~第十四章~
一しきり泣き叫んだ後、セレスはまるで糸の切れた操り人形のように呆然とその場に座り込んでしまった。
私は彼に何と声をかけていいか分からず、ただ彼を抱きしめるしかなかった。
セレスは幼い頃から族長としての教育を受けてきた。
何より優先するのは一族の事。
彼にとって一族は自分の命より大切だった。
それが一瞬にして失われた。しかも自分の目の前で。
一族を護れなかった彼の想いはどれほどのものなのだろう?
だが、暫くしてセレスは「オニキスさん、シェルを……。シェルを助けに行かないと……」とうわ言のように呟いた。
(正気に戻ったのか?)
私は少しホッとした。
「セレス、シェルなら大丈夫だ。それより早く島を起動させないと! 此処にいると危ない!」
しかし、セレスには私の言葉は届いていないようだった。
「嫌な予感がするんです。助けに行かなければ、シェルが死んでしまう!」
「えっ!?」
「オニキスさん、貴方も知ってる筈です。ルピア女王の言葉を。『我々の存在が二度と陸の人々を脅かす事のないように』という……それはそのまま、ノンマルタスの中で不文律となりました。でも、ぼくは父からもっと明確な言葉で聞いてるんです! 『ノンマルタスは陸の人間には干渉しない。二度と陸の人間を傷つけない。だからノンマルタスを傷つけてはならない!』と」
「それは……」
「いくらシェルが強いと言っても多勢に無勢。それに彼は本気では戦えない。きっとそれが命取りになる! シェルはずっとぼくたちを見守っていてくれた。今だってノンマルタスの掟を破ってまで戦ってくれてる。ぼくは一族を護れなかったけれど、シェルは……。シェルだけは護りたいんです!!」
「…………」
「ぼくは、行きます!」
そう言いながらセレスは既に走り出していた。
私も直ぐさま後を追った。
(確かに、セレスの言う通りかもしれない)
しかし……
(これは一体どういう事だ?)
どんどんセレスに引き離される。
彼の足はこんなに速かったのか? 否、そんな筈はない!
『シェルだけは救いたい!』
その想いが、セレスの中のノンマルタスの血を目覚めさせようとしていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
セレスの予感は的中していた。
相手を傷つけないように力をセーブして戦う事は思いの外、体力を消耗させる。
(これではきりがない。セレス、未だかっ?)
シェルはセレスが島の防御システムを起動させれば配下を島から去らせ、自分も神殿に向かうつもりでいた。
自分の持っているもう一つの首飾りの石を反対側の龍の額に嵌め込めば、島のもう一つの機能が発動する。
島は完全に目覚める!
だが──
三発の砲弾が着弾した衝撃はシェルにも届いた。
(しまった! ……セレス、無事か!?)
それが森の方角である事を悟り、シェルはセレスの処に戻ろうとした。
まさにその時!
船から島に上陸しようとするクンツァイトとアンバーの姿が目に入った。
(奴らはカルセドニーの仇! セレスの為にも此処で息の根を止めておいた方がいい!!)
その瞬間、シェルは自分の立場を捨てた。
王自らが掟を破る!
それがどういう事なのか分かってはいたが、彼にはそうするしかなかった。
「クンツァイトーーーっ!」
そう叫んでクンツァイトとアンバーの前に立ちはだかった。
彼らの傍には数人の兵が居たが一瞬で倒した。(勿論、気絶させただけだが)
「何者だ!?」
「緑がかった碧い髪。クンツァイト様、カルセドニーの息子です」
アンバーが答えた。
(俺をセレスだと思っているのか? 好都合だ!)
「そうだ。俺はセレスタイト・アクアオーラ! 父、カルセドニーの仇! 今こそ討たせてもらう!!」
相手が二人居ようが問題ではない。勝負は一瞬でつく筈だった。
しかし──
シェルは明確な殺意を持って剣を振るったのは初めてだった。
勿論、人を手にかけた事など一度もない。
剣を振り下ろそうとした瞬間!
――ノンマルタスはもう二度と陸の人間を脅かしてはならない――
ノンマルタスの掟が頭を過ぎった。
シェルは一瞬躊躇った。それが隙になった。
ズドォォオオオオーーーーンッッッ!!
一発の銃声が響き渡った。
夥しい鮮血が舞う。
弾丸はシェルの身体を貫いた――




