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告白とは

 疲れた……。

 テスト期間でさえ勉強漬けになる日はないのに、今日はなかなか頑張っただろう。

 その甲斐もあって進捗も著しい。

 時間も忘れて取り組むのは疲れると同時に気持ちがいいな。

 多分、一人だけであれば長続きしなかったはずだ。

 壁掛け時計へ顔を向けると、時刻は四時過ぎ。

 午後だけでも三時間以上。午前中も含めれば五時間近く机に向かっていたことになる。

 それなら疲れるのも納得だし、地味に腰が痛い。

 花宮の方はどうだろう。

 そう思い正面へ顔を向けると、まだまだシャーペンを走らせていた。

 伏せられた瞳はプリントへと向けられており、俺の視線には気づいていなさそうだ。

 すごい集中力だな。

 俺も負けてはいられない……と思いたいところだが、一度意識が覚醒してしまった以上、すぐにまた集中するのは難しそうだ。

 花宮の気が散らないよう、そろりと椅子から立ち上がってキッチンへ向かう。

 一応お菓子も常備しているし、あとは適当にココアでも淹れて持っていこう。

 戻ってくると、俺が席を外したことにさえ気づかなかったのか、花宮は黙々とシャーペンを走らせていた。

 しかし、音を立てないよう机の前まで移動したつもりだったが、不意に花宮は顔を上げる。


「すみません、気が散りましたか」

「ううん。私も休憩しようと思ってたところだよ」


 花宮は固くなった体を反らす。

 すると、小さくパキパキと音が聞こえた。

 ずっと同じ姿勢を続けていれば無理もない。


「うわっ! もう四時!? 頑張ったな~」


 花宮の目の前にココアの入ったカップを置いてやる。


「わ~、ありがとう」

「一応熱いので気を付けてくださいね」

「ん、ありがとう。いただくね」


 花宮は一口ココアを啜ると、「おいし」と呟いて顔を綻ばせた。


「そういえば花宮さんって、普段もこんなに集中力あるんですか?」

「え?」

「いや、今日ずっと勉強してるじゃないですか」

「んー、どうだろ。家だと結構サボるよ?」

「意外ですね」

「そんなにかな?」


 文武両道な才女がサボると言っても、誰も信じないだろう。

 たまにリフレッシュとして息抜きをすることはあっても、それでも勉強量は凄まじい。

 そんなイメージがどうしても強い。

 あ。


「そういえば語尾忘れてませんか?」


 花宮もすっかり忘れていたようで、思い出した途端に顔を赤らめ始めた。


「い、いいでしょもうそれは!」

「いや、だって昨日、明日一日っていう罰ゲームに決めたのは花宮さんの方ですよね?」

「そうだけど~!」

「じゃあ、忘れ物ですよ」

「ぐぬぬ……。君も言うようになったね……にゃ」


 取って付けたような語尾に、つい口元が緩む。


「笑うにゃ」

「フッ、ふはは――いったッ!」


 横腹を殴られた。

 花宮は意外と手が早いらしい。


「……幸村くんはさ、彼女とか作らないの?」

「急に何ですか」

「ん~、ちょっと気になっちゃって」

「ふぅん」


 なんだ?

 俺だって、できることなら欲しい。

 でも、ちゃんと誰かに向き合って好きだと感じたことはない。

 最も身近にいる異性を挙げるなら、それはやっぱり花宮だが、昨日志崎に話していたように、そういう目で見たことはない。

 意識してしまえば、今の関係が変わってしまう気がする。

 花宮とは今の関係で十分満足だ。

 ところで、なんでそんな質問を?


「昨日ね、告白されたんだよね」


 気が付かなかった。

 いや、確かに変な挙動はあった。

 コンビニへ行った時、その違和感を感じたはずだ。


「別のクラスの子にね~、面と向かって好きですって」


 花宮はモテる。

 多分、俺の知らない中学生の頃や、もしかしたら小学生の頃だって、相当苦労してきたのではないだろうか。

 そんな経験のない俺では、悩みを抱える花宮に寄り添ってやることはできないことくらいわかっている。

 しかし、どうして俺にその相談を持ち掛けたのだろう。

 友達だとしても、花宮にはもっと適任な相手がいるのではないか?

 例えば志崎とか。彼女なら、こういう相談にも慣れていそうだ。

 オロオロすることしかできない俺には、かけるべき言葉が見つからない。


「あ、ごめんね。変な話しちゃったね。やっぱり忘れて」


 今この場に志崎はいないし、俺がすべきことも全然わからない。

 支えるだとか寄り添うだとか、そんな体のいいことを言えるはずがないし、なら、わからないなりに前を向いてみようかと思った。

 と言っても、彼女の目を見つめてやることしか出来ない。

 話したくないのであれば、このまま目を逸らしてくれればいい。

 だが、花宮も俺の目をジッと見つめ返すだけだった。

 短くとも長く感じられる沈黙で、先に目を逸らし、言葉を紡いだのは花宮の方だった。


「断ったこと自体は後悔してないんだ」


 そう言うと、ココアのカップを両手で包む。


「付き合えないのにOKするのも失礼だし」


 誠実であるならば、むしろそれが正解だ。


「でもね」


 花宮は湯気の立つココアを見つめている。


「すごく勇気を出して伝えてくれたんだろうなって思うと、なんだか申し訳なくなっちゃって」


 ぽつりと漏らされた言葉。

 ようやく、花宮が何に悩んでいるのか少しだけ見えた気がした。

 断ったことではない。

 誰かの勇気に応えられなかったこと。

 その事実が引っ掛かっているのだろう。

 

「後悔してないのであれば、それが正解なんじゃないですか?」

「え?」

「だって、花宮さんが嘘ついて付き合う方がよっぽど失礼じゃないですか。それで付き合った時、辛くなるのは自分ですよ」


 少なくとも俺はそう思う。

 相手が喜ぶからという理由だけで好きでもない相手と付き合う。

 そんなのは何か違う気がした。


「……そっか」

「もちろん傷付いてはいると思いますよ」


 それは否定できない。

 勇気を出した結果なのだから。


「でも、それは花宮さんが悪いんじゃなくて、そういう結果だっただけじゃないですか」


 我ながら上手く言えた気はしない。

 けれど花宮は黙って聞いてくれていた。


「少なくとも俺なら、変に気を遣われる方が嫌です」

「幸村くんだったら?」

「はい」

「振られても?」

「まあ、普通にへこみますけど」


 考えると、苦しくはなるよな。


「でも、気を遣われるのも嫌ですね」


 花宮の口元が少しだけ緩む。


「へぇ」

「というか、告白したことないので全部想像ですけど」

「ふふっ」


 上から目線で諭せるような人生を送っていないせいで、最後の方は失敗した打ち上げ花火のように尻すぼみになってしまった。

 けれど、笑ってくれたのであれば、ある少しでも気が紛れてくれた。そう思えばいいんだろうか。


いいサブタイトルが思いつかないサブタイトル難民です…

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