~第十章~
「コーラル殿が!?」
「はい」
シェルタイトの傍に四人の男たちが居た。
四人とも青みがかった銀の髪をしている。
「分かった。引き続きクンツァイトの監視を怠るな。コーラル殿の動向も探ってくれ」
「御意!」
三人はその場を去った。
「……どうした?」
一人残った男にシェルタイトが尋ねると
「シェルタイト様、結論を何時まで引き伸ばされるおつもりですか? 貴方はアクアオーラの一族として此処に居る訳ではないのですよ。時には非情に徹しないとならない事も……」
「分かってる!」
「……分かっていらっしゃるのならいいのです。差し出がましい事を申しました。お許し下さい」
そう言うと、男の姿はその場から消えた。
──分かっている。そうさ、分かってる!
でも、出来る事ならこのまま刻が止まってほしい。
それが許されないのならば、せめてもう少しこのままで居させてくれ!
そう思う事は、いけない事なのか?──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「これはこれはコーラル殿、よくいらっしゃいました」
アクアオーラ領主クンツァイト伯は、にこやかに前領主であるコーラル伯を出迎えた。
……が、内心は穏やかではない。
「ちょっと私用で近くまで来たものですからな。アクアオーラは私の第二の故郷でもあるし、少し足を伸ばしました」
コーラルも笑顔で答えたが、その眼光は鋭かった。
前領主コーラルはセレスタイトの父であるカルセドニーと旧知の仲だった。
百年ほど前、アクアオーラの一族がムーカイト島に幽閉され――しかし、それは長い年月の間に形骸化されていったが、ムーカイトの自治がフローライトから正式に認められたのはカルセドニーが族長になってから。
コーラルの口添えの賜物だった。
それがクンツァイトには面白くない。
コーラルの後、アクアオーラの領主となったクンツァイトだが、その時には既にムーカイトは自治領となっており手出しは出来なかった。
クンツァイトにとって、ムーカイトの族長であるカルセドニーは目の上のコブだった。
最初に二人が顔を合わせたのはフローライト王が催した剣の御前試合。
クンツァイトはカルセドニーに、全く歯が立たなかった。
初めての敗北から以降、全てにおいてカルセドニーに劣る自分。
容姿でも頭脳でも、剣の腕前においても!
しかも相手は、今は既に失われているとはいえアクアオーラの王族。
身分でもカルセドニーが上だった。
――コーラルさえ余計な事をしなければ……。
ムーカイト島がアクアオーラ領の一部でさえあれば、アクアオーラ領主である自分はカルセドニーを従わす事が出来たのに――
領主として着任した時、腸が煮えくり返るほどの想いをした。
一方のコーラルは――
風の噂でカルセドニーが死んだ事を耳にした。
アクアオーラから遠く離れた地の領主となったコーラルだったが、長く領主を務めたアクアオーラと無二の友を忘れた事はなかった。
突然の悲報。しかもカルセドニーの死因は事故死。
反目していた筈の二人だが、或る日突然クンツァイトの方から和解を申し出た。
クンツァイトはカルセドニーを持て成す為に宴を開き、その帰り道での事故だった。
「……ところで、クンツァイト殿。カルセドニー殿が亡くなられたという噂を聞いたのだが……」
「ええ、惜しい方を亡くしたものです。私も残念でなりませんよ」
(ちっ! ……白々しい!!)
コーラルは内心舌打ちしたい気分だった。
反目していると言っても、カルセドニーを一方的に敵視していたのはクンツァイトの側。
和解したいと言えばカルセドニーは喜んで受け入れるだろう。
その直後の事故。
これが偶然である訳がない!
カルセドニーはクンツァイトの屋敷からの帰途、落石事故で死んだ。
その話を耳にした直後からコーラルは秘かにこの一件を探っていた。
しかし、既に事故から半年。証拠が掴めない。
今日クンツァイトの屋敷を訪れたのは、クンツァイトの反応を己の目で確認する為だった。
だが、これが悲劇の幕開けを早める事になろうとは……この時、誰一人想像する事は出来なかった。
ムーカイト島が自治領になった経緯について少し補足を。
コーラルの口添えの賜物っていうのは確かなんですが、実はカルセドニーはフローライト王のお気に入りなんですね。
御前試合で優勝した時から目をつけてました。
御前試合に出るように勧めたのはコーラルなんですけどね。
フローライト王にしてみればアクアオーラの王家一族がムーカイトに幽閉されたのは自分の祖父の代の事だし、そのまま放置に近い状態だったので『これは申し訳ない事をした!』と言う訳で、カルセドニーをアクアオーラの領主に取り立てようとしたんですが、カルセドニーには野心も欲も全くないし、今更~な感じもあって辞退したんですね。
その代わりにムーカイトの自治を認めてもらったって感じです。
この頃はアクアオーラ領主はお友達のコーラルさんだし、何の問題もなかったですからね。
もしも、コーラルの後釜にクンツァイトが来ると分かっていればアクアオーラの領主の話を受けたかもしれないですけどね。
運命の皮肉ってやつですよね。




