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友達付き合いと

「今日は早めに帰ろっかな」


 時刻は六時前。

 休憩とは名ばかりで、昨日食べ忘れていたケーキを食べつつ、普通にだべっていたらこんな時間になっていた。

 話の内容は、恋愛などの俺には無縁な話ばかりで、終始聞く専だった。

 ただ、花宮の好きなタイプだとかの話は聞けなかったな。綺麗に躱されていた感じがする。


「ケーキ美味しかったよ。ありがとっ!」

「晩ごはん食べていかないんですか?」

「んー、お昼もいただいちゃったし、遠慮しよっかな~って」

「俺は全然気にしないですけどね」

「ほんと!? じゃあお呼ばれしちゃう」


 現金だな。俺が誘ったんだからいいんだけど。


「ともあれ晩ごはんは何作りましょうか」

「……あ! カレー食べたい!」


 カレーか。

 切って炒めて煮込んでと、比較的大雑把でも美味しく作ることが出来る料理だな。

 俺も面倒な時は作っていたりする。


「わかりました。ただ、具材があるかわからないので確認しますね」


 俺は椅子から立ち上がって冷蔵庫の確認に向かう。

 冷蔵庫の中には色々入っているが、生憎と最も必要不可欠なカレールーと肉がなかった。


「すいません。ルーを買いに行かなきゃ作れなさそうです」

「そっか、じゃあ別のものにしないとね」

「いや、スーパーもすぐそこですし、パッパと買ってきますよ。ここで待っててください」


 他人を家に置いたまま外出するのはいささか不用心きわまりないとは思うが、花宮は気心が知れた相手だと言える。

 俺の迷惑することはしないだろう。


「ううん! 私も付いてくよ!」

「いいんですか? 学校の誰かと遭遇するかもしれませんよ?」

「んー、そのときはその時かなぁ」




 不安が的中した。

 入店早々目の前にはクラスメイトの男子。

 向こうは俺たちには気が付いていないようだが、見つかるのは時間の問題だ。


「ちょっと離れていましょうか」


 喧騒があるとはいえ、彼との距離はそれなりに近い。

 変に声を出すとバレることもあるだろう。そう思い花宮に耳打ちをする。


「そ、そうだね! じゃあ私、お菓子コーナー見てくるから!」


 俺にだけ聞こえるような声でそっと呟くとさっさと行ってしまった。

 俺は買い物かごを拾いつつ、その後ろ姿を目で追って、まるで子供みたいな後ろ姿だなと思った。


 スーパーですぐの生鮮食品コーナーには用がないのでスルーする。

 ニンジンやジャガイモ、そして玉ねぎと必要な野菜類は揃っているので、まずは肉コーナーを目指す。

 普段であれば三百グラムの肉を買って帰ることが多いが、今回は花宮がいるし、レシピはカレーだ。

『家計応援大容量パック』があったので、それを手に取りかごに納める。

 続いてカレールーなのだが。

 さて、花宮はどの辛さがお好みなのだろうか。

 俺は基本中辛なのだが、花宮はどうなんだろう。

 というか、本来俺は辛いものが苦手だ。

 中辛を食べるのも、辛いものに慣れたいという悪あがきと、レジで辛いものが食べられない男だと思われたくないからである。

 なんともしょうもない理由だ。

 なんにせよ、合流した時に聞いておけばいいか。

 あ、そうだ。卵も買い足しておこう。

 昼食のカルボナーラでも使ったし、もしかしたら花宮はカレーに卵を入れるタイプなのかもしれない。

 記憶ではまだ一パックほど残っていた気がするが、今のうちに買い足していてもいいだろう。

 卵コーナーに寄ると、丁度セールの真っ最中のようだ。

 確かに六時ともなると、人入りが最も多い時間帯だからな。それに合わせた店の戦略なのだろう。

 二パックで買う方がお得……。添えてあるポップにはそう書いてある。

 ……冬休みだし、なんとかなるか。

 卵を二パック手に取り、かごへ入れる。

 他に買うもの……。

 いや、特にないし、お菓子コーナーへ向かった花宮と合流することにしよう。


