8⭐︎パーティー後の夜の過ごし方は、それぞれに充実しています。
帰りのタクシーの中で、流星はぶすくれていた。奏とは連絡先の交換も出来ず、その後女の子に声をかけるタイミングもなく、"いい収穫"がなかったことに、ただただ苛ついていた。煌と光里は、次のツアーの衣装のことで話し合うことがある、と言って、自分だけ別のタクシーに押し込まれたのも、納得いかない。
ぶすくれ顔で頬杖をつき、窓の外を眺める。夜になっても暗くならない、煌びやかな街並み。自分が生まれ育った場所とは、色んな意味で遠くかけ離れた場所。暗闇の夜空には、月もぼやけて、星すら見えない。
(ばあちゃんち行きてーなぁ…。)
故郷を思い浮かべながらも、街の明かりを眺め続ける。もう何年も帰ってない。テレビ電話で会話することはあるけれど、直接顔を見て話しがしたい。
ここで少しだけ、流星の過去に触れておこう(誰)。
流星の父親は、酒癖も女癖も悪く、一大決心した母親は、幼い流星と産まれたばかりの妹を連れて、ばあちゃんちに転がり込んだ。母親は、身を粉にして働きすぎて、過労が祟ったのか若くして病に倒れた。幼かった流星は、母親の力になりたい一心で、文句一つ漏らさずに、妹の世話や家事を担い、ばあちゃんとじいちゃんの農作業の手伝いもした。流星の頑張り虚しく、母親は倒れて入院したまま亡くなってしまい、流星は絶望から部屋に引きこもってしまった。そんな流星をばあちゃんは見離さず、少しずつ、でもじんわりと、あたたかい優しさを注ぎ続けた。その甲斐あって、流星は絶望の淵から立ち上がり、「あんたはころころ顔が変わって、まるで役者さんみたいだね。」というばあちゃんの一言で、子役を目指す道を進み始めた。
演技は、いい。いろんな自分を発見できるし、いろんな人物になれる。吸収力も凄まじく、七歳で子役デビューして瞬く間にお茶の間の人気者に。そのせいなのか、大人にチヤホヤされる生活が続き、甘えん坊の寂しん坊で、破天荒な行動をするようになっていった。幼い頃我慢していた反動なのか、どうにもこうにも直せなくなってしまう。"性格に難あり、でも演技はピカイチ"の流星の出来上がりだ。
そのうち、天狗になっていた流星の長い鼻を切り落とす勢いで、実力を上げてくる後輩達が、続々と現れ始めた。流星は、鋼のメンタルを持っていて、仕事が減っていっても、どこかに絶対あるチャンスを狙って、腐らずに演技の勉強を続けた。この頃から、演技だけでなく、ダンスや歌も習い始めた。十三歳になるタイミングで、T//Sのメンバーオーディションの話がきて、"これだ!"と直感した流星は、死に物狂いで自分磨きをし、オーディションに受かったのだった。
オーディションに受かったからといって、すぐにデビューできるわけではなかった。メンバーとルームシェアをしながらレッスンを重ね、どんなに小さな仕事にも取り組み、結成から三年、ようやくTears of Stardustとしてデビューしたのだ。下積み時代の三年は、とてつもなく長く感じたのに、あっという間に十年が過ぎたように感じる。
吉良流星は、子役時代から使っている芸名。本名は、桐生流。今や、本名で呼んでくれるのは、じいちゃんとばあちゃんくらい(妹はお兄ちゃん呼び)。あとはほとんどが"流星"の時に出会った人達ばかり。人脈は広いが、本当の意味で大事にしたりされたりしている人達って、どのくらいいるんだろう。
流星の昔話にお付き合いいただき感謝する(誰)。そのうち他のメンバーの過去にも触れていく所存である(だから誰)。
流星はタクシーから降りて、マンションに入っていく。そこは自宅ではなかった。合鍵を使ってエントランスを抜け、エレベーターで目的の階へ。連絡はしていないので、ドアチャイムを押してサプラーイズ。驚く女性の首元に腕を絡ませながら、悪戯な笑みを浮かべる流星。閉まっていくドアが、二人のその先は閲覧禁止です、とでも言うかのように、ばたん、と重たく閉じた。
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「あいつ、ちゃんと家に帰ったんかな。」
酔い覚ましの水を飲みながら、煌が言う。
「いや、またどっかの女のところでしょ。」
なんでもお見通しの光里。
二人は、流星をタクシーに押し込んだ後、かつて自分達がルームシェアをしていた平屋の一軒家に来ていた。光里は結婚してすぐその家を出て行き、煌・彗人・流星の三人はしばらくルームシェア生活を続けた。デビューして、グループの仕事以外に、個人の仕事も入ってくるようになり、そのうち、ルームシェアは解消。ただ、家自体には思い入れがあり、誰も住んではいないが解約はせずに更新。原点回帰するのにいい場所だし、仕事の都合で自宅に帰れない時などはそこに泊まったり、ミーティングなどで使っているのだ。
