EP 4
JK白虎は原宿でクレープの夢を見るか(右腕)
深夜の原宿・竹下通り。
普段なら若者で賑わうポップカルチャーの聖地は、今は不気味な静寂に包まれていた。
いや、静寂ではない。建物を破壊する重低音と、けたたましいサイレンの音が遠くから響いている。
「……空間の位相がズレてるな。これが『ダンジョン』の局地的な浸食か」
俺はノートPCの画面を見ながら呟いた。
周囲の景色は原宿そのものだが、空は赤黒く変色し、まるでゲームのバグ空間のようにノイズが走っている。
『人間、気を抜け! 前方から来るぞ!』
ガオンの警告と同時。
クレープ屋のカラフルな看板をへし折って、巨大な四つ足の魔将機が姿を現した。
先ほどの路地裏にいた個体とは比べ物にならない。装甲は分厚く、背中にはミサイルポッドのような物まで背負っている。
「『将』級の魔将機……。だが、俺が気になるのはそいつじゃない」
俺の視線は、魔将機の足元――崩れたクレープ屋のカウンターに座り込んでいる、一人の少女に向けられていた。
銀色の長い髪に、猫耳(いや、虎耳か?)の生えたカチューシャ。
着崩したセーラー服の上からルーズソックスという、見事なまでにステレオタイプな女子高生(JK)ファッション。
彼女は目の前の巨大なバケモノなどガン無視で、両手に持った特大の『ストロベリーチョコホイップ・メガクレープ』を、幸せそうな顔で頬張っていた。
「あむっ……んん〜っ! やっぱ生クリームは最高ね! 魔界の泥水みたいなメシとは大違いだわ!」
『……おい、白虎。貴様、こんな所で何をしている』
呆れ果てたガオンの声に、JK――白虎はピクリと耳を動かして振り返った。
「あ! ガオンじゃん! アンタ、まだ日本にいたの?」
『それは我の台詞だ! なぜ人間の姿に擬態して、そんな甘ったるい物を貪っている! 我らの使命を忘れたか!』
「べ、別に使命を忘れたわけじゃないわよ! ただ、この『くれーぷ』ってやつがあと5種類残ってるから、制覇するまで帰れないだけなんだからねっ!」
見事なツンデレ発動である。
というか、両手にクレープを持ちながらドヤ顔で言われても説得力が皆無だ。
「ガオン、あれがお前が言っていた『四神』の一人か? 随分と……日本文化をエンジョイしてるみたいだが」
「ちょっと、そこのヒョロい人間! 誰がエンジョイしてるって!? アタシは敵の生態を調査してるのよ!」
白虎がこちらをギロリと睨む。
だが、そんなコントをいつまでも待ってくれるほど、魔将機は優しくなかった。
ピピピッ――!
魔将機の背中のポッドが展開し、無数の小型ミサイルが俺たちに向かって発射される。
『チッ! 避けろ人間!』
ガオンが前に飛び出し、青白いマナのシールドを展開して爆撃を防ぐ。
だが、強固な装甲を持つ「将」級相手に、回復したばかりのガオン一匹では分が悪い。ガオンの攻撃も、分厚い装甲に弾かれて決定打に欠けていた。
「このままじゃジリ貧だな。……おい、そこのクレープJK」
「誰がクレープJKよ! 白虎って名前があ――」
「お前のそのクレープ、俺が持ってる『プレミアム・極上ハチミツロールケーキ(未開封の予備)』と交換してやらないこともないぞ」
「……えっ!? 幻の極上ハチミツ……!?」
白虎の瞳が、獲物を見つけた肉食獣のようにキラリと輝いた。
「ただし、条件がある。ガオンとリンクして、あの鉄クズをスクラップにしろ」
「……ふんっ。別にアンタのケーキが目当てじゃないんだからね! アタシの食事を邪魔するウザい鉄クズを、ちょっとぶっ壊すだけよ!」
白虎は手に持っていたクレープの最後の一口をパクリと飲み込むと、セーラー服の裾を翻して大きく跳躍した。
『システム・オーバーライド! 聖獣プロトコル、承認!』
俺がPCのエンターキーを強く叩き込む。
空中に飛び上がった白虎の体が眩い光に包まれ、巨大な『鋼鉄の白虎の腕』へと変形していく。
『ガオン! 右腕の接続ポートを開け! 俺が同期させる!』
『承知した! 頼むぞ、人間!』
ガオンの右肩の装甲がスライドし、光となった白虎がそこに激突、結合する。
ガシャンッ!!
『聖獣武装・右腕――白虎クロー、接続完了!』
ガオンの右腕が、白を基調とした巨大で凶悪な虎の爪へと変貌した。
ガオンのシステム画面に、跳ね上がるような出力数値が叩き出される。
「出力300%上昇……素晴らしい。いけるぞ、ガオン!」
『おおおおっ! 力が、力がみなぎるぞ! 行くぞ白虎!』
『アタシの牙で、噛み砕けない物はないわ!』
魔将機が突進してくるが、もう遅い。
ガオンは身を低く沈め、巨大化した右腕を大きく振りかぶった。
『必殺――【白虎・砕牙烈爪】!!』
振り抜かれた右腕から、巨大な虎の顎のオーラが放たれる。
先ほどまでガオンの攻撃を弾いていた魔将機の超重装甲が、まるで発泡スチロールのように容易く噛み砕かれ、四散した。
大爆発と共に、赤黒いノイズ空間が晴れていく。
「……ふぅ。見事なオーバフローだ。デバッグのしがいがあるな」
俺がPCを閉じると、右腕の武装を解除したガオンと、再びJKの姿に戻った白虎がドスンと地面に降り立った。
「ふん、楽勝ね! さ、約束のロールケーキ、出しなさいよ!」
「はいはい。ほらよ」
俺が予備の箱を投げ渡すと、白虎は目を輝かせて箱を開けた。
「……あ、これ、本物だ! ずっと食べたかったのよね……!」
「お前ら、本当にちょろいな……」
毒舌ライオンに続き、ツンデレクレープJKの白虎を回収。
特A級エンジニアの最強テイマーへの道は、思いのほか甘い匂いに満ちているようだ。




