EP 7
神魔再臨! 邪龍の咆哮と最終アップデート
ビリィッ……!!
最高級のアルマーニ製スーツが、内側から膨れ上がる膨大なマナに耐えきれず弾け飛んだ。
むき出しになったデュアダロスの背中。そこに彫り込まれていた極道の象徴――『登り龍』の刺青が、まるで自らの意志を持つかのように蠢き、天に向かって抜け出していく。
「ワシのメンツを潰した罪……その命で落とし前つけい!!」
デュアダロスの咆哮と共に、銀座の夜空が真っ黒な瘴気に塗り潰された。
ビル群の谷間から現れたのは、東京の空を覆い尽くすほど巨大な、漆黒の六翼を持つ邪龍。
そのスケールは、かつて東京湾で戦った『大魔将機』すらも赤子に見えるほどだ。
『……あ、あわわ……世界が終わるわ……! アタシ、まだ原宿のクレープ全種類制覇してないのにぃっ!』
「お、終わりです……定時退社どころか、人生から退社させられます……」
真の姿を現した邪神の前に、白虎と青龍は完全に戦意を喪失して座り込んでしまった。
ガオンすらも、巨大な邪龍の威圧感の前に一歩も動けないでいる。
『エラー。エラー。対象の質量、マナ濃度、共に観測限界を突破。勝率、0.0000001%以下』
俺の脳内AIが、赤い警告を通り越して真っ黒な「デッドロック(死の宣告)」の画面を吐き出し続けていた。
「……冗談キツいぜ。あんな規格外のバグ、どうやってデバッグしろってんだ」
俺が冷や汗を流しながらノートPCを開いた時、インカムから若林幹事長の声が響いた。
その声は、かつてなく低く、そして微かに震えているように聞こえた。
『……百夜くん。防衛省のレーダーが完全にイカれたよ。衛星からの映像を見たが……アレは、人間の国がどうにかできる代物じゃないな』
「幹事長。……自衛隊に迎撃指示を出しますか? いや、出しても無駄でしょうが」
『出さんよ。そんなことをすれば、無駄な犠牲が増えるだけだ。それに……』
カチッ、とライターの音が聞こえ、若林が深く煙を吸い込む気配がした。
『この国を裏で牛耳る幹事長として、そして一人の大人として、若者に「後は頼んだ」と丸投げするのは心苦しいが……。やれやれ、どうやら私の退職金は、この騒動の揉み消し代で完全に吹き飛びそうだな』
若林の声には、確かな『覚悟』がこもっていた。
『百夜玲王。君に全権を委ねる。あのバカでかいトカゲを、なんとかしてくれ。……君の言う「特A級のデバッグ」を見せてみろ』
「……了解しました。退職金がゼロになっても、俺のスイーツ代はきっちり請求しますからね」
通信を切る。
俺は顔を上げ、絶望に支配された四神たちに向かって大声を張り上げた。
「ガオン! 白虎、青龍、玄武、朱雀! いつまで怯えてる! 相手が神話の化け物だろうが、俺のAIとリンクしている以上、お前らも『神殺しの兵器』だ!」
俺の叫びに、四神たちがビクッと肩を揺らす。
だが、邪龍の口から放たれようとしている極大の「邪気弾(チャカの一撃)」のエネルギーを前に、彼らの恐怖を完全に拭い去ることはできない。
「……今のままじゃ、確かに勝てない。出力が圧倒的に足りない」
俺は両手をキーボードに置き、凄まじい速度でタイピングを開始した。
狙うのは、聖獣たちのOSの根幹。神々が設定した安全装置の完全解除。
「……だったら、俺がルールを書き換える! 限界突破なんて生ぬるい。システムそのものを、奴の出力に合わせて『最終アップデート(オーバークロック)』してやる!」
俺の指先から、莫大な演算データが聖獣たちのコアへと流れ込んでいく。
脳の糖分が猛烈な勢いで消費され、視界がチカチカと明滅する。
「お前ら、あのチーズとワインを食いたかった『ヤクザの未練』を思い出せ! あいつはただの腹ペコでメンツを気にする、見栄張りのオッサンだ! 怯える必要なんかねぇ!!」
俺の挑発的なデバッグ・コードが、四神たちの恐怖を怒りと闘争心へと上書きしていく。
『……フッ、そうじゃな。ただの見栄張りのオッサンじゃったな!』
ガオンが、恐怖を振り払うように牙を剥き出しにして咆哮した。
『システム・アップデート完了。聖獣プロトコル、バージョン2.0、起動』
「行くぞお前ら! あのクレーマーの落とし前、俺たちでつけてやる!!」
俺の絶叫と共に、銀座の交差点から五つの極彩色の光が、邪龍の闇を切り裂くように天へと打ち上がった。




