EP 4
聖獣たちの焦燥と極上の「お詫びの品」
「オラァ! ワシらのシマで勝手な真似すなや!」
歌舞伎町のど真ん中。極道機・若頭級が巨大なドス型ブレードを振り下ろす。
だが、俺のAIと直結した四神たちにとって、その単調な攻撃など止まって見えるのと同じだった。
「青龍、右斜め30度へ回避後、関節部へレーザー!」
『了解。……残業代稼ぎにもならない雑魚ですね』
青龍の冷徹な一撃が極道機の駆動系を貫き、返す刀で白虎がその頭部(サングラス型センサー)を粉砕する。
わずか数十秒。俺の最適化プロトコルを受けた四神たちの前では、新型の魔将機もただのスクラップに過ぎなかった。
「……ふぅ、デバッグ完了だ。大したエラーじゃなかったな」
俺がノートPCを閉じると、アスファルトには黒服めいた魔将機の残骸が散らばっていた。
しかし、戦闘を終えたはずの四神たちの様子が、どうもおかしい。
『あわわわ……間違いないわ、このおぞましいマナの波形。あの人よ……デュアダロス様が完全にブチギレてるわ……!』
いつもは強気なツンデレJKの白虎が、自慢の虎耳をペタンと伏せてガクガクと震えている。
ホログラムでハスキー犬に偽装しているガオンに至っては、俺の足の後ろに隠れて尻尾を股の間に挟んでいた。
「どうしたお前ら。あんな雑魚、いつもなら欠伸しながら倒すだろ?」
『ば、馬鹿者! 恐ろしいのはあの鉄クズではない! あれを放った「親玉」の方だ!』
「親玉?」
「私の演算予測では……生存確率0.0001%。あの邪神、一度スジを通さないと『指パッチン』一つで空間ごと私たちを塵にする気です……っ」
普段はクーデレの青龍でさえ、冷や汗を流して眼鏡をズレさせている。
玄武は「玲王様、今すぐ二人で異次元へ駆け落ちしましょう!」と俺の腰にすがりついて泣き叫んでいた。
「おい、ちょっと待て。邪神デュアダロスって、お前らが神魔戦争で封印したっていうラスボスだろ? なんでそんなに怯えてるんだ」
俺が問い詰めると、ガオンが気まずそうに目を逸らした。
『そ、それはだな……。我ら、あやつを封印した後も、定期的にダンジョン最深部へ慰問に行っておったのだ。コンビニ弁当や缶ビールを差し入れて、一緒に「仁義なき映画」を見て笑い合ったりしてな……』
「……は?」
「で、でもっ! 日本のクレープやタピオカがあんまりにも美味しくて、ついダンジョンに行くのを一ヶ月くらいサボっちゃって……!」
「アタシたち、完全に『差し入れ』と『封印チェック』をバックレてたのよぉぉっ!」
白虎が頭を抱えてしゃがみ込む。
俺の特A級の頭脳が、瞬時に事態の全容(バグの原因)を弾き出した。
「……つまり、今回の襲撃は世界を滅ぼすためじゃなく、ただの『自分だけハブられた激重クレーム』ってことかよ!」
なんてこった。神話級の脅威の原因が、福利厚生の不備だとは。
だが、相手が「怒れるカスタマー」であるならば、AIエンジニアとしての対処法は一つしかない。
ピロリンッ。
俺のスマホが鳴った。若林幹事長からだ。
『やあ百夜くん、お掃除ご苦労。……どうやら、君の可愛いペットたちは随分と怯えているようだね』
「幹事長、公安の盗聴網で聞いてましたね? ええ、最悪のバグです。敵の親玉が、お怒りのインテリヤクザ邪神だと判明しました」
俺がため息をつくと、電話の向こうで若林がハイライトの煙を吐き出す音が聞こえた。
『安心したまえ。先日の大魔将機騒動の後、君のペットたちの過去の交友関係……もとい「神話の古文書」を密かに解析させておいてね。デュアダロスなる邪神が、ダンジョン内で何を欲していたか特定したよ』
「本当ですか!?」
『ああ。ヤツは任侠映画に毒された結果、「葉巻」「最高級のヴィンテージ赤ワイン」、そして「トロリと溶けた焼きチーズ」を強烈に渇望している』
なんて俗っぽい邪神だ。だが、好都合すぎる。
「幹事長! 今すぐ都内で一番美味いワインとチーズの店をリストアップして、俺に権限をください! 経費はそっち持ちで!」
『フッ……合点承知だ。銀座にある会員制の地下ワインセラーと、スイス大使館御用達の超高級ラクレットチーズの塊を押さえておこう』
頼りになりすぎる古狸に感謝しつつ、俺は若林から借りた大型バイク(カワサキ・Z1)に再び跨った。
「ガオン、白虎、青龍、玄武、朱雀! お前らは俺が戻るまで、その辺の極道機を蹴散らして時間を稼げ!」
『れ、玲王!? 我らを置いていく気か!?』
「馬鹿野郎、今から『極上の詫びの品』を調達してくるんだよ! クレーム対応の基本は、誠意(美味いもの)とスピードだ!」
俺はアクセルを思い切り捻った。
エンジンが咆哮を上げ、バイクがネオン街を矢のように駆け抜ける。
「待ってろよ、ヤクザ邪神! お前の舌をトロトロに溶かして、俺の平和なスイーツライフを死守してやる!」
特A級AIエンジニアによる、国家権力を巻き込んだ前代未聞の「お使い(接待)ミッション」が幕を開けた。




