を救ってくれたのは、俺が碧い髪を持っていたから。王家には俺が必要だったから。俺は滅び逝く一族を背負わされた“王という名の人身御供”にすぎないのだと知った。俺は自分の運命を呪った! この世の全てを憎んだ!!」
人身御供――王という名の生贄。
シェル、君は自分をそんな風に? それでは辛すぎるだろう。
私はシェルに何と言えばいいのかさえ分からなかった。
ただ彼があまりにも痛ましかった。
「そんな顔をしないでくれ。そんなつもりで話してるんじゃない。俺は自分を哀れんでなどいない。そんな俺にも、たった一つだけ希望があった。俺はセレスに、アクアオーラの一族に俺の夢を託したんだ」
シェルは自分を捨てた一族をずっと見てきた。
実の父や母がどんな人間なのかも分かっていた。
どんな気持ちで自分を捨てたのか。
シェルなりに理解していたのだろう。
愛と憎しみの狭間で揺れながら……
でも、それよりももっと深い想いでシェルは一族を見守ってきた。
ノンマルタスには持てない未来への希望を!
ノンマルタスの血を失ったが故に存続していける自分のもう一つの一族を!
「俺は彼らが幸せなら! セレスが笑っていてくれさえすれば、それで良かった。譬え、生涯名乗り出る事は出来なくても! 彼らが俺の存在に気づかなくても! セレスたちが幸福でさえあればそれで良かったんだ! なのに……」
カルセドニーの死。
それが、シェルのたった一つの希望さえ打ち砕いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ムーカイトを沈める? 本気なんですか、母上!?」
「シェルタイト……」
「そんな事になれば……彼らは、アクアオーラ一族はどうなるんです!?」
「彼らは既にノンマルタスではない。この都に招き入れる事は出来ない。何処か別の土地で生きていくしかないでしょう」
「彼らに“故郷を捨てろ”と仰るんですか!? アクアオーラの領主がクンツァイトである限り、奴が彼らを受け入れる筈がない! アクアオーラから遠く離れた地で生きろ、と!?」
「住み慣れた土地を捨てる……。彼らには酷な事かもしれませんが、仕方がありません。これは世界を護る為なのです」
「母上?」
「シェルタイト、貴方も分かっている筈です。ムーカイトは女王ルピアが、我らノンマルタス一族が、地上の人々の良心を信じた証。しかし約束が果たされる事はないのだと。……もしも、ムーカイトがクンツァイトのような人間の手に渡れば世界は滅びます。今はもうルピア女王の時代ではない。地上の人々の技術も進歩している。ムーカイトのような兵器を創り出せるようになるのは遥か未来かもしれませんが、首飾りの代わりになるものなら創れるようになるのはそう遠い事ではない。そうなってからでは全てが遅いのです」
「しかし、母上っ!」
「シェルタイト。何も今直ぐ沈めると言っている訳ではありません。地上の人々を見極め、ムーカイトを沈めるべきか否か? それを決断する者をこれから選出します」
これは本来なら俺に下されるべき命の筈だった。次代の王たる俺の!
でも、俺はその候補から外されていた。
それが母の優しさなのだと分かってはいたが……。
誰にその任が下ろうと、セレスたちを不幸にする者を俺はきっと許さないだろう。
それならば……
「母上! その役目、私に一任下さい!」
「シェルタイト! しかし、それは……」
他の誰かにセレスたちの命運を任せる事などしたくない。
きっと俺は、セレスたちから憎まれる!
そしてセレスたちを不幸にした張本人として自分自身をも憎むだろう。
でも、それでいい。
誰かを憎むよりはマシだ――っ!!
誰に対しても上から目線~のシェルですが……
一応、ノンマルタスの女王(養母)にだけは言葉遣いも丁寧なんですよ。
でも、これは“実の母ではない”って分かった時からシェル自身が一線を引いちゃったので殊更丁寧になっちゃったんですけどね。
“母”と言うより、女王陛下にお仕えする臣下的な立場に自分を置いちゃったと言うか。
育ててもらった恩を返さなきゃ……みたいな。
勿論、女王が自分を本当の息子として愛してくれてるって事は分かってはいるんですが、ほんと不器用な子なんですよね、この子は。
挿絵は、プランクトンの亡骸が降り注ぐ光景に滅び逝く自らの一族の行く末を重ねて、何時も“海底”を見上げていたシェルの心情を書いておきたくて描きました。




