EP 3
毒舌ライオンと初陣
「……おい、人間。いつまで我のコアを覗き見ている。不愉快だぞ」
路地裏から這い出し、深夜の公園へと移動した俺たち。
ガオンは不機嫌そうに尻尾を振り回しているが、俺の目は釘付けだった。
視界に展開されたホログラム――ガオンの『ステータス画面』は、既存のどんなプログラミング言語とも異なる、美しくも複雑な数式の塊だったからだ。
「黙ってろ。今、お前の非効率なマナ循環パスを最適化してるんだ。……よし、このノードをバイパスすれば、さっきのロールケーキ1個分のエネルギーで、通常稼働時間が30%は伸びる」
指先で空間をスワイプすると、ガオンの機体から漏れていた微かな火花が収まり、駆動音がさらに静かに、かつ力強くなった。
『……なっ!? 我の身体が、これほどまでに軽いとは……。貴様、ただのエンジニアではないな?』
「言っただろ、特A級だって。……で、ガオン。お前、さっき『魔将機を狩る者』って言ったよな。ダンジョンの化け物同士で仲間割れか?」
俺の問いに、ガオンはふんと鼻を鳴らした。
『あんな鉄クズと一緒にすな。我ら聖獣は、この世界に満ちる邪悪なエネルギー……魔将機を浄化するために現れた高位の存在だ。だが、不覚にもこの日本に転移した際、我の四人の仲間……「四神」の連中とはぐれてしまってな』
「仲間ねぇ。お前みたいにボロボロで路地裏に転がってるのか?」
『……いや、あやつらは我よりよっぽどこの世界に適応しておる。……というか、適応しすぎて、本来の目的を忘れて日本をエンジョイしておるのだ!』
ガオンの話によれば、共にやってきた「白虎」「青龍」「朱雀」「玄武」の四聖獣は、どういうわけか人間の姿に擬態し、今やこの現代日本のどこかで自由奔放に暮らしているらしい。
「なるほど。そいつらを見つけ出して『合体』しないと、さっきみたいな魔将機の親玉には勝てないってわけか」
『左様だ。我一匹では、魔将機の「魔核」を完全消滅させるには出力が足りん。……おい、人間! 何をスマホをいじっている! 我が真面目な話をしているのだぞ!』
「……あー、ごめん。明日の『原宿限定・苺たっぷりプレミアムクレープ』の整理券、オンライン配布が始まったからさ」
『貴様ぁあ! 我という聖獣がいながら、また甘い物か!』
「うるさいな。糖分は脳のガソリンなんだよ。……ん?」
その時。
俺が持っていたスマホの画面が、激しいノイズと共に真っ赤なアラートに切り替わった。
俺が自作した「魔力波検知アプリ」が、異常な数値を叩き出している。
「ガオン、お喋りは終わりだ。……原宿、竹下通り付近。お前の仲間かどうかは知らないが、とんでもなくデカい『エネルギー反応』が出たぞ」
『何だと!? む……この寒気、間違いない。魔将機の「将」級が動き出したか……!』
「……それと、もう一つ。その反応のすぐ近くに、お前と同じ『聖獣』特有の波長も混じってる。……どうやら、クレープを食いに行く手間が省けそうだ」
ガオンの目が鋭く光る。
俺はスーツのネクタイを緩め、リュックからハイスペックなノートPCを取り出した。
「行くぞ。俺のクレープと東京の平和を邪魔する奴は、一文字残らずデリートしてやる」
『ふん、生意気な。……だが、その減り口、嫌いではないぞ。百夜玲王!』
鋼鉄の獅子が夜の闇を裂いて駆け出す。
その後ろで、俺は即座にガオンの戦闘支援プログラムを走らせた。
現代日本の日常を舞台にした、最先端AIエンジニアと古代の聖獣による「魔将機狩り」。
その初陣の舞台は、若者の街・原宿へと向かおうとしていた。