「流星も、誰か一人に落ち着いて欲しいんだけどなぁ。」
「あいつの性格上、無理っしょ。グループに迷惑かけるような騒動になるようなら、それ相応の対応しなきゃだけど、裏をかいたり掻い潜ったり、色々と上手いんだよな。」
「流星のすごいとこだよねぇ。人の懐に入っていくのは上手いし、人脈もすごいし。」
「ま、解散するその日まで、グループから一人も脱退者が出ないよーに、俺ら年上組が目を光らせておくしかねぇわな。」
グループが今まで続いてきたのは、彼ら年上組の配慮のおかげでもある。
「で?話って?」
「あぁ、次のツアーの衣装なんだけど。」
光里は、話しながら数枚の紙を煌の前に並べた。衣装案がびっしりと描かれている。アイドルのかたわらモデルもこなしている光里は、ライブの衣装に携わることが多く、デザイナーである嫁に色々と教えてもらいながら、次のツアーの衣装案をいくつか練っていた。今回は、十周年の記念のツアーになるので、衣装にもより一層力を入れたいのだが、納得のいく案が浮かばず、迷走していた。
「こんなに考えたんだ。あ、俺これ好きかも。」
「ん、ありがと。でもさ、なんかこう…これだ!感がなくて。」
「そうか?」
「今日のさ、彗人くんの服、めちゃくちゃ良くなかった?」
「あー、柚月ちゃんがプロデュースしたってやつ?」
「そう。あれ、完全オーダーメイドで、パーティー終わったら家に飾るって言ってて。」
「もったいな!宝の持ち腐れやん!」
「だよね!?ちょっと前に、どっかで着る機会ないか、って、彗人くんから相談受けてて。柚月ちゃんのセンス、結構いいなって思ってるんだけど、衣装チームに誘ってみてもいいかなぁ?」
声の弾む光里に対して、表情が曇る煌。
「…彗人の奥さんになる、"一般人"やろ。」
「まぁ、うん、一般人、だね。」
「デザイナーとかやってるん?」
「いや、仕事はOLって言ってた。ぼちぼち在宅に切り替えるって。」
「荷が重いんじゃね?」
「そうかぁ…。うーん…。」
腕を組んで唸る光里。光里の気持ちも、分からなくもない。今日の主役達の衣装は、誰が見てもあの二人のために在る衣装だと思わせる、不思議な力を持っていたように思う。
煌は、自分が芸能人で、相手が一般人だったがために、自分以外の大切な人達を傷つけてしまった過去があり、柚月をこちらの世界に引き入れて、起こってしまうかもしれない事態を懸念していた。光里も、そのことには気づいていた。反対されるかもしれないが、まだ起こっていないことを心配して足踏みするより、現状を打破出来るのかどうか、色々と試してみたいのだ。
「とりあえず、メンバーとスタッフで話し合って、それから、だな。」
「あれっ、肩透かし感!」
「なんでだよ。」
「もっと反対されるかと思ってた。」
「いや、んー…。なんつーか、最近の彗人、めちゃくちゃいい顔するようになったやん?」
「そうなんだよねぇ。スタッフさんも歓喜しちゃって。」
「あいつにいい影響が出てんなら、芸能人とか一般人とか線引きして、警戒してる自分ってなんなん?とか思うようになってて。」
「まぁ…煌の過去を思うと、警戒しちゃうのは仕方ないけど。明らかに今の彗人くん、柚月ちゃんのおかげでいい方向に伸びてってるよね。」
二人は顔を見合わせて、弟の成長を喜び合う兄のように、へらっと笑った。
煌は、椅子にもたれて天井を見上げ、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「十周年ライブツアー、成功させたいもんな。」
「もちろん。そのためには、やれることはやり尽くしたいね、僕は。」
「…硬い頭を柔らかくしていかねーとなぁぁぁぁ。」
頭を両手でわしゃろうと思ったが、ヘアセットガチガチだったことを思い出し、ためらった。手持ち無沙汰になった両手を、しれっと胸の前で組むと、その一連の動作が光里のツボに入ったらしく、声を出して笑い出したので、煌もつられて笑った。
「俺、今日はここに泊まるわ。」
「そう言うと思った。飲み直さない?」
待ってました、と言わんばかりに、ビニール袋から缶ビールを取り出す光里。
「お前まだ飲むんかよ。」
「だって料理が美味しくてあんまり飲めなかったからさー!付き合ってよ〜煌〜。」
「明日の仕事の入り時間、まぁまぁ早いけど大丈夫なんか?」
「急に真面目!ちょっとだけでいいからさぁ。」
「しょーがねぇなぁ。」
光里の方が年上だが、煌がリーダーなのがお分かりいただけただろうか(誰)。
結局、年上組二人の宴は、朝方まで繰り広げられるのであった。




