勝負と罰ゲーム
沢山の料理と、花宮が買ってきてくれたシャンメリーに舌鼓を打った俺たちは、ソファに並んでゲームをしていた。
前回はレースゲームだったが、今回は人生ゲームだ。
クリスマスなのに食べるだけでは味気ないと思い、数日前に買っておいたのである。
単純な運だけでなく、戦略も求められるのがこのゲームの特徴だ。
それを証明するかのように――ほら。
俺は花宮に大差で負けている。
勝負は中盤。
俺の総資金は三千万円。それに対して花宮は驚異の二億円だ。
俺が独身なのに対し、花宮はすでに子供を三人連れている。
こうなった経緯は単純。俺が仕事イベントばかりを優先し、恋愛イベントをほぼ無視してきたからだ。
その間に花宮は着実に恋愛イベントを進め、やがて結婚。さらには子宝にも恵まれた。
そのたびに発生するお祝い金や関連イベントによって、俺は何度も金や各種パラメーターを吸い取られ続け、気付けばここまでの差が開いていた。
今日のために買ったばかりで事前に遊んでいなかったのだが、こんなことになるなら少しくらい練習しておけば良かったな。
……いや、それはそれで面白くないか。
ただ、俺だって負けたくない。たとえゲームの中の話であっても、だ。
なぜなら――というか、だって。
すごく煽ってくるのだ。
「わ~、またお金いただきぃ。いや~、幸村くんにも苦手なゲームってあるんだねぇ? あっ、ハンデあげよっか~?」
これ、そういうゲームじゃないんだが……。
最終的に総資金で順位が決まるルールだし、あながち間違いでもないのだが。
なんというか、花宮のイメージがまた少し傾いた気がする。
普段やっているゲームでは、どうしても経験や知識量の差で俺の方が有利になることが多い。
だから多少は仕方ないだろう。
それとも日頃のストレスでも溜まっていたのか。
勉強だとか、人間関係だとか。あるいは俺とのゲームで連敗していたこととか。
まさかとは思うが、ノンアルのシャンメリーの雰囲気に酔ったとかじゃないよな?
現に今も残っていた分を飲みながらプレイしているわけだし……。
まあ、楽しそうではある。
ムカつくが。
終始鼻唄混じりにゆらゆらと左右に揺れており、ご機嫌なのがうかがえる。
「いや、こっからなんで。こっからでも全然勝てるんで」
俺は花宮の目をしっかり捉えつつ、物申す。
負けるのは素直に悔しい。
そんな俺に花宮は口の端を僅かに上げて不敵な笑みを浮かべる。
「ふふん。じゃあ負けた方が罰ゲームね?」
「望むところですよ」
やってやろうじゃないか。
この勝負、負けるわけにはいかない。
「負けた……」
苦しい戦いだった。
あれから一時間。テレビ画面には順位が表示されている。
一位は俺、総資産十一億円。二位は花宮の総資産十億八千万円だ。ついでに三位のNPCは二億となっている。
僅差も僅差で、ゴールがもう少し遅ければ俺の負けだったことは確実だろう。
花宮はソファの背凭れにぐったりともたれかかり、悔しそうにしている。あんなに煽った後に負けたんじゃ、こうもなるよな。
「じゃあ花宮さん」
声をかけると、花宮は露骨にビクッと肩を震わせる。
まだ何も言ってないんだが。
「ば、罰ゲームとしか言ってないし? 何するかって決めてないよね!」
「それもそうですけど。じゃあ何にします?」
「むむむ……。って、私が決めていいの?」
「俺が決めてしまってもいいんですか? もしかしたら花宮さんに不都合なことになるかもしれませんよ?」
花宮は俺の言葉にハッとしたように目を見開く。
さっきまで合っていた視線がふいに逸らされた。
もちろん嫌がるようなことや、嫌われるようなことをするつもりはない。
どちらかと言えば、さっき煽られたことへの仕返しだ。ちょっとした言葉の意地悪である。
露骨に目を泳がせている様子が、見ていて面白い。
「じゃ、じゃあ……」
なんだろう。やけに言いづらそうにしている。
「君が負けた時用に考えてた罰ゲームを、私がする……ってどうかな?」
俺が負けた時に何をやらせるつもりだったんだ。
とはいえ、変なことはさせないと思うのだが。
「ご、語尾ににゃんを付けて、明日一日生活する……」
思ったより可愛らしい罰ゲームだな。
……いや、待て。
それを男の俺にやらせるつもりだったのか?
しかし、明日は土曜日だ。
どこかへ出掛ける予定もなければ、Yuuたちとゲームをする予定もない。
一人で家にいながら語尾ににゃんを付けて生活するのは、一体何のプレイなんだ?
対して花宮は、明日何をするのかは知らないが、出掛けるにせよ誰かと遊ぶにせよ、十分な羞恥プレイになりそうだ。
俺がやるわけでもないし、別にいいんじゃなかろうか。
その罰ゲームを知る俺は、その姿を見ることができないわけだが。
ちょっと惜しいな。
「いいと思いますよ。残念なのは、俺がその罰ゲームを見られないことですけどね」
「どこかに遊びに行ったり、友達と会ったりするんですか?」と、そう聞いてみたが、花宮は俯いたまま何かを呟いている。
声が小さすぎて聞き取れない。
「……え?」
「……じゃあ! 明日も君の家に来るから!」
俯けていた顔を勢いよく上げたかと思えば、羞恥に染まった瞳を潤ませながらそう宣言してくる。
「あ、え、はい? あー、別にいいですけど」
花宮はそのまま勢いよく立ち上がると、持ってきていたポーチをひったくるように掴み、「バイバイ! また明日!」という言葉を残して、足早にリビングから出ていってしまった。
残された俺は、状況を理解できないまま玄関扉の閉まる音を聞く。
完全な静寂に包まれた部屋が、ようやく俺を現実へと引き戻してくれた。
「あ、ケーキ食べてないや……」
すっかり忘れていた。
罰ゲームを決めあぐねた挙句チャッピーに案を出してもらった裏話