 お菓子コーナーへ到着した。もちろんそこには花宮の姿が。さらに隣にはもう一人、人影があった。

 クラスメイトの男子だ。

 どうやら向こうも偶然お菓子を見に来ていたらしい。

 二人は商品の棚を眺めながら何か話をしている。

 ここで普通に花宮と合流して、気にせず会話に割って入ったり下手なことをすれば、変な誤解が生まれてしまうことは確実だ。

 やましい気持ちはないが、気まずいし、彼が離れるまで待つことにする。

 何もせず立ち聞きするのは明らかに不審者なので、近くの棚のお菓子でも眺めることにする

 近くにいるせいで、二人の会話も聞こえてきた。


「花宮さんもお菓子買うんですか?」

「うん、買うよ~。これとか美味しいよねっ。君もどう?」

「あ、それ俺も好きです!」

「そうなんだ! じゃあこれは知ってる?」

「これですか? あー、弟が好きで、俺も時々もらったりするんですよねー」


 他愛のない会話だ。

 部外者である俺が、自分の存在を示す必要なんてない。

 でももやっとした。

 そもそも花宮は俺と違って、学年を問わず人気者だ。

 どんな相手と会話していたって、おかしくはない。

 ましてや、気心の知れたクラスメイトだ。

 何カ月も共に過ごしてきた相手に向けるような視線じゃない。

 何考えてるんだ、俺は。

 ちょっと離れよう。

 今は頭を冷やすことが先決だ。

 手にしていたチョコレートの袋を棚へ戻す。

 カレーは……中辛くらいなら、多分食べられるだろう。

 後でもう一度来よう。


「……ところでさ、この後暇ですか?」


 俺の、進みかけていた足がぴたりと止まる。

 他愛もない。

 ただの会話の断片だ。

 にもかかわらず、その一言が俺の足を止めさせた。


「え? それってどういう?」

「俺、今日親いなくって暇なんですよね~」


 ……ん?


「う~ん、私、お友達と遊んでてね。今はその買い出し中なの。またの機会じゃダメかな?」

「あー、そうなんですか。それじゃあ明日は? 明後日でもいいんで!」


 どことなく雲行きが怪しくなる。

 二人の姿は棚に遮られて見えない。

 それでも声色だけで十分すぎるほど様子が分かる。

 男子は妙に熱が入っていて、花宮の返事を待つというより、自分の勢いのまま言葉を重ねているように聞こえる。

 一方の花宮は、いつもの柔らかな口調こそ崩していないものの、どこか返答に困っているような間があった。

 ただの誘い──そう片付けるには、少し強引すぎるのではないか。

 一度断られたなら引けばいい。

 それなのに、日を変え、予定を変え、食い下がるように次の候補を口にしていく。

 なぜそこまで必死になる? と、そう尋ねれば、返ってくる答えはきっと単純だ。

『花宮と話せて気持ちが高揚したから』『もっと仲良くなりたいし、あわよくば――』――そんなところだろう。

 実際、花宮は男女問わず人気がある。

 少し会話を交わせただけでも舞い上がる人間がいても不思議じゃない。

 だからといって、この押し方はどうなんだ。

 相手の都合を聞くというより、自分の都合に合わせてもらおうとしているようにしか聞こえない。

 ……聞いているこっちまで、なんとなく落ち着かなくなる。

 ここで俺なら、すかさず「花宮が困っているからやめてくれ」と割って入る――。

 ……とでも言うのだろう。

 もちろん、それは俺の脳内シミュレーションでの話だ。

 現実にそんな行動が取れるのは、眩しい陽キャだったり、それこそ花宮と仲のいい女子たちくらいだろう。

 俺の立ち位置はクラスでも目立たない隅っこの住人だ。

 むしろ、あの男子の方が友達も多いし、クラスでの立場だって上だ。

 こういう時に限って、人付き合いやクラスでの立ち位置というものが物を言う。

 もう少し頑張っておくべきだったのかもしれない。

 ……いや。

 今さらそんなことを後悔したところで、目の前の状況が変わるわけじゃない。

 友達、か……。

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