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来訪と罰ゲームの代償

「お、おはよう……にゃん」


 本当に来た。

 朝十時半。昨日の約束を律儀に守るように、花宮は俺の家にやってきた。

 花宮が帰った後、無理はしなくていいとメッセージを送っていたのだが、変なところで律儀なものだ。

 しかも、インターホンを鳴らした時に見たフロントカメラ越しでは付けていなかった猫耳まで付けている。

 そこまでしろとは言っていない。


「ええと、隣人に見られたら厄介なので、一旦入ってください」

「お、お邪魔します……にゃ」


 いつもはもっと朗らかというか快活な花宮が、今日はやけにしおらしい。


「あー、じゃあ今日は何します?」

「……宿題する、にゃ」


 よく見ると、花宮の装備は昨日のような小さなポーチではなく手提げバッグになっている。

 その中に勉強道具が入っているのだろう。


「わかりました。あ、着替えてくるので先にリビングに行っててください」


 寝起きということもあり、俺の服装は部屋着のままだ。

 パジャマや中学時代のジャージではないが、人前で見せるような格好でもない。

 ということで、一旦自室へ戻る。

 花宮が来る前に着替えておきたかったのだが、思ったより来るのが早かった。

 フロントからこの階へ上がってくるのも早かったため、時間がなかったのだ。

 多分、エレベーターが一階に止まっていたのだろう。

 いそいそと着替えを済ませ、筆記用具と宿題を持って花宮の待つリビングへ向かう。

 なんというか、こうもモジモジされると俺までいたたまれなくなってくる。

 悪いことをさせているみたいだ。


「じゃ、じゃあ始めましょうか」

「うん、にゃ」


 おもしろ。

 宿題を始めてから、およそ一時間が経過した。

 黙々と進めていたお陰で、かなり進んだと思われる。

 と言っても宿題の量はそれなりに多く、全体で見れば一割弱といったところだが。

 軽く伸びをしながら時計を見やる。

 時刻は十一時半過ぎ。

 頃合い的にも昼ご飯にすべきだろう。

 昨日の余り物があるし、レンジで温めるだけで済みそうだ。


「食べたいものとかあります?」

「う~ん、シェフのお任せで! ……にゃ!」


 考えるそぶりを見せた後、取ってつけたような語尾と共に結論を出してくれた。

 お任せ、と言うなら今日はパスタくらいが丁度いいだろう。重すぎず軽すぎないし、手早く作れて楽だからだ。

 とはいえ、トマトソースやミートソースなどの汁が跳ねてしまうおそれのあるものはNGだ。

 今日の花宮の服装は白を基調としているため、下手したら汚してしまう。

 そう考えるとカルボナーラあたりが無難だな。


「じゃあ作り始めるので待っててください」

「はーい! にゃ」




 「うわぁ! 美味しそうにゃ」


 いつも通り向かい合わせでテーブルに着くと、二人揃って手を合わせる。


「いただきます」


 フォークでパスタを巻き取り、ひと口。

 うん、美味い。

 麺の硬さもちょうどいいし、味付けも悪くない。

 我ながら上出来だと思う。

 そして――だ。

 さっきから気になっていたことを聞いてみることにした。


「それで、なんで猫耳まで付けているんですか?」

「ん~、雰囲気? お家にあったから付けてきたの……にゃ」


 普通、猫耳なんて家にあるか?

 どこかのテーマパークで売っているようなカチューシャタイプならまだわからなくもないんだが。


「……趣味?」

「違うよ! 昔友達と買っただけだし。別に変な理由じゃにゃい」

「そういう物が常備されているとかってわけじゃないんですね。……へぇ」

「その反応、信じてないにゃ」

「いえ、信じてますよ」

「絶対信じてないにゃ」


 ムスッとする花宮を横目にしつつ、パスタをもう一口。


「あー、食べ終わったらどうします? ゲームします?」

「ダメだよ! 今日は宿題しに来たんだから、ゲームはまた今度にゃ」


 ゲーム好きな俺にとっては少し不満だが、せっかく花宮のおかげで上がった成績を不用意に落としたくはないからな。


「……わかりました」

「ん、偉い偉い」


 花宮は一度フォークを手放し、そのまま腕を伸ばして俺の頭を撫でてくる。

 撫でられるべきは猫耳のあるそっちだろ。

 いや、そこじゃなくて。なんでまた撫でられてるんだ?

 もちろん嫌というわけではないんだが、昨日もそうだったし理由がわからない。

 仕返しだ! とばかりに俺も花宮を撫でれば、それはそれで問題が生じるし、この際固まるしかない。

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