EP 6
AIの予測と科学の限界
ガキィィィィンッ!!
ガオガオンの右腕、白銀のオーラを纏った白虎の豪腕が振り下ろされる。
魔将機の分厚い装甲をも紙切れのように引き裂く一撃。だが、人工魔将機『リヴァイアサン』は、ほんのわずかに機体を沈めるだけで、その必殺の軌道を完全に躱してみせた。
『なっ……!? アタシの爪が、空ぶった!?』
「青龍、追撃! 逃がすな!」
『タスク実行。……しかし、捕捉できません!』
白虎の死角を補うように放たれた青龍のレーザーすら、リヴァイアサンは予測していたかのように電磁シールドの「最も出力の高い部分」だけをピンポイントで展開し、いとも容易く弾き返した。
『無駄だ、百夜玲王!』
リヴァイアサンのスピーカーから、マクシミリアンの勝ち誇った声が響く。
『君たちの過去の戦闘データ――東京湾での動き、歌舞伎町でのマナの波形、そして銀座での合体シーケンス。我が社のディープラーニングAIは、すでにそのすべてを学習し終えている!』
マクシミリアンはホログラム越しに、冷酷な笑みを浮かべた。
『ガオガオンの関節の可動域、マナの収束にかかるコンマ数秒のラグ、そして搭乗者である君の「合理的」な戦術パターン。私のAIは、君がキーボードを叩くよりも早く、次の一手を100%の確率で予測する。魔法などという未解明の数式も、科学の演算の前ではただの「予測可能な事象」に過ぎない!』
「……なるほどな。完全にこちらの『最適解』を読まれてるってわけか」
俺は操縦席で額の汗を拭い、カタカタとキーボードを叩いてログを確認した。
確かに、ガオガオンの動きは完全に先読みされている。玄武の重力場も、朱雀の機動力も、すべてが「最も効率的な動き」をするがゆえに、AIの計算通りに動かされている状態だ。
『玲王! このままじゃジリ貧だぜ! あいつ、俺たちの動きが分かってるみたいに……いや、分かってるんだな!?』
ガオンが焦燥に駆られた声を上げる。
「ああ、その通りだ。……だがな、マクシミリアン。お前の作ったAIには、致命的な欠陥があるぞ」
俺はニヤリと笑い、タイピングの速度を一段上げた。
『欠陥だと? 負け惜しみを。私のAIは完璧な「常識」を学習している』
「そう、それだよ。お前のAIは『過去のデータ』と『合理的な常識』しか学習してないんだよ。……俺の大事なモンブランを奪った奴に対する、俺の『非常識なブチギレ具合』を計算に入れてないだろ?」
俺はエンターキーを叩き、ガオガオンの制御システム(OS)に一時的な『意図的エラー』を流し込んだ。
「みんな、聞け! これから俺の指示通りに動け! 効率やセオリーは全部捨てろ!」
『えっ!? 玲王様、どういうことですの!?』
「朱雀、右に回避しろ! ただし推進力は左の翼だけ使え!」
『はぁ!? そんなことしたらバランスが崩れて墜落するぞ!』
「いいからやれ! 白虎、攻撃の瞬間にマナの出力をゼロにしろ! 青龍は目標の『10メートル横』を全力で撃て!」
俺のメチャクチャな指示に、四神たちは戸惑いながらも従った。
推進力を片方だけにした朱雀の翼により、ガオガオンの巨体は信じられないほど不格好に、まるで泥酔したかのようにガクンと体勢を崩す。
『――ッ!? 敵機の軌道に致命的なエラー。予測不能の動作を検知』
リヴァイアサンの赤いセンサーが、一瞬だけ激しく明滅した。
ガオガオンが「転倒」するという、およそ戦闘兵器としてあり得ない非合理な動きをしたことで、マクシミリアンのAIが予測を外したのだ。
「今だ、白虎! マナをゼロにしたまま殴れ!」
『ええい、ヤケクソよぉっ!』
マナの光を一切纏わない、ただの巨大な金属の塊としての右腕が、リヴァイアサンの頭部に叩き込まれる。
AIは「マナの収束」を攻撃のトリガーとして学習していたため、このただの『物理的な殴りかかり』に対してシールドの展開がコンマ数秒遅れた。
ゴガァァァァンッ!!!
重鈍な金属音が響き、無敵を誇っていたリヴァイアサンの巨体が初めて大きく海面へと弾き飛ばされた。
「……見たか、エリート気取り。AIってのはな、最適化された『正解』を出すのは得意でも、人間や神々の『感情任せのデタラメ(バグ)』には対応できねぇんだよ」
俺が鼻で笑うと、通信越しのマクシミリアンがギリッと奥歯を噛み鳴らす音が聞こえた。
『小賢しい真似を……! ならば、予測など不要。圧倒的な火力で、その非合理ごと消し飛ばすまでだ!』
リヴァイアサンの背部レールガンが、先ほどとは比べ物にならない膨大なエネルギーを急速充填し始める。
一撃必殺の飽和攻撃。いくら動きをズラしても、面制圧されては避けきれない。
しかも、先ほどの白虎の物理パンチも、敵の分厚いナノ合金装甲をわずかに凹ませた程度で、致命傷には程遠かった。
「……さすがに硬いな。俺たちの今の出力じゃ、あの分厚い装甲はぶち破れないか」
『玲王! どうする! あの大砲が来たら、さすがの玄武でも防ぎきれんぞ!』
ガオンが叫ぶ。
「心配するな。俺たちの手札には、世界で一番『理不尽で非合理なバグ』が残ってる」
俺は視線を、裏東京の岸辺へ向けた。
そこには、腕を組み、アルマーニの黒シャツを風に靡かせながら、イライラと貧乏揺すりをしているプラチナブロンドの男――邪神デュアダロスが立っていた。
「おい、デュアダロス! 準備運動は終わったか!」
俺が外部スピーカーで呼びかけると、インテリヤクザ邪神は獰猛な笑みを浮かべた。
「遅いわ、ガキ。……ワシのワインを止めたあの鉄クズ、指の先まで塵にしちゃる!」
最強のAI兵器を打ち破るための、究極の「非常識」。
特A級エンジニアによる、神と邪神の悪魔的フュージョン(結合)の準備が整った。




