EP 5
激突! 聖獣機神 vs 人工神兵
「――ターゲット確認。前方、距離1200。湾岸エリアに居座る巨大な鉄クズだ」
俺たちが『ミラー・ダンジョン』の境界線を越えた瞬間、世界から一切の喧騒が消え去った。
現実の東京湾には、避難を急ぐ人々や報道のヘリが溢れているはずだが、この「裏東京」にいるのは俺たちと、そして眼前にそびえ立つエイペックス社の巨大兵器だけだ。
海面を割り、天を突くような巨体をくねらせているのは、人工魔将機『リヴァイアサン』。
ナノ合金の装甲が朝日に冷たく反射し、無機質なセンサーの赤い光が、侵入者である俺たちを正確にロックオンした。
『……警告。ミラー・ダンジョンの座標データに、未知の外部アクセスを検知。リヴァイアサンがこちらの結界を「解析」しようとしています』
脳内のAIが警告を発する。
「解析だと? 俺の書いたコードを、そんなブリキの魚に読み取れると思うなよ」
俺は愛車(Z1)を荒っぽく停め、ノートPCをバックパックから引き抜いた。
隣では、エプロンを脱ぎ捨てて黒いシャツの袖をまくったデュアダロスが、忌々しげにリヴァイアサンを睨みつけている。
「おい、玲王。あのアホ面下げたデカいドジョウか。ワシのワインを止めたんは」
「ああ。あの腹の中には、俺のモンブランも眠ってるはずだ」
「ほうか。なら話は早いわ。……ガキども、ワシが出るまでもない。さっさとあの鉄クズをスクラップにして、中身を回収してこい」
デュアダロスの冷たい一言に、ガオンたちが一斉に咆哮した。
『言われなくても! あの鉄の塊、アタシが中身ごと噛み砕いてやるんだから!』
白虎が地を蹴り、純白の閃光となって海面を走る。
『各員、ドッキング・シーケンスへ。……無駄な工数はかけません。一撃で沈めます』
青龍が冷静に指示を出し、四神たちが次々とマナの奔流となって空に舞った。
「ガオン、行くぞ!」
『応ッ!! 玲王、俺の回路を限界まで回せ!』
俺のタイピングと同時に、黄金の光が湾岸を包み込む。
「玄武、基部固定! 朱雀、推進器展開! 合体――【聖獣機神ガオガオン】!!」
ガシャンッ、ガシャンッ、と巨大な金属音が裏東京に反響する。
五体の聖獣が一つに重なり、全高五十メートルを超える黄金の巨神が、海の上に堂々と降り立った。
『ハハハ! 実に原始的で、かつ非効率な合体だ!』
リヴァイアサンの背部にあるスピーカーから、マクシミリアンの嘲笑が響き渡った。
リヴァイアサンのセンサーが一段と赤く輝き、背中のレールガンが電磁加速の音を立てる。
『百夜玲王。君のアプリ『ミラー・ダンジョン』は素晴らしい発想だが、所詮は魔法という「不安定な演算」に基づいている。私のリヴァイアサンは、一秒間に百億回のシミュレーションを行い、君たちの攻撃をすべて『過去の事象』として処理するんだよ』
「……百億回? 随分と余裕だな、天才CEO様」
俺は操縦席で、冷徹にコンソールをスワイプした。
「だったら、そのシミュレーションが追いつかないほどの『バグ』を見せてやる。……青龍、最大出力でぶち込め!」
『了解。……全門開放。ターゲット、リヴァイアサン中央演算核』
ガオガオンの左腕、青龍キャノンが蒼白い輝きを放ち、海を割るほどの極太レーザーが放たれた。
だが、リヴァイアサンはそれを避ける素振りすら見せない。
レーザーが着弾する直前、リヴァイアサンの表面に展開されたナノマシン・シールドが、レーザーのエネルギーを完全に分散し、無効化した。
『無駄だと言っただろう? 科学の力による完全防御だ。……次は私の番だよ』
リヴァイアサンのレールガンが火を噴いた。
音速を超える電磁加速弾が、ガオガオンの右肩を掠める。
「……ッ、玄武! 防壁を二重に展開しろ! 奴の攻撃はマナじゃない、純粋な物理質量だ!」
『やってますわ! でも、この弾……ただの鉄球じゃありません! 衝撃が空間を伝って直接脳に響きますわ!』
激突する黄金の巨神と、銀色の人工海龍。
裏東京の海が激しく波打ち、科学と魔法が火花を散らす。
「……なるほどな。ただの機械じゃない。……いいぜ、マクシミリアン。お前の『合理性』、俺が根底から上書きしてやる」
俺の指先が、キーボードの上でかつてない速度で踊り始めた。
モンブランの恨み、そしてエンジニアとしてのプライド。
そのすべてを乗せた『デバッグ』が、今、始まった。




