憂いと
文章力が欲しい
楽しかったな。
高校生になって、こうして誰かと遊んだのは初めてだった。
こういう機会をくれたYuuには感謝しかない。
ただでさえ友達作りをしてこなかった俺には縁のない話だと思っていたし、何より相手が二人で良かったと改めて思う。
次もまた、三人でどこかへ遊びに行きたい。
……次こそは、もっと上手く喋れるようになりたい。
そうなればきっともっと楽しいし、今より自然に笑える気がする。
「…………」
そういえば、オフ会も終わったことだし、花宮に連絡を入れないといけない。
家へ向かって歩を進める中、周囲を満たしているのは家々から漏れる灯りだ。
そのどれもが温かみを帯びていて、冷え込んだ冬の夜との対比がやけに綺麗だった。
歩いていると、どこかの家から子供が歌うクリスマスソングが聞こえてきたり、楽しげに談笑する人たちの声が耳に入ってくる。
いわゆるクリぼっちの人たちには、ご愁傷さまとしか言えないが、俺だってそっち側だった可能性は十分にある。
そう考えると、一概に他人事とも言えなかった。
これも花宮には感謝しないとな。
仲良くなれていなければ、クリスマスなんていう一大イベントに誘われること自体、絶対になかっただろうから。
メッセージを送り終え、スマホの画面を落とす。
「さむ……」
急に寒さを意識して、身震いをひとつ。
吐いた息が白く滲む。
雪は降らない予報だったが、ここまで冷え込むと降りそうな気もしてくる。
寒さに耐えかねて、スマホごと両手をポケットへ突っ込んだ。
そんなタイミングでスマホのバイブが鳴る。
入れたばかりの手をまた引っ張り出し、画面を開いた。
『りょうかーい』
その一言と共に、虚無顔のクマがサムズアップしているスタンプが送られてくる。
「ホントに好きだな、これ」
誰に向けるでもなく独り言を漏らし、俺は家路を急いだ。
「ハッピーメリークリスマス!」
俺の家を訪れるや否や、花宮は楽しそうにクラッカーを鳴らす。
パンッと弾けたそれが、辺り一面に紙吹雪を撒き散らした。
「あ、あれぇ? もう少しリアクションあるかと思ったのにな~」
落胆したように肩を落とす花宮だが、これでも十分驚いている。
反応できなかっただけだ。
そもそもタイミングが悪い。
玄関を閉め、背を向けてリビングへ向かおうとした瞬間に炸裂させられても、反応が鈍るのは当然じゃないか?
「えと、驚きましたよ?」
「嘘だ! ならもっと、ビクッとか、ドキッってなるはずだ!」
「あ~……う、うわぁ。ビックリしたなー」
背中をペシペシと叩かれた。
どう返すのが正解なんだよ。
そんなこんなで、花宮をリビングへ招き入れる。
クリスマスだからといって飾り付けをしているわけでもなく、部屋は至っていつも通りだ。
強いて言うなら、テーブルの上にあるクリスマス用のチキンをはじめとした食べ物くらいか。
あとは冷蔵庫の中にひっそりとしまってあるケーキくらいだろう。
「あ、もう準備してくれてた? 私もお手伝いするよ」
既にテーブルには、食べ物の他に二人分の食器を並べている。
あとは切り分けたり、皿に盛り付ければ完成だ。
テーブルのそばまでやって来た花宮は、持っていたビニール袋をテーブルへ置く。
ゴトッという重たい音。
「それは……?」
「あ、これ? これはねぇ――じゃん! シャンメリーだよ~」
シャンメリー。
シャンパンを子供でも飲めるようにしたノンアルコール飲料だったか。
飲んだことはないが、炭酸飲料なのだし、きっと刺激は強いのだろう。
飲むのが楽しみだな。
「かんぱ~い!」
花宮の音頭に合わせ、グラス――ではなくコップを軽く打ち合わせる。
生憎、グラス同士を合わせた時みたいな澄んだ音は鳴らなかったが、雰囲気としては十分だった。
コップの中には、花宮が買ってきてくれたシャンメリーが注がれている。
絶えず泡が浮かび上がるそれは、透明感のある金色をしている。
メインディッシュはローストチキンにオードブル、スパゲッティやサンドイッチ。
あとは適当にサラダやフライドポテトなども用意してある。
オードブルとスパゲッティは一応手作りだが、チキンやサンドイッチは時短のために良さそうな店で買っておいた。
統一感のない料理たちが並ぶ食卓だが、こんな日があってもいいだろう。
それにクリスマスだしな。楽しむのが一番だ。
俺はまずメインディッシュとなるチキンを手に取る、持ち手部分にアルミホイルが巻かれており、手が汚れないのはありがたい。
照り焼き醤油ベースの黄金色で、噛めばジューシーな肉汁が溢れてくる。
恐らく数種類のハーブやスパイスで香味付けられており、香ばしくて濃厚な味わいが感じられる。
旨い。
旨いな。
…………。
去年のクリスマスは一人だったな。
父親はシェフという職業柄、クリスマスは夜遅くまで帰れない。
母親もまた、どこかの企業で社長秘書をしている。中学時代からの友人に誘われ、スケジュール管理の手腕を買われてその立場に収まったらしい。
当然、この時期は会食だの何だので忙しいだろう。
そこそこ広い家に一人きり。
はっきり言ってしまえば、寂しかった。
今年は違う。
目の前に人がいる。
初めてできた、大切な友人だ。
改めて――いや、改めて考えるようなことでもないのかもしれない。
そんな時、不意に口から言葉がこぼれた。
「ありがとう」
どうしようもなく行き場に困った言葉が、たった五文字になって漏れ出した。
すごく掠れたような弱弱しい言葉ではあったが、花宮は聞き取れたらしい。
花宮は、直前まで美味しそうにスパゲッティを食べていた手を止める。
少しだけ目を見開き、口へ運ぼうとしていたフォークが宙で止まった。
突然のことに驚いたのだろう。
急にそんなことを言われれば、俺だって驚く。
もしかしたら、少し困るかもしれない。
失言だったかもな。
その証拠が、今の沈黙だ。
いたたまれなくなり、撤回しようと口を開きかけた、その直前だった。
花宮はスパゲッティを巻いたフォークを皿に置く。
カチャリ、という音がやけに鮮明に聞こえた。
そして彼女はゆっくりと立ち上がると、何を思ったのか、テーブルを挟んで座る俺へ向かって身を乗り出してくる。
そのまま花宮の手が俺の頭――髪へと触れた。
優しくすくように動く手に、戸惑いながらも不思議と抵抗はなかった。
のばされた腕に隠れているせいで、彼女の表情はよく見えない。
何を思って撫でてきたのか。
真意はわからない。
ただ、手が離れるまでの十数秒が、ひどく長く感じられたのは確かだった。
幸村颯人
立ち位置:主人公
家族構成:父 母 犬(コーギーのムー太郎)
ゲームの通名:ムー太郎
容姿:少なくとも社交的で明るい性格であれば普通にモテるタイプ
身長:169cm THE 普通
誕生日:8/25
一人称:俺
モデル:なし
人間関係:花宮詩乃→大切な友達
志崎紗奈(Yuu)→ゲーム友達
新田翔(Arata)→ゲーム友達
担任評価:可もなく不可もない静かな生徒。人間関係がやや不得手に感じられ、大人数にあまり属さない傾向にあります。ただ最近は、成績の伸びが著しく感じられます。




