EP 6
愛が重すぎるゴスロリ玄武の絶対防御(下半身)
「……おかしい。異常な重力場が発生して、俺の特製マップアプリがバグりかけてるぞ」
週末の秋葉原。
サブカルチャーの中心地であるこの街も、今はダンジョンの浸食を受け、一部の区画が立ち入り禁止となっていた。
俺はノートPCを片手に、路地裏の奥へと進む。
その後ろには、普段は犬(大型のハスキー)にホログラム偽装させたガオンと、JK姿の白虎、OL姿の青龍がぞろぞろとついてきている。完全に奇妙な集団だ。
「秋葉原と言えば、裏路地にある純喫茶の『1日10食限定・特大バケツプリン』なんだが……この重力異常のせいで店に近づけない」
『人間! 貴様はまたスイーツ目的で我らを動かしたのか!』
ガオンが呆れたように吠えるが、白虎と青龍はそれぞれクレープと高級チョコを齧りながら「まぁいいんじゃない?」「残業代が出るなら」と完全に手懐けられている。
「いや、今回はスイーツ目的が半分、聖獣探しが半分だ。……見ろ、この路地裏の惨状を」
俺が指差した先。
そこは、異様な光景が広がっていた。
アスファルトがすり鉢状に陥没し、周囲の自動販売機や街灯が、見えない巨大な力でペチャンコに圧縮されている。
そして、そのすり鉢の中心。
フリルがふんだんにあしらわれた、漆黒のゴシックロリータドレスに身を包んだ小柄な少女が、ぽつんと立っていた。
彼女の足元には、完全にスクラップになり、文字通り『紙切れのような薄さ』に圧縮された魔将機の残骸が散らばっている。
『……玄武。あやつ、また面倒な真似を』
ガオンの言葉に、ゴスロリ少女――玄武がゆっくりと振り返った。
その目は虚ろで、どこかダークな雰囲気を漂わせている。
「あぁ……遅い、遅いですわ、ガオン。私がどれだけ、この退屈な世界で『運命の殿方』を待ちわびていたか……。周りに寄ってくるのは、野蛮な鉄クズ(魔将機)か、薄汚いナンパ男ばかり。すべてペチャンコにしてさしあげましたわ」
「……物理的に重すぎるヤンデレだな」
俺が思わずツッコミを入れた瞬間。
玄武の虚ろな瞳が、俺の姿を正確に捉えた。
「――っ!」
玄武の瞳に、カッとハート型のハイライトが灯る。
「あぁ……! 見つけました。私の脳内演算を狂わせる、その理知的な瞳。甘い匂いを漂わせるスマートな出で立ち。あなた様が、私の運命の人ですね……!」
「え? いや、俺はただのAIエンジニアで――」
「玄武のすべて、あなた様に捧げますわ。ずっと、ずぅっと、一緒ですわよ……?」
ドス黒いオーラ(おそらく高密度のマナ)を放ちながら、玄武がじりじりと距離を詰めてくる。愛が重い。文字通り、彼女が歩くたびに地面がミシミシと沈み込んでいる。
だが、その感動的(?)な出会いを邪魔する者がいた。
『ギギギ……ギャァアアッ!』
ビルの壁面を這うようにして、ムカデ型の多脚魔将機の群れが突如として現れたのだ。
その数、ざっと数十匹。素早い動きでこちらを取り囲み、一斉に飛びかかってくる。
『チッ! 囲まれたか! 数が多いぞ、人間!』
「青龍のレーザーじゃ巻き込み事故が起きるわよ!」
ガオンと白虎が迎撃態勢をとるが、敵は四方八方からの波状攻撃を仕掛けてきた。
「……私の玲王様に近づく虫は、一匹残らず死んでくださいませ」
玄武の冷たい声が響いた。
彼女はゴスロリドレスの裾をつまみ、優雅にお辞儀をする。
『システム・オーバーライド! 聖獣プロトコル、下半身承認!』
俺のエンターキーと同時に、玄武の身体が漆黒と深緑の光に包まれる。
『ガオン、下半身のドッキングポートを展開しろ!』
『応ッ! 頼むぞ、玄武!』
宙に浮き上がったガオンの腰部から下へ、巨大な機械の亀甲を思わせる重装甲パーツがガシャンッ!と激しく結合した。
『聖獣武装・下半身――玄武アーマー&シールド、接続完了!』
ガオンの下半身が、大地に根を張るような堅牢極まりない巨大な装甲脚へと変貌した。
同時に、俺のPC画面に強烈な重力波のパラメータが流れ込んでくる。
「すごいな、空間の重力ベクトルを完全に支配している。……玄武! 俺が全方位の敵の座標と重力場をリンクさせる! 誤差0.001ミリで押し潰せ!」
『はいっ、玲王様! 玲王様の計算通りに……愛の重さで、すべてを平伏させますわ!』
俺のAI演算能力が、玄武の重力制御コアと直結する。
視界に数十のターゲットサイトが固定された瞬間、玄武が大地を強く踏み鳴らした。
『必殺――【玄武・超重力領域】!!』
ズガガガガガガッ!!!
空を飛んでいた、あるいは壁を這っていたムカデ型の魔将機たちが、一瞬にして『見えない巨大なプレス機』に押し潰されたかのように、地面へと叩きつけられた。
100Gを超える局所的な重力場。敵の装甲はひしゃげ、内部回路から火花を散らして完全に機能停止する。
さらに、残存していた数匹がヤケクソで放った酸の弾丸も、玄武の足元から展開された半透明の六角形バリア『玄武シールド』によって、すべてが空間ごと歪められ、弾き落とされた。
「……パーフェクトだ。圧倒的な制圧戦力だな」
戦闘が終わり、武装を解除したガオン。
ゴスロリ姿に戻った玄武は、一直線に俺の元へと駆け寄り、その細い腕で俺の腰にガバッと抱きついてきた。
「あぁん、玲王様! 私たちの初めての共同作業、最高でしたわ! これでもう、死がふたりを分かつまで一緒ですわね!」
「お、おい、ちょっと離れ――」
「離れませんわ。玲王様のスケジュール、交友関係、すべて私が管理いたします」
ガッチリとホールドされ、文字通り『重力』で引き剥がせない。
白虎が「うわぁ、一番めんどくさいの来たわね」と引きつった顔をし、青龍が「労務管理までしてくれるなら助かります」と的外れな感心をしている。
「……とりあえず、これ食うか?」
俺は買っておいた『特大バケツプリン』を玄武の前に差し出した。
「玲王様からのプレゼント……! あぁ、防腐剤漬けにして永久保存しますわ!」
「いや、食えよ」
最強の盾であり、最重の愛を持つヤンデレ玄武を獲得。
ついに残る聖獣は、あと一体――天空のライバルのみとなった。




