~第十六章~
道に血は点々と続いていた。
シェルとセレスの体格はほぼ同じ。
セレスを抱いて歩くシェルの身体から流れ出る血は確実に彼の命を縮めていた。
だが、私はその事実を知らなかった。
「何処までついて来る気だ? これ以上ついて来れば、命の保障は出来ない! 引き返せ! 島から離れるんだ!」
シェルは振り向きもせずに言った。
(そんな事、出来る訳がないだろう!)
シェルの言っている意味は私なりに分かっていた。
(本当はそれだけではなかったのだが……)
神殿のシールドは|首飾りを持った者(ノンマルタスの王)しか受け入れない。
私が無理に神殿に入ろうとすればシールドに弾き飛ばされて命を失う危険があるという事だ。
シェルは側近さえ一緒については来させなかった。
私が神殿に入る事を許す筈がない。
だから私はその一瞬に全てを賭けていた。
シェルが神殿のシールドを通過する瞬間!
シェルとセレスの首飾りから発したシールドでシールド同士が干渉し合い、シールドを中和させる。
……そんな事は私には分からなかったが、シェルの傍に居れば!
身体の一部に触れてさえいればシールドを通過出来ると楽観的に思っていた。
シェルは私の意図していた事を瞬間的に理解した。
「この馬鹿! 死ぬ気かっ!?」
シェルは抱いていたセレスを左手で、私を右手で抱きかかえて神殿の中に転がり込んだ。
「くっ……!」
その衝撃でシェルの傷からまた大量の血が噴き出した。
「何て事するんだ! 身体の一部に触れているだけで通過出来るほど甘いシールドじゃない!!」
「すまなかった。こうでもしないと此処には入れないと思って……」
シェルは言葉とは裏腹に何かあれば全身で護ってくれる。
私はそれが嬉しかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シェルは神殿の一番奥の部屋に入るとセレスの亡骸をそっと下した。
そしてセレスの両手を胸の上で組ませると、暫くセレスの顔を見つめていた。
哀しい。でも今までに私が一度も見た事のない優しい目をしていた。
その時に感じた胸の痛みが何なのか?
私がそれに気づいたのはもっと後になってからだったが……。
「セレス……」
セレスは安らかな顔をしていた。
一族を目の前で失った彼は『シェルだけは護りたい!』と言った。
その想いが多分、彼の中のノンマルタスの血を目覚めさせたんだろう。
そうでなければ間に合わなかった筈だ。
その部屋がセレスから聞いていた祭壇のある部屋だった。
シェルはセレスの首飾りから石を抜き取り、それを双頭の龍の壁画の向かって左側の額に嵌め込んだ。
そして、今度は自分の首飾りの石を反対側の額に嵌め込んだ。
その途端! 祭壇は静かに床に沈み、それと入れ替わりに見た事もない装置が現れた。
シェルはその装置に何かを打ち込んでいた。
「これは一体、何なんだ?」
「セレスから聞いてなかったのか?」
「これが島じゃなくて、ノンマルタスが受け継いだ最大の遺産だとは聞いたが……」
「そうだ。これはその気になれば世界を滅ぼす事も可能な兵器。地殻を自在に操り、ピンポイントで小さな町を。そして大陸をも一瞬で壊滅させる事が出来る“地殻変動兵器ムーカイト”だ!!」
「地殻変動……兵器っ!?」
「そう、“兵器”だ。“地殻変動装置”ではなく……。この名称には“戒め”が籠められている。この装置を決してその言葉通りの意味で使わないように、とな」
「…………」
私はその時、初めて理解した。
この島が王家の名を冠した、その意味するところを――!!
設定裏話ですが……
かつて存在したと言われる伝説の大陸には、この地殻変動兵器が五基ありました。
その内の三基が暴走した為に大陸は沈み、その影響で残りの一基は機能停止。
唯一残ったのが、このムーカイトだとノンマルタス一族には伝えられています。




